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第2話 山賊とお姫様

「これからどうするんだ?」

俊は隣を歩いている夜に尋ねる。

「魔王でも倒しに行くかい?」

「いきなり!?」

「冗談だよ」

夜はいたずらっぽい笑みを浮かべてそう言った。

「そうだね……まずは隣町まで行ってみようか。そっちのほうが大きい町だしなにかと便利だろう」


『ジパング』

そこが俊たちが住んでいる国の名前である。

首都を中心に6つの守り町と呼ばれる大きな町があり、そこからさらにいくつもの町が広がっている。

貿易などが盛んであり、割と豊かな国となっている。しかし未開の土地も多く町と町を渡るときには護衛をつける者が多い。


「そして今から行くのがその6つの守り町の1つ。神京ジンケイだ」

「おぉ……」

「どうしてそんなに目を輝かせているんだい……?」

「いや、俺他の町に行くの初めてだし……」

「君はどんな23年間を送ってきたんだ……」

夜が呆れている。

「楽しみだな~」

そう言いながら俊は夜を肩車する。

「どうしたんだ急に!」

「なんか気分がよくて」

「君は気分がいいと人のことを肩車するのかい!?」

「~♪~♪」

「鼻歌まで歌い始めたよ……というよりおろしたまえ!」

「~♪~♪」

「聞いてない……うぅ……」


俊は夜のことを肩車しながら30分ほど歩いたところで気づく。

「ここどこ……?」

「やっと頭が冷えてきたのかい?君が人の話を聞かないでいるからまったく違う方角に進んでたんだよ!」

「ごめんなさい」

「わかったなら早くおろしてくれ!」

俊は夜をおろす。

「やっとおりれた……」

夜はため息をつく。

「怖かったの?」

「ち……ちがう!いつもと目線の高さが違くて驚いただけだ!」

「ごめんごめん」

俊はにやにやしながら夜の頭を撫でる。

「だから撫でるなぁ……」


「?」

俊は撫でてる途中に不穏な空気を感じ取る。

夜かな?とも一瞬考えたが夜は違うみたいだった。

「俊?どうした?」

「なんか嫌な空気なんだよな……」

辺りは木々に囲まれている。

俊は耳を澄ます。

「……!……!」

声が聞こえた。

声が聞こえたほうに行くと1人のドレスを着た美人さんとあきらかに山賊の服装をした輩がいた。

職につけず、なおかつ能力も持っていない人は山賊等になってしまう場合が多い。

そして山賊になるような力も持たない者は奴隷、女性なら娼婦という道もある。


「やめてください!」

「おびえる姿もかわいいね~」

美人さんは目に涙を浮かべてしまってる。

「どうするんだい?」

横にいる夜が訊いてきた。

「ほっといてもいいんじゃないか?」

「気にならないのかい?」

「別にここに来たのも偶然だし」

「助けにいってきなさい」

「いや、俺能力使わないと弱いし……だったら夜が助ければいいだろ?能力使っても気づかれないんだから」

「大丈夫だよ」

「なにが?」

「君も能力を使ってもばれないから」

「は?」

「だから助けにいってきなさい」

「いや、ばれないなんて信じられるかよ」

「じゃあボクがばれないようにしてあげよう。だからほら、助けにいってきなさい」

「めんどく……「夕飯おごるから」

「いってきます!」

その笑顔はとてもさわやかだった。


「お前たち」

「あ?」

「なんだお前?」

「今こっちは忙しいんだよ」

俊が声をかけると山賊は一斉に俊の方を向いてきた。美人さんはおどろいたような顔をしていた。

「ただの勇者だよ。Lv0の」

「ぶはっ!こいつLv0だってよ!」

「勇者って言っても俺たちには能力使えないんだろ?」

「笑ったな……俺のLvを笑ったな!」

そう言いながらも俊は観察を忘れない。

「(ざっと見ただけで8人か……ほかにも隠れてるやつはいるのか?)」

━━━展開。

「(夜が大丈夫だと言うんだ。だったら惜しみなく使わせてもらおう)」

すぐに探索を開始する。


空間支配エリアコンプリーター

俊の能力はそう呼ばれるものだった。

自分が展開した空間範囲内はすべて自分が支配できる。

とても短い説明だがそれには理由わけがある。

この能力は謎が多い。故に未知数の能力なのである。


探索を開始し2秒。

周囲には夜しかいなかった。

「(誰もいないのか……なんとも無警戒な山賊だな)」

「見られちまったしこいつ殺すか?」

「そうだな」

山賊たちが各々の武器を構える。曲刀、拳銃、ショットガンまで持っている。

「なかなか武器は充実してるな……でも、こっちだって夕食おごってもらうんだ。ちゃんと仕事はこなさないとな!」

ゴッ!

俊は夜が出会ったときにやった雰囲気の解放みたいなことをしてみる。

「あ……あ……」

「な……なんだこいつ……」

「初めてでも意外とできるもんだな……美人さんはおびえてる様子はないから調整もばっちりか」

「か……かまわねえ!やっちまえ!」

口ではそう言うが誰も動かない。

俊が怖いのだ。

「う……ああああああああああああ!」

パァン!

