第13話 海上の風使いたち
迷いの森を抜けた俊たちは港町『ルーンヴェル』に来ていた。
「ぱぱ、ぱぱ」
俊に肩車されている龍の子供が俊を呼ぶ。
「ん?どうしたベル?」
光の古龍から預けられた子供はベルと名付けられた。
名付け親の俊はこう言った。
「きっと鈴みたいにいい声になるぜ?」
「なんか適当じゃないかい……?」
「名前はつけることに意味がある」
ということでベルと名付けられた。
「あれ、なに?」
ベルが指をさしたのは海だった。
「あれは海って言ってなー。俺も初めて見るんだー」
「「「っ!?」」」
俊の初めて見るのに落ち着いた態度。
それに驚きを隠せない3人がいた。
「俊がはしゃがない!?」
「俊様なら『海だあああああああああああああ!!青いいいいいいいいいいいいい!!広いいいいいいいいいいいいいいいい!』とか言って走り回りそうなのに!?」
「ご主人様、病気……ですか?」
「お前ら失礼だな!?」
俊はそっぽを向いてしまう。
「ごめんごめん」
夜が苦笑いで俊に謝る。
「さすがに俺もベルの前じゃはしゃがねえよ」
「ベルがいなかったら?」
「はしゃいでた」
「即答なんですね」
俊はその時クランが海を見てなにか考えていることに気付く。
「クラン?どうした?」
「いえ……なにも……ただ……」
「ただ?」
「天気が、悪くなりそうだな……って思いまして……」
「こんなに晴れてるのに?」
「はい……だから早く宿に行きましょう」
俊たちはクランに押されるようにして宿へと向かう。
「たしかにちょっとよくない風だね」
宿につくと夜がそう言った。
「せっかくの港町だけど今日は宿でおとなしくしてよう」
「えー」
「えー」
俊がそう言うとベルも真似する。
「君……はしゃがないんじゃなかったのかい?」
「はっ!しまった!」
「しまったー」
「ベルちゃん、真似しちゃってますよ?」
雫がそう言いながらベルを抱きかかえる。
「そういえばベルって泣かないな」
「あまり泣かさない方がいいと思うよ」
「どうして?」
「一応ドラゴンの子供だからね。なにかの拍子にドラゴンの力が暴走……とか」
「考えるだけで恐ろしいな」
「……ご主人様」
「ん?どうした?」
クランが俊に話しかける。
「少し、外出してきてもいいですか……?」
「別にいいけど……天気が悪くなるんじゃ?」
「すぐに帰ってきます……」
「気をつけろよ?」
「はい……」
そう言ってクランは宿を出る。
「クランのやつ買い物か?」
夜はそれを黙ってみていた。
宿を出たクランは海に来ていた。
「……………」
クランは無言で海を見ていた。
そしてクランは岸から能力を使って海上へと移動する。
岸から10キロ離れたところがクランの行き先だった。
「……なにをしているの」
そこにいた人物にクランは話しかける。
「ん?あれ?なんで人間がここにいるの?」
そこにいた女はクランを見て質問する。
「質問しているのは私……なにをしているの?」
「見てわからない?風を使って津波を起こそうとしてるの」
「そんなことしたら町が……」
「いっぱい壊れるだろうね。楽しいねえ」
「あなたは魔王軍……」
俊がジパングで出会ったアンドレイ・トレイドの話はクランも聞いていた。
「あれ?そんなことも知ってるの?じゃあ破壊衝動のことも知ってる?」
「私はあなたを止めないといけない……」
「止めるんだったら不意打ちでもなんでもすればよかったのに」
女はにやりと笑う。
「してよかったの……?」
「かまわないよ」
「そう……」
そこで女は気づく。自分の周りにナイフが展開されていることに。
「っ……!」
クランはそのナイフを一斉に発射する。
刺さった。そう思った。
しかしナイフはすべて女に触れる前で不自然に止まっていた。
「あなたも風使うのかあ。油断してたよ」
ナイフがすべて海に落ちる。
クランはすぐに距離をとってナイフを放つ。
「無駄!」
女が手を横に払うとクランのナイフはすべて弾かれてしまう。
「あなたの『速さ』の風じゃ私の『威力』の風には勝てないよ?」
「やってみないとわからない……」
クランは高速で移動する。
移動するたびにナイフを放つ。
360度の全方位攻撃。
ゴッ!!
しかし女が放つ風ですべて落とされてしまう。
「私の番だね」
女の右手に風が集まる。
「はっ!!」
凝縮された風がクランに向けて放たれた。
その威力は大砲クラスだった。
だがそんな大振りな攻撃クランにはあたらない。
ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!
ナイフの波状攻撃。
しかしすべて落とされる。
「あんたいったいどれだけナイフ持ってるのよっ!」
女は呆れながら言う。
「今ので最後……」
「じゃあこっからはずっと私の攻撃でいいってこと?」
「次はこれ……」
夜はスカートに隠れたふとももから2丁の拳銃を取り出す。
「また物騒なものを取り出したわね……でも能力者に通常兵器なんてきかないのわかってるわよね?」
「それは通常兵器のことを理解してしまってるから……それくらいわかっている」
魔物には通常兵器は通用しない。
それは魔物が強いから。
能力者にも通常兵器は通用しない。
それはその兵器がどんなアクションを起こすかわかっているから。
いくらでも対処のしようがあるのである。
だから能力者を倒せるのは魔物か能力者だけなのである。
「これで終わらせる……」
「拳銃程度で……っ!?」
女が痛みで顔をゆがめる。
「な……に……これ……?」
よく見るとクランの持っている拳銃の銃口から煙が出ていた。
「私の……風が……!拳銃程度に……負けた……?」
「この拳銃から放たれた銃弾には溝が入ってた……その溝は私の能力でその銃弾を補佐するためのもの……私の能力が付加された銃弾は空気抵抗がゼロになる……」
「だから……なに……?」
「『速さ』はそのまま『威力』に変換可能……」
「そっ……か……」
そう言って女は海に落ちていった。
「ご主人様に危害をくわえるものは許さない……」
クランは海を見下ろしながらそう言った。
「ただいまもどりました……」
「クラン、おかえり!」
俊はクランに笑いかける。
「はい……」
クランも俊に微笑んだ。