第5話 勇者選定②
勇者選定2日目。
2日目では一気に決勝までの試合をすべてやってしまう。
怪我をした場合や疲労した場合は回復系能力者に治してもらい、また試合にのぞむ。
その中で夜とクランは楽々と勝ち進めていく。
「このままだとクランと夜が戦うんじゃ……」
「そうですね。でもどっちが勝つんでしょう……?」
「夜は重力操作一本で攻めてる……クランは純粋な速さで……」
「夜さんがあの攻撃しかしないのならクランさんにも勝機はあるんじゃないですか?」
「俺が初めて夜の能力を見たのは重力操作なんかじゃなかったんですけどね……」
「でも多重能力はありえないでしょう?」
「そうなんですよね……」
そして早くも2日目の勇者選定は終了する。
決勝まで残ったのは当然……
「『疾風の戦巫女』。君と戦えるのか。楽しみだ」
「ご主人様……私が勝ってみせますよ……?」
勇者選定3日目。決勝。
「やっぱり『疾風の戦巫女』が優勝じゃないか?」
「でもあのお嬢ちゃんもすごくないか?」
「重力操作の能力……それに今回の勇者選定で一度も傷ついてないぞ?」
試合前、観客はざわついていた。
そして闘技場に二人の美少女が姿を現す。
夜とクランは向き合う。
「私は……ご主人様が、好き……」
クランは夜のことを正面から見て言う。
「おや?奇遇だね?ボクも好きなんだ」
「あなたは……ご主人様の、なに……?」
「雇い主だよ。ただの」
「私が、もしあなたに勝ったら、ご主人様の借金を私に肩代わりさせてほしい……」
「君が払うのかい?」
クランは無言でうなずく。
「どうして君がそこまでする必要がある?」
「ご主人様は私の命を救ってくれた……」
「それだけで?」
「そう……今度は私がご主人様の命を救う番……」
「どういうことだい?」
「あなたとご主人様が一緒にいるとご主人様は死んじゃう……」
「どうしてそう思う?」
「なんとなく……?」
なぜ疑問形なのだ……と夜は思った。が、魔王を倒しにいくのだ。死ぬ可能性もあるだろう。
「ふむ。じゃあこうしよう。もしボクが君に勝ったら君が俊を守りなさい」
「え……?」
「ボクも条件を出さないと公平じゃないだろう?それで賭けは成立だ」
「それでいいの……?あなたに得がない……」
「いいもなにもあるか。言っただろう?ボクは俊が好きなんだ。さあ、全力でかかっておいで。ボクは君とこうして闘いたくてこれに出場したんだ」
カァン!
決勝を始めるゴングが鳴る。
ゴッ!!
すぐに夜が重力操作をする。
しかしそれはクランをとらえずに地面をへこませるだけだった。
ヒュッ!!
重力が操作される前にクランは移動していた。
ゴッ!ヒュッ!ゴッ!ヒュッ!ゴッ!ヒュッ!ゴッ!
夜は連続して重力を操作するため、クランは夜になかなか近づけない。
「むう……殺しもありなら楽なんだけどな……」
夜はしっかりと狙いを定めて重力操作をするが、なかなかクランをとらえることができない。
「…………」
クランは無言で夜の視線を追う。
夜の視線がとらえるところが重力操作される場所。
クランはそれを夜の試合を見て学んだ。
だが避けることはできるが攻撃するタイミングが見つからない。
それが現状だった。
だからクランは夜に隙を作らせようと必死になる。
「(今……!)」
重力操作がされた瞬間クランは一気に夜に突撃する。
「甘い!」
すぐに夜はクランめがけて重力操作を発動させる。
「まだ……!」
ガッ!
クランが急にバックステップする。
その拍子に地面がえぐれる。
「っ!?」
夜は今の攻撃で確実にクランをとらえたと思っていたため、一瞬の隙が生まれる。
一瞬。たったコンマ1秒の隙だが、クランはその隙をずっと待っていた。
故にその隙を見逃さない。
ヒュンッ!
クランは手を振り上げる。
かまいたち。
クランは風を操る。
高速移動だけが彼女の技ではない。
確実に入った攻撃。それは誰の目から見ても明らかだった。
しかし……
パァン!
「え……?」
急にかまいたちが弾かれてしまった。
「ちょっと今のは大人げなかったね……まあそれほど危なかったってことだ」
クランにはなにが起きたのか理解できない。
「俊にはこの旅からいなくなられたら困るんだ。だって彼は魔王を倒す者だからね」
夜から発せられる雰囲気にクランは驚いた顔から再びひきしまった顔になる。
「それだ。その足が邪魔なんだ」
キィィィィィン!
夜を中心にソニックブームが広がった。
クランはいち早く夜が全方位攻撃をすると気づき宙に跳躍していた。
「跳んだのは正解だ。でも『その足が邪魔なんだ』その言葉が君に跳躍させるためのものだったら?」
「っ!?」
事実クランは夜のその言葉を聞いて全方位攻撃をすると気づけた。
「空中だと動けないよね?」
ゴッッッッッ!
