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第1話 0の勇者と120の勇者?

この世界に『魔王』という存在が現れて200年が経つ。

人類は魔王に対抗できず、たった10年で世界の半分を掌握されてしまった。

人類が魔王に対抗できなかった理由は魔王の能力チカラにある。

魔王は通常兵器を一切受け付けず、絶対的な力と大量の下僕たちをもってそこに君臨した。

しかし200年経った今でも魔王に世界すべてを掌握されていないのは特別な能力チカラを持つもの……『勇者』と呼ばれる人間が現れたからである。

勇者が現れたことによって魔王は倒されるかと思ったが魔王の侵略を食い止めるところまでしかできなかった。


そしてその状態が続いて190年……

世界人口の約3分の1が勇者と呼ばれる存在になっていた。

勇者が増えるにあたって1人1人の能力にあった職業が用意され始めた。

そして勇者には『Lv制度』と呼ばれるものが設定された。

勇者とはいつ死んでもおかしくない。

その死の可能性を少しでも低くするための制度である。

自分の強さにあったLvを設定し、そのLvにあった仕事をする。

この制度のおかげで戦闘で命を落とす勇者はかなり減った。


しかし世界人口の3分の1が勇者という能力持ち……戦いたくない人というのも必ず出てくる。

いや、むしろ勇者というのは仕事に就けなかった人の救済措置みたいなものになってきている。

今現在勇者は腐るほどいる。

勇者が現れた当初はかなり重宝されたが今は違う。

自ら勇者になったものは現在の勇者の数の10分の1にも満たないだろう。

ここにも1人……職に就けなかった勇者がいる。




「オラ!待てコラ!」

「とっとと金返せ!!」


見るからに堅気ではない方々に追われている少年。工藤くどうしゅん

彼は勇者である。

「もうすこしだけ待ってください!」

俊は必死に逃げる。


「逃げながら言うな!」

「ちゃんと面と向かって言え!」

当然堅気じゃない方々も追ってくる。


「うぅ……今日はしつこいな……」

能力を使ってしまおうか……

俊は一瞬そんなことを考える。

しかしそんな考えを首を振って飛ばす。

「だめだだめだ……そんなことしてみろ……他の勇者に囲まれて殺られる……」


『能力を持っているものは魔王関係の相手以外に能力を使ってはならない』

これは世界が決めたルールである。

もし能力を使用すればすぐに他の勇者に仕事として処分されてしまう。

その仕事の報酬はかなりいい。


『人を殺す』

能力を持っていても人は人だ。

つまり人を殺すという仕事のため報酬は高く設定されている。


俊は路地裏の細い道を何本も曲がり逃げる。

「ふう……やっと逃げられた……」

俊は額にうっすらかいた汗を袖で拭く。

「さて、仕事でも見に行くか」


『ギルド』

そう呼ばれる場所がある。

そこは国や民間人からの依頼が貼り出してあり、その依頼を勇者は仕事として受ける。

つまりハローワークみたいなものだ。

依頼のLv設定はすべてギルドの職員が行う。

ギルドの職員には勇者もいるし、そうでない者もいる。


ギルドにたどり着いた俊は仕事を見て肩を落とす。

「やっぱりないか……Lv0の仕事なんて存在しないよな……」

俊のLvは0だった。

それは俊が弱いからという理由ではなく金銭面の問題だった。


Lv制度のLv設定には試験が用いられる。

試験官が見守る中の実戦試験。

魔王の下僕、つまり魔物と戦ってLvを設定する。

もし危険な状況に陥ったとしても試験官が助ける。

しかし試験官を雇うのも無料ではない。

試験には基本的に中位の魔物が用いられる。

つまり試験官はその中位の魔物を倒せるLvということだ。

そして世界がこんな状況の中で世界はその金銭面を補えるほど余裕がなかった。

結論を言うと試験は自腹なのである。

借金をしている俊にその試験代を払えるはずもなく、ずっとLv0のままなのである。


「職に就けないから勇者になり、金がないから働けない……悪循環だな……」

「なにが悪循環なの?」

「この世界が……ん?」

「やあ」

