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通信

 地球とは別の星と思われる場所に転移して数日。

 俺とミラは核戦争によって荒廃した地球とは違い、自然溢れるこの星での生活を満喫していた。


「ご主人様、センサーに大型の動物の反応があります」


 それなりに立派になってきた小屋で、のんびりと釣り竿を作っていた俺はその言葉に警戒を強めると共に思わず口の中に涎が溢れるのを感じた。


 肉だ!


「数は?」

「大型が1、それよりもやや小型の物が2です。親子でしょうか?」


 親子という言葉に躊躇いが生じる。

 だが弱肉強食は自然の習い。


 俺は気を引き締め銃を握り直した。


 川の向こう岸の木々の間だから大きな獣が姿を現す。

 かなりの大きさだ、情けを掛けている場合でもなさそうだ。


「あれが子供のようです」

「え?」


 そう言うが早いか地面を揺らしながら木々を薙ぎ倒して親と思われる獣が姿を現した。

 言うなれば巨大なイノシシ。


 大木のような牙を天に突きだし大型トラックほどの巨体を進めてくる。

 思わず自らの手に治まる銃に視線を落とし、とても小さく感じる愛銃を握りしめた。


「敵対する様子はありません。どうしますか?」

「や、やりすごすか」

「了解しました、警戒を続けます」


 地球でも獣と対峙したことはある。

 多くの場合、彼らの目的を邪魔しなければ敵対することはない。

 その目的が食料でなければだが。


 どうやら巨大イノシシの親子は水を求めているだけだったようだ。

 お互いに警戒したまま、たっぷりと水を飲んだ彼らはゆっくりと森へと帰っていった。


「ふぅ」

「あんなに巨大な生き物は地球にも居ませんね」

「ああ、驚いたよ」


 それから数日おきに彼らとは出会うこととなる。

 馴染めば少し可愛くも見えてくるから慣れとは恐ろしいものだ。


 子供に向けて果物を投げれば美味しそうにそれを食べている。

 親イノシシも最近は警戒を和らげているように感じてきた。


 恐らく川の向こうが彼らの縄張りなのだろう。


 探索の結果、川のこちら側にも大型の獣の存在が確認されたが、ここら辺は活動範囲では無いようだ。


 遠目に見た姿は巨大な熊のような獣......。

 違いは、その大きさと手の数だろうか。


 ミラの分析では手持ちの武器では厳しい戦いになるそうで、俺の感覚でもそれは同じだった。



 それから何度目かの彼らとの面会で、子供の1頭が足を引きずっていることに気づく。


「どうやら足を怪我しているようです」

「治せるか?」

「詳しい診察が必要ですが彼らが近づくことを許してくれるかどうか。それに知識はありますが彼らに適応できるか分かりませんし、手持ちの物資も少ないです」

「......後ろで警戒していてくれ」

「......はい。気を付けてくださいね」


 ミラは心配そうな声で返事を返した。

 恐らくは俺の行動に反対なのだろう。


 だが反対の意志を示さなかったのは彼女もイノシシの子供を助けたいと思ったのだろう。


 俺が銃を置いて両手を上げると、ゆっくりと川を反対岸に向かって進んでいった。

 親イノシシが警戒を強めるのが分かる。

 だが、動くことなく鼻を鳴らしているだけだ。


 無事な子供の方は俺の方に近づいて頭を下げるとスンスンと匂いを嗅いでくる。

 子供でも俺の背丈ほどの大きさだ。


 鋭い牙で突かれればひとたまりも無いだろう。


 もう1頭の子供も足を引きずりながら近づいてくる。

 近くでみるとその傷の深さがかなり深いことが分かった。


 俺の意志を感じ取ったのか親イノシシは一歩下がり頭を少し下げる。


「ミラ来てくれ」

「はい、ご主人様」


 そして治療が始まった......。


 親イノシシが鼻先で子供イノシシの頭を心配そうにさする中、痛むだろうに子供イノシシはそれに耐え鳴き声一つ上げなかった。


「地球の薬がどれほど効くか分かりませんが、処置は完了です。今後の経過を観察していきましょう」

「ああ、ありがとう」

「いえ、貴重な体験でした。血液サンプルも手に入りましたので分析しておきます」


 子供イノシシの傷はミラの予想よりも早く順調に回復していった。

 彼女曰く「早すぎる」との事だった。


 血液から採取された未知の成分が影響しているのかもと言っていてDrレッドと連絡が取れないことを惜しんでいた。


 ちなみに、その未知の成分は大気中や水、ありとあらゆる場所や物に微量に含まれているらしい。


 俺の血液も定期的に採取しているが、ごく微量に混ざり始めているらしい。

 

「大丈夫なのか?」

「現時点では何とも言えません。もっと機材があればいいのですが」

「そうだな、せめてDrと連絡が取れればな」

「あ! 何か通信が来ました! 回線を開きます」


「......こちら......レッド。き......こえるか?」

「おお! 博士! 聞こえるよ!」

 俺はミラの身体を掴んで叫んだ。

 

「ああ、良かった。無事なようだね。まだ不安定だが通信は可能なようだ」

「一体ここはどこなんだ?」

「済まないが、それはこちらにも分からない。どうやら次元すら違う可能性もある」

「次元?」

「そうだ。君たちが居る場所はまるっきり違う世界ということだ」

「か、帰れないのか?」

「......分からない。どうやら実験の時にそちらの世界から何らかの干渉があったようなのだ。研究所に残された未知の成分が2つの世界を繋ぐ鍵になりそうなのだが量が少なくて調査は難航している」


「Drレッド、その成分のデータは送れますか? こちらで採取した成分と比べてみます」

「流石はミラだな、そちらでの採取を頼もうと思っていたところだ。すぐに送るとしよう」

「ありがとうございます」

「それと通信には未知の成分を媒介にして可能となる。その方式も併せて送るので組み込んでくれ」

「了解しました」

「では安全を祈っているよ......」


「......通信は切れたようです」

 

 ミラの言葉が終わり、川の流れる音だけが周囲に流れる。

 元の世界との僅かな間の接触。


 Drレッドの無事も確認出来たし地球に帰れる可能性も出てきた。

 もしかしたら、この世界に他の人間も来れるかもしれない。


 だが、それには途方もない量の未知の成分が必要になると、この後ミラに告げられるのだった......。 


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