宙に舞う巫女を堕とす一撃が放たれる。
「あなたは勘違いしている……私は風を操る……」
夜の後ろから急に声が聞こえた。
そして夜に回し蹴りを放つ。
「(手ごたえが……ない……?)」
「『囮の蜃気楼』」
夜は離れたところにいた。
「あなた……能力を……」
「おっと、ボクは多重能力者なんかじゃないよ?そもそも多重能力なんて不可能だ」
『多重能力』
能力は1人につき1つ。
それは190年前からずっと同じだ。
だがその能力を増やそうとした国があった。
何度も人体実験を行い、多くの犠牲をだしてだされた結論。『不可能』。
それがその国の答えだった。
「じゃああなたは何……?『重力』『音』今のは『幻覚』……?」
クランは戦闘を中断してつい夜に尋ねてしまう。
「今のは水だよ」
夜も攻撃しようとしない。
「あなたはいったい……」
「『空間支配』」
「え……?」
「それがボクの能力だ」
「ご主人様と一緒……?」
「そう。俊と一緒の能力だ」
「でも……『空間支配』なんて……」
「そうだね。珍しい能力だ。二人もそろうはずがない」
「だったら……!」
「ボクが探していたからだよ。同じ能力者を……いや、ボクより強い能力者を」
「ご主人様が……?」
「そうだ。彼は『空間干渉』といってもいい能力だね」
「『空間干渉』……?」
「ボクの展開した空間内でも彼は支配をうけない。それどころかボクの空間の理までも書き換える」
「…………」
「ボクはそんな人が現れるのを待っていた。だから彼をこの旅から外すわけにはいかない……!」
夜の周りに黒い球体が5つ浮かび始める。
「『黒く重い星』。本当は見えない攻撃の方が避けづらいだろうけど、こっちのほうが君には向いてるだろう」
直径で夜の身長くらいある球体が一斉にクランにおそいかかる。
「広がれ!」
黒い球体は一斉に蜘蛛の巣のように広がり始める。
「こんなもの……!」
クランは少しの隙間をうまく見つけてそれを回避する。
ヒュン……ヒュン……ヒュン……
「風がクランに……?」
動き回るクランに風が集まっていく。
それは徐々に大きくなり、やがて竜巻となる。
「『風の儀式・起』……」
竜巻から何本もの小さな竜巻が夜に襲いかかる。
「無駄だッ!!」
しかし竜巻は黒い球体に阻まれてしまう。
竜巻を防いだ衝撃でできた砂煙が晴れると、そこにはクランの姿はなかった。
「どこに……?」
「『承』」
夜の真後ろから声が聞こえる。
クランは夜の背中に手を当てていた。
「ゼロ距離なら……!」
その手から竜巻が放たれる。
「くっ……!」
ゼロ距離。しかも夜が防御する前の攻撃は夜のダメージになる。
「まだ……」
飛ばされた夜にクランは追撃をしかける。
得意の回し蹴り。
しかし足が途中で止まってしまう。
「そううまくはいかないよ?」
「身体が……!」
クランの身体が空中で停止してしまう。
それは俊がドラゴンの動きを止めたものと一緒だった。
「堕ちろっ!」
黒い球体が一斉にクランに襲いかかる。
「『転』……!」
いきなりクランから全方位にかまいたちが放たれる。
夜は黒い球体を防御にまわす。
その拍子にクランをとらえていたものも外れる。
「はあ……はあ……」
クランは息が上がっていた。
「そろそろだね」
夜がそうつぶやいた直後クランはひざをついてしまう。
「なにを、したの……?」
「ボクはなにもしてないよ、君の体力に限界がきただけだ」
「限界……?」
「やはり君は知らなかったか。さすが『疾風の戦巫女』だね」
「……?」
「君はその速さからすぐに魔物を狩れたから知らないかもしれないが、能力の使用はなかなか体力を使うんだよ?」
「え……?」
「対価もなしに能力が使えるわけないだろう?でも君は体力があるほうだよ。ボクの攻撃をあそこまで避けて、なおかつここまで戦ったんだからね」
夜の言う通り能力には体力を使う。
しかしそのことは長期戦を経験した者しか知れないことだった。
しかも自分のLvにあった仕事が用意される今の時代、体力の限界なんて知るものはごくわずかだった。
「あなたは、なぜ大丈夫なの……?」
「なにを言っているんだい?ここはボクの空間だ。審判。彼女を回復系能力者に診せてあげて」
「まだ……戦える……!」
「無理だ。ひざが震えてる。それに体力が消耗してるなかで能力は使えない。能力が使えないなら君はただの15歳の少女だよ」
「っ……」
「また戦ってあげるから。旅のためにしっかり回復しておいで」
夜のその言葉で試合は終了した。
宿。
「クラン」
夜がクランを呼び寄せる。
「なに……?」
夜は優勝賞金の100万をクランにまるまる渡す。
「え……?」
「今回はボクが大人気なかったからね。そのお詫び」
「……いいの?」
「もちろん」
クランはその100万を持って俊に近づく。
「ご主人様……受け取ってください」
「なんで!?」
「これはご主人様のものです」
「いやクランのでしょう!?」
「私はご主人様のために……」
「だめだよ。それはクランが使いな。もしなにも使うことがないなら飯でもおごってくれればいいから」
「……そうですか」
クランは肩を落とす。
その姿を見て俊は……
「まあどうしてもって言うなら……」
「ダメ人間がああああああ!」
夜のツッコミという名の圧倒的暴力により気絶した瞬間だった。




