2日目深夜
長くなってしまったので、真夜中の出来事と分けました。
深夜12時過ぎ。
昨日の夕方から始った座敷での「宴会」は、まだ続いていた。
この頃になると各自好き勝手に飲み、歌い、騒ぎ、酔い潰れ高いびきをかいている。
その中で酒を飲まない静伯母さんと翔が酔い潰れた伯父・伯母達の介抱をしていた。
京は気がつけば居ない。いつも通り、どこかへ逃げたんだろう…
弟は昔から酔っ払いと巌伯父さんが苦手だ。
酔うとすぐに本家の自慢話が始まり、伯父の「輝かしい武勇伝」を延々と語らい始める。
他の伯父・伯母達は慣れているせいか、巌伯父さんの話を「ハイハイ」と流してはやり過ごすが、
酒を飲まない京の場合は「宴会始まったらこっそりとどこかに逃げる」のが常となっていた。
父と母も頃合を見て部屋に戻り、残っているのは家族では俺だけだった。
…そのせいで、俺が酔ってクダを巻く親戚達の相手をしなければいけなくなったのは、やはり納得がいかない。
今も酔った4男叔父に絡まれ、愚痴を聞いている最中だ。ほとんど聞いてはいないが。
「~てことがあってさぁ…いいよな康太君は。理紗子ちゃん、良いお嫁さんもらったよな。
ウチも最初はあんなにおとなしくて可愛かったのにさー…今じゃ鬼婆だし…」
「…………」
(なんでこんな事になっているんだろう…)
少し頭が痛くなるのを感じつつも、俺は適当に相槌を打って話を聞いている振りをしていると、静伯母さんが俺を呼んでいる声が聞こえた。
「叔父さん、呼ばれてるからまた」
叔父は愚痴を聞いてくれる相手がいなくなる事にやや不満そうだったが、俺はこれ幸いと叔母のいる台所へと向かう。
叔父はすぐに近くにいた翔を捕まえてまた愚痴り始めたようだ。
翔の相槌が聞こえる。
「伯母さん、どうしたの?」
「康ちゃん、酔っ払いの相手していて疲れたでしょう?
後は伯母さんと翔がやっておくから、もうお部屋に戻りなさい」
「でも…」
「大丈夫、翔もいるしおばさんも慣れてるから。康ちゃんも、あんまり遅くなると明日が辛いから、ね?」
「伯母さんがそう言うなら…」
あの場所から逃げたかったのは本音だが、伯母さんと翔だけに任せるのは心配だった。
でも、伯母は心配ないからと言い張り、結局俺は部屋に行く事にした。
部屋に戻ると、もう両親も弟も寝息を立てていた。
薄明かりの中、俺は家族を起こさないようにそっと歩くと、携帯だけ持って廊下に出た。
誰も来なさそうな廊下の隅で、理紗子が待つ我が家に電話をかけた。
プルルル…と呼び出し音が鳴り始める。
もしかしたら…という淡い期待と、もう寝ているだろうなという現実的な思い。
ガチャリという音と、無機質な留守電のアナウンスが耳に響く。
…やっぱり、理紗子はもう寝ていたようだ。
少し残念に思いながらも、ピーと言う音の後にメッセージを吹き込む。
「もしもし、理紗子?もう寝ているかな。明日…いや、もう今日だな。
6時にはそっちにつくから、家に着くのは7時くらいになるよ。
迎えは大丈夫だけど、夕飯は家で理紗子と一緒に食べたいな。
それじゃ、また夜に」
言い終わるとすぐに電話を切る。
留守電は苦手だ。なんだか大きい独り言を言っている様で、少し恥ずかしい。
理紗子の声が聞けなかったのは残念だが、もうかなり遅い時間だし、仕方がない。
俺は部屋に戻り、布団に潜ると疲れが出たのかそのまま寝てしまった。