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第12話 迷いの森

「…………」

俊は1人で森の中で無言でいた。

それはなにかを行う前の集中している姿に似ている。

「すぅ……」

大きく息を吸い込む。

「どうしてこうなったああああああああ!!」


時は少し前にさかのぼる。

守り町アインを出た俊たちは船で海を渡るために港を目指していた。

「そういえばヴィクトリアの勇者たちはどうなったんだろうな。出発から一週間経っても何も発表ないっておかしくないか?」

俊はもっともなことを口にする。

「発表がないってことは全滅ってことだよ」

「でもどうして発表しないんですか?」

夜に雫は質問する。

「そんなこと、発表したら、人類は希望をなくすから……」

雫の問いかけにクランが答えた。

「そう。人類はまだ戦えるという希望がなくなってしまうんだ」

「そうなんですか……」

「でも人類最強と言われた勇者もやられちゃって……俺たちで大丈夫なのか?」

「大丈夫じゃないからこうして旅をして強くなろうとしてるんじゃないか」

「なんか急に故郷に帰りたくなった……」

「君の故郷は燃えただろう?」

「そうだった……」

俊は肩を落とした。


「さて、ここからが難関だ」

夜は目の前にそびえる森を見て言う。

「ここがどうかしたのか?」

「この森はちょっと特殊でね。地面に鉱物があってコンパスとかはやくにたたないんだ」

「ふむふむ」

「それに人が歩くとできる『道』もすぐになくなってしまう」

「わあ……それは大変」

「俊……君、理解してないだろう?」

「まったく」

「はあ……せめてはぐれないようにしてくれよ?」


そして俊は見事にはぐれてしまった。

能力をつかって探してみた。

反応はある。しかしそこにたどり着けないのだ。

どちらに行けばいいかはわかる。

だがその方向に大樹などがあり、迂回せざるをえない。

それを繰り返すと、なぜかさっきよりも反応から離れてしまうということの繰り返しだった。

それを1時間ほど繰り返し、俊は気づく。

「これ、この森抜けて待ってた方がよくね?」

空を飛んでしまうのもありだと考えたが、そもそも俊は空を飛ぶのにはなれていない。

そしてここは高くそびえる木がたくさんある。

結果、俊は歩くしかないのだ。


俊は歩いて森を抜けようとする。

だがどちらに行けばいいのかわからない。

「まあ、適当に……」

とりあえず俊は歩いてみることにした。

「お、久しぶりだな」

俊は少し前までお世話になっていた草を見つける。

「ん?そういえば食糧を生成してみたことってなかったな」

俊は空間内なら能力をつかってもばれないということを知ってから食糧に困ったことはない。

しかし今初めてその局面に遭遇する。

「……できるか?」

━━━展開。

俊は空間を展開させる。そして手始めに肉を出すイメージをする。

「でてきた……!」

俊は焼けた肉にかぶりつく。

「…………」

まず、固い。

味がしない。

中身がよくわからないものでできている。

「なんじゃこりゃああああああああああああ!」

俊のイメージしたものとは全く違うものが出てきていた。

「つまり、俺が正確にイメージできていないってことか?」

結論を出した俊は食糧の生成は諦める。


「草って、不味い……」

最近いい食事に慣れてしまったからか俊はそう感じずにはいられない。

ガサッ……

そんな俊の近くから音が聞こえた。

「肉か!?」

俊はとっさに立ち上がり目標を確認する。

そこにいたのは魔物だった。

「……魔物って食えるのかな」

俊はゆっくりと相手を見据える。

魔物はそんな俊の気配に押され逃げてしまった。

「やっぱりやめておこう……お腹壊してもいやだし」

草を食べながら思う。

「なんか動きたくないな……」

俊は近くにあった岩に座る。

「あー、夜たちが来てくれるとうれしいなー」


「あんなにはぐれるなって言ったのに……」

「ご主人様を、見つける……絶対に……!」

「クランちゃん。落ち着いて?ね?」

夜は呆れ、クランは俊を見つけるために近くの木を薙ぎ払おうとして、雫はそんなクランをなだめていた。

「まあ、森を抜けたら勝手に合流できるだろう」

夜の指示で3人は森を抜けることにした。


「……反応的にこっちにこないな。森を抜けることにしたのか?」

俊は立ち上がる。

「向かってる方に行けば森を抜けられるだろう」

俊はまた歩きだした。

そして出会う。

「…………」

木漏れ日を吸い、光沢を放つきれいなライン。

「卵……?」

俊の目の前にあるのは直径40センチ強の卵だった。

