第10話 借金勇者のドラゴン退治
「俊。この仕事をやってきなさい」
夜がいきなり依頼書を俊に渡してくる。
「……なに、この仕事」
「君が強くなるために必要なことだよ」
「……いや、俺が言いたいのはこの依頼書の内容だから」
「ん?ただの魔物退治だろう?」
「いや……あきらかにおかしい点があるんだけど……?」
「どこに?」
「Lv設定だよ!!なんだよLv102以上って!!おかしいだろ!?これはむしろ国が軍を派遣するLvだろ!?」
「君ならできる!……たぶん」
「たぶんってつけたよね!?俺のLv0なんだけど!?」
「とっとと行っておいで!もし仕事で失敗したら借金が増えると考えて!」
「その間夜たちはなにしてるんだよ……?」
「ショッピングかな」
「なにこの差!?」
宿からたたき出されてしまった俊は夜が持ってきた依頼書を確認する。
「なんで魔物退治でこんなにLv必要なんだよ……上位種何体いるんだよ……」
依頼書を隅々まで読むと、ドラゴンが1体確認されているらしい。
「まあ……ドラゴン1体くらいならなんとかなるかな……?」
前にもドラゴンを倒した経験から俊は自信がついていた。
依頼書によると町から出て、すこし行ったところの畑で確認されたらしい。
たぶん町が危険だと判断したのだろう。
俊は町をでて畑に向かった。
「本当にここにドラゴンが現れたのか……?」
畑にたどりついた俊だったが、この状況を疑問に思わずにはいられなかった。
ドラゴンが現れたにしては被害がなにもない。
「ドラゴンがもう一回来るかどうか……」
ドラゴンは一応知性を持っている。
なのでここに出現したのにもある程度の理由があるはずだった。
待つこと3時間。
暇で暇でしょうがない俊。
しかしその暇はなくなる。
GYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!
「ドラゴン!?」
上を見てみるとドラゴンがいた。
……6体。
「こんなにいるなんて聞いてないぞ!?」
しかも大きい。
「まさか……古龍!?図鑑でしかみたことないぞ!?」
『古龍』
魔王が現れてから最初に目撃されたドラゴンである。
古龍にはそれぞれ属性が付属しており、通常のドラゴンの3倍は強い。
しかも200年間生きているとなると、その力は絶対的なものとなる。
「おいおい……俺が倒したドラゴンって末端の末端だったんじゃね?」
古龍を見て俊は本物のドラゴンとはどんなものかを思い知らされる。
1体1体が属性を持つ古龍……ここにいる6体のドラゴンは、偶然にも6大属性全てを網羅していた。
「とりあえず……!」
━━━展開。
俊は空間を展開させる。
するとドラゴンは降りてくる動きを突如止めて、上に上昇した。
「なんだ……?でも……先手必勝!」
━━━収束。固定。
ジパング防衛戦でも使った高エネルギー体。
「発射!!」
ドドドドドドド!!
ドラゴンに向けて発射する。
ドラゴンは空中にいるだけでなにもする気配がない。
「っ!?」
俊の放ったエネルギー体は突如消えてしまう。
ドラゴンたちはなにもしていない。
「まさか……空間範囲外……?」
俊の能力は強い。
しかしそれは俊が展開した空間内の話である。
ドラゴンは上空にいる。つまりドラゴンたちがいまいるところは空間範囲外なのだ。
これはあきらかに俊の戦闘経験の無さを表していた。
「(飛んで空間範囲内に無理やり持っていくか?)」
しかしそれは無謀だった。
空ではドラゴンに分がある。
飛んだら返り討ちにあうだろう。
「でもやらないと借金増えるし……」
飛んで無理やり空間範囲内に持っていくのが無理なら空間を広げるしかない。
うれしいことにドラゴンはなにもしてこない。
━━━展開、展開、展開、展開、展開ッ!
俊は空間を広げようと努力する。
しかしそれは容易なことではない。
空間を広げるということは自分が支配する範囲が広くなるということだ。
つまりそれは俊の技量を上げるということにつながる。
俊はそれをこの短時間でやろうとしているのだ。
「(空間内にドラゴンが入ったら一気にたたく……!)」
なにかがはじけた感じがした。
ゴッ!!
重力操作。一気にドラゴン6体を地面に落とす。
「いけた!」
ドォォォォォン!!
ドラゴンが落ちた衝撃で地面が揺れる。
「このまま倒せば……」
『待ってください!』
「へ?」
いきなり俊の頭に声が響く。
『我々はあなたたち人間に危害を与えにきたわけではありません!』
「ちょ!なにこれ!?怖い!」
俊は周りを見回すが周りには地面に落とされているドラゴンしかいない。
『こっちですこっち!』
俊は振り向く。
そこには白いドラゴンがいた。
光の古龍。
「えっと……君?」
俊は話しかけてみる。
『そうです!』
「ドラゴンって話せるの!?」
『あのー……そんなことよりこの拘束をといてもらえると……』
「お、おう?」
俊は少し警戒気味に重力操作をやめる。
ドラゴンたちが一斉に立ち上がる。
一応空間は展開させたままにする。
『ありがとうございます』
周りにいるドラゴンたちが頭を下げてくる。
「え、いや、あのー……俺たちに危害を与えるつもりがないって?」
『私たちはお参りにきただけです』
「お参り?」
『ここは私たちの王が死んだ場所ですから……』
「王って……」
『あ、魔王じゃありませんよ?竜王です』
「竜王……?」
初めて聞く単語だった。
『6大属性すべてを身に宿した私たちの母です』
「始まりの龍……」
『そして今日は命日なのです』
「毎年来てるのか!?」
『ええ、180年間ずっと……』
「ん?じゃあなんで昨日は来たんだ?」
『……それは……恥ずかしい話ですが、命日を1日間違えた馬鹿がいまして……』
『ごめんなさい……』
赤いドラゴンがうなだれている。
『毎年1日だけだったんで討伐はされなかったんですけど……』
「てか180年間同じ日に来てるのに、その法則性に気付かなかった人間がおかしいだろ……」
『お参りだけさせてはもらえませんか?』
「まあ、そういうことなら」
ドラゴンたちは静かにその場にたたずむ。
俊はそれを黙って見つめていた。
『ありがとうございます。さて、私たちも一思いにやっちゃってください』
「え?なにを?」
『討伐が依頼されているのでしょう?そして私たちはあなたに一度負けました』
「なんのことか知らないね。俺はただ母親の墓参りしてるやつと出会っただけだ」
『……ありがとう、ございます』
「俺は町に帰るよ」
『なにか困ったことがあったら必ずあなたの力になります!』
そう言ってドラゴンたちは飛び立っていった。
「……かっこつけたのはいいけど、依頼どうしよう……」
とりあえず夜に報告をするために俊は町へ帰った。
「で?仕事はどうだったんだい?」
「母親思いの子供たちに出会いました」
「だから仕事は?」
「…………」
「借金増額」
「やめてえええええええええええ!」
いいことをしたはずなのに報われなかった俊である。