僕の目は見えない。
僕の目は生まれつき見えない。真っ黒な世界。一度でいいから外の世界を見てみたい。綺麗な景色や食べ物をみてみたい。
少しだけでもいいから、一度だけ。
医者からは「何か大きな感動や強い刺激を受けた時、目が見えるようになるかもしれない」と言われ、親から様々なところに旅行して聞いたり、感じたりしたけど治ることはなかった。
そんなある時、僕は病院である女の子を見かけた。見かけたというよりも聞いた。彼女が子供と話している声を。
一目惚れみたいな感じで。声を聞いただけで好きになってしまった。彼女は優しさに溢れでているような声を出して笑っていた。
僕は彼女に恋をしてしまった。
勇気を振り絞り、彼女に声をかけ毎日、話をするようになった。
とある日の夕方ごろ、まだ夏の季節が漂う秋に僕と彼女は屋上で夕日を見ることにした。当然僕は見えない。でも、感じた。夕日の温もりを。
「綺麗だな。」
「見えないのにわかるの?」
彼女はそういった。僕は即座に答えた。
「うん。見えないけど感じるんだ。……なんというか温もりというか温かさみたいなものを」
「ふーん。」
彼女はまるで興味がないかのようにあっけない返事を返したけど、僕のいい思い出になった。
「明日もまた来ようね?」
「明日? うん、わかった!」
彼女は嬉しそうな声で言う。
でも、明日は来なかった。朝起きると、深夜に彼女は息をひきととっていた。僕は病室のベットで大泣きした。何分も何十分も、少し落ち着いて、病室から見える海を向き、そうっと目を開ける。
綺麗な海が見える。見えるはずないと思っていた目が見える。嬉しいと同時に、僕の目からは悲しい涙が溢れ出て止まらなかった。
彼女は死は僕にとって強い刺激だった。