山賊の1人が拳銃を発砲する。

しかし弾は当たらない。

俊はゆっくりと発砲した山賊に近づく。

「そんな震えてる手で撃っても当たるわけないだろう?」

「あ……あ……」

そう言うと山賊は失神してしまった。

「消えろゲス共が」

俊がそう言い放ち雰囲気をやわらげると山賊たちは一目散に逃げて行った。


「大丈夫ですか?」

俊がさわやかスマイルを浮かべながら手を差し出す。

バイトの接客で学んだスマイルだ。さわやかな好青年に見えるだろう。

「あ、ありがとうございます」

美人さんはその手を握り返す。

「なんで手をつなぐ必要があるんだい!?」

夜が出てくる。

「嫉妬?」

「ボクは嫉妬なんて見苦しいものしないよ!」

「じゃあなんでそんなに怒ってるの?」

「怒ってなんかない!」

「あのぅ……」

助けた美人さんが片手を申し訳なさそうに挙げながら言う。

「どうしました?」

また俊が笑顔になる。

「ボクにはそんな笑顔見せてくれないのに……」

「助けていただきありがとうございます。私は……「ジパングの王様の娘の小夜神さよがみしずくだろう?知ってるよ」

夜が美人さんの言葉を遮って言う。

「そうなのか!?」

俊が驚いたように言う。

「俊……自分の国の王様の娘くらい覚えておこうよ……」

「そんなこと気にしたことなくて」

「ダメ人間……」

「でもなんでそんなお偉いさんがこんなところに?あと結婚してください」

「ほぇ?結婚……?き……急に言われても困ります!お友達からなら……」

「本当ですか!?」

「え……ええ」

「いやっほおおおおおおおおおおう!」


めりっ☆

そんな音が聞こえて俊は10メートルくらい吹っ飛ぶ。

「な、なにするんだ!」

「愛の拳だよ」

笑顔の夜は少し血のついた手を拭きながら言う。

「自己紹介が遅れたね。ボクは夜。このダメ人間の雇い主だ。あとLv120の勇者もしている」

夜は俊を指さしながら言う。

「Lv120ですかーすごいですねぇー」

「みんな同じような反応するな!?ボクの身体がもう少し成長していれば信じてもらえるのに……」

「俺は工藤俊。借金してるLv0の勇者です」

「Lv0なのにあんなに強いんですか?」

「初めてバカにされなかった……」

「こいつは金がないだけだよ」

「ああ……」

「なんでそんなかわいそうな目で見てくるんだ……」

「改めまして、私はこの国の王の娘。小夜神雫と申します。先ほどは助けていただき本当にありがとうございました」

雫は頭を下げる。

「礼ならこいつに言ってくれ。俺はこいつに命令されてやっただけだ」

俊は夜を指さす。

「でもジパングのお姫様がこんなところでどうしたんだい?」

「それが……」


雫はいろんなギルドを巡回して勇者たちの士気を高めていたらしい。

しかしその道中魔物に襲われ、逃げてきたところを山賊に襲われたと言う。


「でも大事なお姫様だ。直属の勇者もついていたのだろう?」

国に仕える直属の勇者。

この勇者たちは基本的に国が雇っている。

つまり王族を守るためなら能力の使用が常に許可されている。

「それが全滅してしまったのです……私は逃げろと言われて1人の勇者さんの能力で転移させられました」

「その勇者馬鹿か?雫さんを1人にするなんて」

「どうして君がお姫様のことを名前で呼んでるのか気になるが……その勇者もいきなりの魔物の襲来に驚いたんだろうね」