「食べられるかな……」

すぐにそっちに考えがいってしまう。

ぴくっ……

「動いた!?」

その卵はすこし動いた。

もうすぐ生まれるのかもしれない。

「よし、非常食として持っておこう」

俊はその卵を持って森を抜けた。


森を抜けたところで俊は夜たちと合流する。

「ご主人様……無事で……よかっ……ぐす」

「クラン。泣くことないだろ……」

合流すると俊はすぐにクランに泣きつかれてしまった。

「君ははぐれるなと言ったのに……」

「ごめんなさい」

「俊様。その子供は……?」

「子供……?」

俊は手元を見る。

卵はいつの間に変わったのか3歳くらいの人間の女の子になっていた。

「えええええええええええええええええええええ!?」

「いきなり大声をだしてどうしたんだい……?」

「いや!だって!ええええええええええええええええ!?」

「むにゅ……」

「あー。俊の声で目が覚めちゃったじゃないか」

俊の腕に抱かれていた子供は目を覚ます。


「ぱぱ……」

そう言って子供は俊に抱きつく。

その瞬間、俊いわく空気が凍った。

俊の周りに『黒く重い星』とクランのナイフが展開される。

「え!?ちょ!?なに!?」

「事情を説明してもらおうか?」

「俊様。嘘ついたらきっと死んじゃいますよ?私には視えます」

「ご主人様……話してください……」

「いや!俺だって知らないから!?だって卵だったんだよ!?いつのまにかこうなってたんだよ!?」

「そんな言い訳が通ると思ってるのかい?」

「小学生みたいですね」

「大丈夫ですよ……?死んでも、死体はちゃんと愛しますから……」

「本当に知らないんだってば……」


「知らないなんてひどい……」

俊の目に汗がたまってきたころ新しい声が聞こえた。

『白』。そう表現するしかない女性が森からでてきた。

「ん?んん?」

夜はその女性を見る。

「久しぶりですね」

女性は夜に話しかける。

「光の古龍……」

「「「え??」」」

夜の発言に女性以外は驚く。

「どうして君がこんなところにいるんだい?」

夜は驚いてる俊たちを放っておいて光の古龍に話しかける。

「私の子供がこの辺にいてですね」

「龍の子供が?」

「いや、なんかむしろ人間に近づいちゃったんですよねぇ……」

光の古龍が見たのは俊が抱えている子供だった。

「なんででしょうねぇ……俊さんのこと思いながら生んだからですかねぇ……」

光の古龍はやれやれといった感じで息を吐く。

「ちょっと待ってくれ。君はどうして俊のことを知っているんだい……?」

「前にちょっと助けていただいて……もうかっこよかったですよぉ……」

光の古龍は頬を赤く染める。

「俊!」

「は、はい!」

「君はそんなに女に手をだして……」

「いや!女とか知らなかったからね!?てか姿はドラゴンだったからね!?」

「君ってやつは……」

夜は呆れる。

「呆れてばっかだな」

俊は笑いながら言うと。

「君がボクを呆れさせてばっかだからね!」

と言われてしまった。


「俊さん」

「ん?」

「その子を育ててください」

「へ?」

「ほら、この子こんなに人間寄りになってしまったでしょう?一応背中に翼は生えているんですが」

俊はそれを聞いて背中を確認する。

たしかに生えていた。

「その子を持って帰るといじめられちゃいそうで……」

「いや、俺子育てとか無理だし」

「大丈夫ですよ。そのための夜さんですから」

「ボクかい!?」

「いいですよね?」

「わかったよ……」

「夜が折れただと……!?」

俊は光の古龍が人間の姿もできることよりそっちのほうが驚いた。


「……ぱぱ」

「どうした?」

「俊様が親バカ丸出しの笑顔を……!」

「ご主人様、子供好き……?」

「あそんで?」

「よし!遊んでやろう!」

俊はクランと雫も巻き込んで子供とじゃれあう。


「さすが君の子供だね。言語能力がしっかりしてる」

「ありがとうございます。それで、この旅は楽しんでますか?」

「ん?そうだね。楽しいよ。これに終わりがあると思うとすこし悲しい」

「まだ始まったばかりでしょう?それに、あなたが望んだことじゃありませんか」

「そうだね。これはボクが望んだことだ。だからどんな結果だろうが受け入れるよ」

「それでこそ夜さんです」

光の古龍は不思議な微笑みを夜にむける。

「まったく……君にはかなわないな」


「じゃあよろしくおねがいしますね」

そう言って光の古龍は消えてしまった。

「さて、俊。しっかりめんどう見るんだよ?」

「まかせておけ」

「ぱぱがんばって」

「おう!」

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