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とある夫婦の日常  作者: 茉莉 清香
とある旦那様の日常
5/7

2日目

遅くなりましたが、旦那様side2日目です。

3日目は1/1~2日の間に投稿します。

豆電球の淡い明かりの中、時計を見ると深夜12時過ぎ。

隣の布団では、弟の(ケイ)がぐっすりと眠っている。


「…ちゃん………へへっ」


寝言を言いながら笑ってる(ケイ)を見ると、デレっとした…満面の笑みを浮かべている。

どうやら良い夢を見ている様だ。

そんな弟を横目に、俺は布団の中で目を瞑りながら、ゆっくりと昨日の事を思い出す。


―今日…いや、昨日は散々だった。

従兄の翔が迎えに来て、伯父の家(本家)に行ったまでは良かった。

父の兄である伯父・桜木 (いわお)と伯母である妻の(しずか)に挨拶を済ませた。

昔からこの2人は良くも悪くも印象が変わらない。

(いわお)伯父さんは一言で言えば頑固オヤジ。面倒見が良い所もあるが、あんまり融通が聞かない。

亭主関白と言うより、単に我侭なだけだと思う。

(しずか)伯母さんは名前の通り、口数が少なくおとなしい人だ。…少なくても、伯父の前では。

伯父の居ない所では良く笑い、良く喋る。母とも気が合う様だ。何だかんだで演技派なのかもしれない。


静伯母さんに案内された部屋に荷物を運んだ後は、自由時間…の筈だった。

そこからなぜか翔から作業着らしきものを渡され、あれよあれよとなぜか3人で畑仕事をする羽目になった。

翔が畑にいたお婆さん達に声をかけて、俺達を従兄だと紹介してくれた。

気がつけばお婆さん達に囲まれ、やれ良い男だ、爺さん(夫)の若い頃に似ている、あと60年若かったら私も…等と好き勝手に言われていた。

京は笑顔で対話していたが、俺は正直どうして良いかわからずに、暫くされるがままになっていた。


その後は翔やお婆さん達に畑でやり方を教えてもらいながら、耕したり種を撒いたり重い物を運んだり…

慣れない事をしていたせいか、時間が過ぎるのが早かった。


そんなこんなで(ケイ)は疲れ果てたのか、いつもよりずっと早く寝てしまった。

俺も疲れてはいたものの、なかなか寝付けずに今に至る。


こんな時に思い浮かぶのは理紗子の事。1人、家に残してきてしまった妻。

今頃はどうしているんだろうか…不安でもある。結婚してから今まで1人にした事は無かった。

それに…理紗子は寂しがり屋だから。できるなら、早く帰りたい…

俺は強く、そう思った。





「…き。兄貴、起きろって」


(ケイ)の呼ぶ声で目を覚ます。起きれば朝の7時前。

どうやらあの後、眠ってしまったようだ。

気がつけば身体中が筋肉痛だ。きっと昨日の畑仕事のせいだろう。


「おはよう、ケイ…母さんたちは?」


「もう着替えて居間にいるよ」


「そうか。すぐ行く」


「じゃ、俺先に行ってるから」


「わかった」


短い会話を終えると、洗面所で顔を洗いすばやく身支度を整え、親族が集まる居間へと足を運んだ。


「すみません、遅くなりました」


伯父夫婦に声をかけ、軽く頭を下げる。


「いや、いい。早い時間だからな。おい静、康太に茶を淹れてやれ!」


伯父はそう言うと、伯母はこくりと頷いて台所へと向かう。

途中、立ち上がった伯母と視線が合う。


(おとなしく座って居なさい)


そんな感情の込もる目に、俺はそのまま父と母の横の開いたスペースに座る。

いつもの本(伯父)家の日常。自分達とは違う、他家の日常。

家が変われば、日常も変わる。わかってはいるものの、ちくりと心が痛んだ。


静伯母さんに淹れてもらったお茶を飲みながら、テーブルを見回してみる。

今日集まっているのは父の兄弟 (本家の長男伯父・他県の次男伯父・4男叔父)とその妻である伯母達。

子供達まで来ているのはうちのところだけ。


皆本家とは遠いし、本家伯父の言葉もあって来るのを止めたと言うのが正解だろう。


お茶を飲みながら皆で談笑していると、玄関を明ける音と声がした。


「おはようございます、桜木さん」


どうやらお坊さんが来たようだ。時間はきっちり7時半。


伯母が玄関まで迎えに行っている間、全員で仏間に座る。

その後お坊さん、伯母の順で座る。

お坊さんの挨拶の後、祖父の13回忌が始まった。






13回忌が無事に終わり、礼装から普段着へと着替えると、母と伯母達が朝食の準備を始めていた。

台所とその周辺がとても賑やかだ。

伯母達は役割分担しているようで、2人で料理を作り、盛り付け、2人で運び、1人は洗い物をしている。

母は配膳担当の様だ。


「ほら、康太はケイの隣にでも座りなさい。お義兄さん達も、もうご飯ですからちゃんと座っててください」


お互いの近況等を話し込んでいた父と伯父達は、母のその声で。それぞれの席に着く。

そこへ母と叔母が料理を運ぶ。


「おー、美味そうだな」


「朝から豪華ですね、お義姉さん」


「さすがはお義姉さん、料理上手だなー…ウチのとは違って」


一番下の叔父がそう言った途端、


「なんだって!?」


という叔母さんの怒声。


「いやぁ、お義姉さんも君に負けず劣らずの美味しそうな料理を作るなぁって…」


「何だと!本家の嫁である静の料理を馬鹿にするな!」


今度は本家叔父に怒鳴られ、すっかり萎縮する叔父さん。

そこを翔が間に入り、伯父を宥めている。


「…口は災いのものだよな」


「ほんとにな…」


段々とうるさくなってきた伯父達とは顔を合わせないようにしながら、俺と京は小声でそんな会話をしていた。






昼。あれから長男伯父と逆切れ?し始めた4男叔父を口達者な次男伯父が仲介をし、どうにか収まった。

仲直りした伯父達は昼食後、しばらくしてから酒を交わし始め、結局そのまま宴会へと突入した。


朝の長男伯父のあの反応は、「本家の嫁」を貶されたから怒ったのか。

それとも「自分の妻」である「静叔母さん」を貶されたから怒ったのか。どっちなんだろうか。

…俺なら間違いなく後者だ。どんな理由であれ、理紗子を貶されるのは許せない。


そこまで考えて、深い溜息を吐く。


「……あと1日」


明日の夜には家に着いている。

そう思うだけで、俺は頑張れる気がした。


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