第9話 ご主人様とメイドさん
「ジパングから直接魔王を倒しに行ったらだめだったのか?」
ジパングから北へ、守り町アインに行く途中の道だった。
「……君は馬鹿かい?」
「ひどい……」
「君の能力は最強だ」
「うん」
「でも君自身は戦闘経験が少なすぎる。君、ボクと旅する前はなにやってた?」
「えっと……掃除のバイトだろ、新聞配達だろ、道路補修、チラシ配り、ティッシュ配り、飲食店ではキッチンとフロアどっちもやってたし……あと店長もやったことあったな……」
「君経験豊富だな……」
「ご主人様恐るべし……」
「すごいですね……」
みんな苦笑いだった。
「ほかには麻雀の代打ちも……あとは漫画家のアシスタントに……」
「あー……もうそれはいいよ。魔物とは何回くらい戦ったことがある?」
「パレードの設備のバイトも……え?魔物?うーん……3回くらいかな?」
「クランは?」
「数えてない……」
これは遠まわしに数えてたらキリがないと言っているようなものだった。
「俊、わかったかい?これが差だよ」
「よくわかった……」
俊は落ち込んでしまった。
「し、俊様、ほら。見えてきましたよ?」
落ち込んだ俊をはげますために髪の毛を切った雫が指差す。
「新しい町だ!」
一瞬で俊はテンションがあがる。
「君は本当に早いな……」
夜があきれていたが俊はそんなの気にしない。
「うお……」
町に入った途端俊は見とれてしまう。
守り町アイン。
この町はおしゃれな町だった。
芸術的な建物が所せましと並べられている。
しかしそんな窮屈に並べられていても、その景観は損なわれることはなかった。
「俺が汚く見えてしまう!」
「そんなこと言わなくていいから……」
「宿の手配終わった……」
「「「早い!?」」」
「万能ですから」
とりあえず俊たちは宿に向かう。
「一部屋でよかった……?」
「……ボクは何も言わないよ。うん……広さは十分だしね」
「私も慣れたから大丈夫……です」
もちろん俊は何も否定しない。夜と雫はあきらめたような感じで肯定した。
「さて、やっと一息いれられるし……雫、髪の毛切りそろえちゃおうか」
「あ、おねがいします」
夜は雫の髪の毛を切りそろえる作業に集中してしまう。
「じゃあ俺は町でも見てこようかな」
「お供します……ご主人様」
さっきから町を見たくてうずうずしていた俊はクランとともに町へ出る。
「ご主人様……」
「ん?」
「これって……でーと……ですか……?」
「うーん……デートならこうじゃないか?」
3歩後ろを歩いてたクランを俊は隣に引き寄せる。
「てか、3歩後ろ歩くなんてどこから学んだんだ……」
「これ……」
『今日からあなたも一流メイド』という本をとりだすクラン。
「誰に需要ある本なんだ……」
「これで……でーと……?」
「そうだな。クラン、どこ行きたい?……金ないけど」
「ご主人様……そんなこと、でーと中に言っちゃいけないです……」
「俺、デートなんて初めてだしな……」
「……私も初めて」
「よし、やり直そう」
「はい……」
「クラン、行きたいところあるか?」
俊はさわやかな笑顔でたずねる。
「ご主人様の行きたいところでいいですよ……?」
「今日はクランの行きたいところに行きたい気分なんだ」
「わかりました……」
「ご主人様、似合いますか……?」
「…………」
「あ、ご主人様はこっちのほうが好みでしたか……?」
服を試着しているクランに俊は何も言えずにいた。
しかしクランは常にメイド服。つまり今試着しているのもメイド服だった。
「もう……ご主人様聞いてます……?」
クランは頬をふくらませながら俊を見る。
いつもの俊ならすぐに『かわええ!』と反応できだだろう。
しかし今の俊にそんな余裕はなかった。
「……クラン。すごく言い難いんだが……違いがわからん……」
俊の言うことは正しかった。
デザインが同じメイド服を何回も見せられているのだ。
「じゃあ……説明します……。こっちが通気性を考慮したメイド服……こっちが機動性を考慮したメイド服……こっちが防弾性に優れたメイド服……これは空中2000メートルからの落下を想定してつくられたメイド服です……」
「いつもあまりしゃべらないクランがこんなに饒舌に……てか後半なんだよ!?メイドになにを求めてるんだ!?」
「あ、脱がせやすいメイド服もありますよ……?」
「……一応買っておこう」
「ご主人様のえっち……」
「反射的に言ってしまった!?」
「反射にしては少し間があったような気が……?」
「気にしない気にしない」
「なんか落ち着いた町だなー」
いったん公園で休憩することにした二人。
「そうですね」
「こう落ち着いてると眠くなってくるなー」
俊はあくびをする。
「寝てもいいですよ……?」
「デート中に寝てられるかよ」
「じゃあ……次はどこ行きます……?」
「そうだなー……ウィンドウショッピングとかどうだ?デートっぽいだろ?」
「はい」
「よし。行こう」
町を見て歩く二人は本当に恋人に見えた。
見えてしまった。
「で?君たちはどうやって知り合ったの?」
「いやー……なんていいますか……あはは」
周辺警備をしていた人に声をかけられてしまった。
23歳と15歳。やはり少し怪しく見えてしまう。
「ご主人様はご主人様です……」
クランが真顔で答える。
「……援助交際?」
「違いますから!」
「じゃあなに?」
「……兄妹です」
俊はなんとか思いついたことを言ってみる。
「無理があるだろう」
ですよね!と声にださなかっただけでもえらい。
「腹違いの兄妹なんです……うちのお父さん浮気してたらしくて……お母さんが女手一つで育ててくれたんです……」
クランがフォローをいれる。
「……じゃあそのご主人様って言うのは?」
「メイドごっこです」
あと一押しだと感じた俊がすぐに答える。
「ごっこだなんてそんな……むご……」
クランがなにか言おうとしたがすぐに俊がその口を押える。
「あのー、僕たちもう言ってもいいですかね?今日は妹のためにいろいろするって言っちゃってるんで」
俊は苦笑いを浮かべながらそう言う。
「あー。もういいよ。行きなさい」
めんどくさいと感じたのかそう言ってもらえた。
俊はすぐにその場を去る。
「むー……ご主人様ひどいです……」
「しょうがないだろ?あの場ではあれがベストだったんだから」
「それでも……ごっこはひどいです……」
「そこが気に入らなかったのね……てっきり俺の妹にされたからだと思ってたわ……」
「私は日々……本物のメイドになろうと……努力しているのに……」
「まあ、とりあえずまた声かけられてもめんどうだし……帰ろうか」
「しょうがないですね……」
そして二人は宿に帰った。