原住民との出会い
ケーキの甘い匂いに釣られて姿を現した監視者は背丈で言えば10歳ぐらいの子供のようだ。
動物の毛皮で作られた衣服を身に纏い、腰に差されたナイフが子供といえど武装の必要がある環境ということを教えてくれる。
体毛は濃く全身を覆っているようだ。
そして頭の上部に突き出る耳らしきもの。
お尻からは尻尾まで生えている。
Drレッドから聞いたことがある『ケモミミ』と言う奴だろうか?
戦前は地球にも存在していたらしい。
その話をするときのDrレッドの遠くを見つめる目が印象に残っている。
「画像を記録してDrに送って置いてくれ、意見を貰いたい」
「了解しました」
俺とミラは彼? から一定の距離を保ち、その様子を観察していた。
「@&$#%?」
聞きなれない言語が彼の口から放たれる。
「何て言ったか分かるか?」
「解読にはもっとサンプルが必要です。何か適当に話してみてください」
「分かった」
俺は自分の胸に手を当てて「マコト......マコト......」と繰り返した。
そしてミラを指さして彼女の名前を繰り返す。
「#&$マ......コト? ミ......ラ?」
「そうだ、マコトとミラだ」
「マコト、ミラ。......ゼフ」
「君はゼフって言うのか?」
俺の言葉に彼は小さく頷いた......。
****
ゼフとの出会いから数日が経った。
画像を受け取ったDrレッドの興奮振りは凄まじく思わず通信を切ってしまったほどだ。
言語の解読も進み、ゼフからこの土地の情報を集め始めているが彼も多くは知らないようだ。
この地には俺のような人間の他にゼフのような獣人達、それ以外だとエルフと呼ばれる人間に似ているが耳が長く美しい容姿をした種族。
背が低く力が強く鍛冶が得意なドワーフ。
そして翼と角を持つ妖艶な姿をした魔族。
魔族と同じく角を持つが翼はなく勇猛な鬼族などが居るらしい。
他にも様々な種族が居るらしいがゼフは同じ集落に住む獣人以外だと人間しか見たことしか無いらしい。
その情報を落ち着きを取り戻したDrレッドに伝えたところ興奮の余り回路が焼き切れてしまったようで通信が途絶えてしまった。
長い付き合いになるが、こんなにも彼が興奮するのは初めての事だった。
そして俺たちはゼフの話から『魔法』というものの存在を知ることになる。
「マコトは魔法使いじゃないの? ミラは貴方の精霊でしょ?」
「精霊ですって。なんだか嬉しいですね」
ミラはゼフにそう呼ばれ嬉しそうに身体を揺らす。
「何だ精霊って? ミラは知っているのか?」
「神秘的な存在とデータにあります。地球では遙か昔に居たかもしれないと記録されていますね」
「なるほど。じゃあ魔法使いっていうのは?」
「精霊と同じように遙か昔に存在していたかもしれない神秘の力を使う者達の総称です。過去の地球では尊敬されると同時に危険視されていたようですね。一説では30歳を越えても女性との経験がないとなれたそうです」
残念ながら俺は15の時に女性と経験してしまっている。
年上のお姉さんとの一夜は大事な思い出だ。
まあ、ゼフから聞いた話から考察できる文明レベルでは俺のやっていることは魔法のようにも見えるのだろう。
「ゼフは魔法は使えないのか?」
「少しなら使えるよ。ほら」
そう言って差し出した指先に火が灯る。
「おお! 凄いじゃないか」
「マナライトの消費により現象が起きていると推察します」
「でも僕たち獣人は魔法は得意じゃないんだ。その代わり『しんたいのうりょく』に優れているって姉ちゃんは言ってたよ」
「さあゼフ、ケーキが焼けましたよ」
「やったあ!」
「今日は少し血を貰っても良いかしら? 少しチクっとするだけ」
「うん、大丈夫だよ」
そう言って美味しそうにケーキを頬張るゼフの腕にミラのマルチアームが伸びていく。
「痛かった?」
「少しね、でも全然平気だよ。......そろそろ帰らないと。姉ちゃんに怒られちゃう」
「ああ、また来いよ」
「待ってますねゼフ」
「うん、じゃあねマコトさん。ミラ」
ゼフは手を振りながら森へと消えていく。
そして暫くの時が過ぎた。
「どうだ?」
「発信機の状態は良好です。ここから10Kmほど行ったところで動きは止まりました」
「じゃあ、見に行ってみるか」
「はい」
ゼフを疑う訳では無いが、人を信じる愚かさも身に染みている。
俺とミラはゆっくりと森の中へと足を踏み入れていった......。