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電化製品

 森と平原の狭間にある街『ポルトー』

 豊富な森の資源を中央に運ぶための中継都市で、街は交易を中心にそれなりに栄えている。


 街の中心にある広場。

 その一角には街でも珍しいほどの人だかりが出来ていた。


「さあさあ! 世にも珍しい魔力を使わない魔道具だ! 試し撃ちは1発、銀貨1枚! 残りも少ないから早いもの勝ちだ!」

 俺から『粗末な拳銃』を預かった商人の一人『モロフ』が口上を述べながら銃口を天に向け引き金を引いた。


 広場に響く発砲音は嫌でも人目を引く。


「面白そうだな、やらしてくれ」

 髭面のおっさんが、少し距離を取って集まっている人混みから進み出た。


「1発、銀貨1枚ですぜ」

「ほら」

 モロフは銀貨を受け取ると、銃に弾丸を装填し直して男に渡した。


 モロフ達が作った簡易の射撃場には古ぼけた鉄の兜や鎧が的代わりに置かれている。


「あれを狙うのか?」

 髭面のおっさんは片手で銃を構えた。

 モロフが銃を撃つところを見ていたので、大体の撃ち方は分かるようだ。


「両手で持った方がいいですよ。あと反動で顔に当てないように気を付けてくだせえ」

 モロフは相棒の顔に目線を向ける。


 相棒の顔には鼻に傷跡があり赤く腫れていた。


「う、うむ」

 髭面のおっさんはそれを見て両手で銃を持ち直すとしっかりと狙いを付ける。


 広場に銃声が響き、銃口から飛び出した弾丸は鉄の鎧を凹ませて穴を開けた。


「おお!」

「すげえ、鎧に穴を開けたよ」

「なんか仕掛けがあるんじゃないのか?」

 周囲の人混みから歓声とざわめきが漏れる。


「はは! こりゃ凄いな。......まあ、兜を狙ったんだけどな」

 撃った本人にはその手応えから何の仕掛けもなく、鎧に穴が開いたのは先端から飛び出した弾丸の仕業だと分かっているようだ。


「まあ、何かに当たるだけ良い方ですぜ」

 モロフはそう言って天井の穴を指さした。


「こいつはいくらだ?」

「まだ売り物じゃないんですよ。今は宣伝ってとこですね。今度の仕入れで入荷しますんで」

「そうか。......その入荷分これを手付けに予約させろ」


 髭面のおっさんはそう言って大金貨を1枚モロフに投げた。


「大金貨が手付けとは、剛毅ですね。金額は聞かなくても?」

「ああ、いくらでも払ってやるさ」

「名前を聞いておきましょう」

「ドルガンだ」

「覚えておきやす。これが手付けの預かり証で」

「ああ」


 髭面の男は預かり証をモロフから受け取ると人混みへと消えていく。

 その後も射撃場には弾丸が無くなるまで人だかりが出来ていた。


 そして3枠しかない銃の予約はすぐに埋まった。


****


 その頃、森の川辺では......。


「ほっ! はっ!」

「やぁっ! たぁ!」


 木の枝を持つ男と少年。

 その2つの人影が素早く交差しては離れていく。


「やるなゼフ」

「マコトさんもね」


 木の枝を武器に見立てた模擬戦闘。

 2人共、余裕を見せながら楽しむように汗を流していた。


「2人とも、休憩いたしましょう」

「よっ!」

「あっ!」


 俺はミラの声に反応し、一瞬出来た隙を突いてゼフの枝を宙に跳ね上げた。

 

「ずるいよ!」

「油断大敵だ」

「そうよゼフ。すぐ気を抜くんだから」


 ゼフの非難の声に答えた俺にマニも同調する。


「ちぇ~」

「でも凄いですね、子供とは言ってもゼフと互角以上の戦いをするなんて」

「確かに獣人の身体能力ってのは凄いな。驚いたよ」


 ミラに渡されたタオルで汗を拭いながらマニの言葉に応える。

 ゼフほどの腕前は地球には数えるほどしか居ないだろう。

 しかもゼフはまだ子供だ。


「次は姉ちゃんがやってみてよ!」

「......私はいいけど」

「是非やろう」

「はい!」


 マニは笑顔で答える。

 この笑顔をDrレッドに送ったら卒倒するかもしれない。

 そんな眩しい笑顔だった......。



「ちょっ! うわっ!」

「はっ! やっ!」

 予想以上にマニは速く、強く、技も洗練されていた。


「ぬおっ! これで、どうだ!」

「てやぁぁつ! ......やりますね、マコトさん」

「マニもな」


 俺に手を抜く余裕は無かった。

 だが、それでも勝てない相手では無かった。


「少し本気を出すぞ」

「......どうぞ」


 俺の雰囲気が変わったのを感じたのか、マニの表情も引き締まる。

 そして、一瞬の交差。


 マニの身体は宙を舞っていた。


 彼女はくるりと回って着地をする。

 俺の攻撃はダメージを与えるものではなかったが、それをかわせなかった事で敗北を察したのかマニは武器代わりの木の枝を地面に置いた。


「凄いですね、何をされたのかも分かりませんでした」

「す、すげえやマコトさん! 全然見えなかったよ!」

「正直、危なかったよ。マニも凄い腕前だな」

「勝つ気だったんですよ。でも人間に負けたって言うのに全然悔しくないです。マコトさんは不思議な人ですね」

 

 マニがそう言いながら熱の籠もった瞳で俺を見つめてくる。

 なんか良い雰囲気だな。


「ご主人様、Drレッドから通信です。無視しますか?」

「......いや、無視は可哀想だろう。繋いでくれ」


 マニは我に返ったように恥ずかしそうにしながら俺から離れる。

 そしてニヤつくゼフの頭を叩いていた。


「こちら異世界。どうぞ」

「こちら地球。マナライトのエネルギーを利用した発電機を作成した。送るので使ってみてくれ」

「了解。感謝します」

「まあ試作段階だ。起動時は離れて置いた方が良いぞ」


 最初は風力や太陽光を利用した発電機を頼んだんだが、それならばとDrレッドの発明魂に火が付いたようで、今回のマナライト発電機の開発となった訳だ。


「どうだミラ、マナライトは足りるか?」

「はい、大丈夫です」

「じゃあ転移してくれ」

「了解しました」


 ミラがそう返事をすると、彼女の正面から地面に光が伸びていき円を描く。


「魔法陣?」

 それを見てマニはそう呟いた。


 円の大きさは地球にある転移装置と同じ大きさ。

 転移できるのはそのサイズまでだ。


 そして地上に描かれた光の円が輝きを放つと、そこには小型の発電機といくつかの機材が置かれていた。


「無事、成功です」

「届いたかな? 一応電化製品や照明も送って置いた。使ってくれ」

「ああ、届いたよ。ありがとう博士」

「Drレッドと呼びたまえ」


 その日の夜。 

 ゼフとマニは魔法ともロウソクとも違う輝きを放つ照明に大いに興奮していた......。

 

 そしてミラも料理の幅が増えると左右に揺れて喜びを現していた。  


   

      


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