「全滅ってどうして雫さんはわかったんだ?」

「私も能力を持っていますから……私の能力は生命感知ライフソナー。生体反応がわかるのです」

「それでか……。でも全滅っておかしくないか?直属の勇者って言ったら相当強いはずだろう?」

「相手がもっと強かった。それだけだよ俊」

直属の勇者の一団を全滅させられるほどの強さ。

ただ単に相手の数が多かったのか……それとも……


「さて、俊。ここで問題だ」

「いきなりなんだよ?」

「どうして魔物たちはお姫様を襲ったと思う?」

「それは侵略のためだろ?」

俊は当然のように答える。

「侵略のためにお姫様を狙ったってことかい?」

「そうじゃないのかよ?」

「違うよ。魔物はそんな目的を持った行動はしない」

「?」

「魔物はただ破壊衝動に駆られて物を破壊しているだけ。だからこんな森のなかにいるお姫様のことを偶然出会ったわけでもないのに襲うなんてことありえないんだ」

「じゃあどうして雫さんは襲われたんだよ?」

「簡単さ」

夜は口の端を釣り上げる。

「魔物じゃない者がいた」

「「え?」」

静かにしていた雫までもが聞き返してしまう。

「魔物よりも知能が高く、なおかつ魔物を従えることのできるもの……」

「魔王……」

俊はつぶやいていた。

「魔王かどうかはわからないがそれに近いものだろうね」


「あ、あのぅ……」

「どうしました?雫さん」

「できたらでいいんです……私の護衛をしてもらえませんか?」

雫が遠慮気味に訊く。

「お姫様、わかってるのかい?Lv120を雇うってことはなかなか大金が必要だよ?」

「あれって冗談じゃなかったんですか!?」

「違うよ!!」

「そうですよね……Lv120なんてうちの勇者たちの中にもいませんでしたし……あ!」

雫はなにか思いついたように顔を上げる。

「だったら俊様!私のことを護ってください!」

「え?俺?」

俊は自分のことを指さす。

「ええ!俊様ならお強いですし……ダメ……ですか?」

上目遣い。

「お受けしましょう」

「早いな!?君はめんどくさがりなのか仕事に積極的なのかわからん……」

夜が驚く。

「俺って上目遣いに弱いのかもしれない……」

「仕事の内容は私を首都『ジパング』まで無事に送り届けていただくこと。報酬は……日給5万で食事と宿付きでどうですか?」

「よろこんで!」

今まで仕事のなかった俊にとってこの仕事はとても好条件の仕事だった。

それに食事と宿が付くなんてすばらしい。

「俊、君はボクに雇われていること忘れてないかい?」

「大丈夫。夜のことなんて忘れたことないよ」

「それ出会って1日目の人に言うセリフかい……?」

「でも顔赤いぞ?」

「うぅ……」

「お二人とも仲がいいんですね」

「俺は雫さんとも仲よくしたいです」

「ふぇ!?私ともですか!?」

「もちろん。雫さんはきれいですから」

「そ……そういうこと言われるの初めてなので……照れます……」

雫の顔が赤くなる。

「ほら!俊!さっさと行くよ!!」

夜は俊の腕を引く。

「うあー!俺は雫さんともっと話すんだあ!」

「あはは……」

雫は苦笑いで二人についていった。


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