振り返ると黒髪ロングの小さな美少女がいた。

「誰?」

「むぅ……誰とはひどいじゃないか!」

「いや、知らないものは知らないし……」

「じゃあ教えてあげよう!ボクの名前はよるだ!」

あるとは言えない胸を張って夜は自己紹介をした。

「あ、そうですか」

俊はまた歩きだす。


「どうやって金を稼ぐか……なんか一発当てられないかな……」

「うぉい!」

「うわっ!」

俊はいきなりきた後ろからの衝撃にバランスを崩す。

そして前のめりに倒れてしまう。

俊の上には夜が乗っていた。

多分後ろから抱き着いてきたのだろう。

でも小さな女の子に抱き着かれてもなにも感じない俊。


「君?俺を怒らせたいのかな?」

「勇者なのに心が狭いなぁ」

「あいにくLv0なんでね」

「ぷっ……」

「笑うな!」

夜だけでなく周りの人も少し笑っている感じだった。


「Lv0なのか。そうかそうか」

夜は俊から降りながら言う。

その口はまだ笑っていた。

「なんだよ……お前だって勇者だろ?どのくらいのLvなんだよ」

「ほう、能力持ちだってわかるのか。ボクのLvは120だ」

「そうかー120かーすごいなー」

「信じてないな!絶対信じてないな!」

「いやーすごいすごい」

「馬鹿にするなぁ!ボクのLvは本当に120なんだぞ!」

「はいはい」

そう言って俊は夜の頭を撫でる。

「撫でるなぁ……」

「嬉しそうな顔してそんなこと言われても……」

「嬉しいわけじゃない!ボクは撫でられるのに弱いだけだ!」

「Lv120の勇者サマが撫でられるのに弱いのか、そうかそうか」

俊は撫で続ける。

「あまり馬鹿にすると怒るぞ?」

「どうぞどうぞ」

「本当にいいんだな?」

「っ!?」

急に夜の周りの空気が変わった。

「ボクを怒らせるなんて」

「能力を使ったらほかの勇者に殺されるぞ!?」

「別に、そんなの蹴散らせばいい。それにそんなの気にしなくていいしね」

気にしなくていいという言葉は俊には理解できなかったが、理解できる部分もある。

勇者を蹴散らす。確かにLv120だと余裕だろう。

しかしLv120なんて信じられないのだ。


普通上位の魔物一体に勇者4人は使う。

それも熟練の勇者だ。

しかしLv120となるとその上位の魔物5体を1人で相手しても余裕で倒せるLv。


まずい……と俊は後悔する。

夜から発せられる雰囲気だけで本当にLv120あると実感させられる。


「反省するかい?」

「します!」

反射的に俊はそう答えてしまった。

「ならよろしい」

そう言って夜の雰囲気は柔らかいものになる。

「素直なのはいいことだよ」

「で、俺になんのご用でしょうか?」

「いきなり敬語で話すなよぅ……まるでボクたちが親しくないみたいじゃないか」

「初対面だからな!?」

「ああ、そうだったね。それで?君の名前は?」

「工藤俊」

「俊か。どうして君はLv0なんだい?君は強いはずなのに」

「そんなのどうしてわかるんだよ?」

「わかるさ。ボクはなんでも知ってるからね」

「俺の名前は知らなかったくせに……」

「知ってたさ!本当は知ってたけど一応訊いたんだよ!」

夜は低い目線を俺に合わせようと背伸びしながら言う。

「はいはい」

「馬鹿にするのかい?」

「ごめんなさい」

俊はすぐに頭を下げる。


「でも本当にどうして君はLv0なんだい?」

「金が……」

「ん?」

「金がないんだよ」

「ぷっ……」

「また笑ったな!?」

「金がない勇者って!あははははははっ!」

こいつ……と俊が手を握り締める。

「さて、そんな君を私が雇ってあげよう」

「へ?」

「だから君を雇うと言ったんだ」

「……どうして?」

「君が好きだから」

いきなりの告白。

あきらかに年下の少女に俊は告白された。

「よし、よく話し合おう」

「ん?どうして話し合う必要があるんだい?」

「いや、もし俺が夜と一緒にいたらたぶん捕まっちゃう……」

「どうして?」

「時代が時代だから」

夜は考えるしぐさをする。多分俊の言った意味がよくわからなかったのだろう。

そしてなにか思いついたように顔をあげる。

「失礼だ!ボクはこう見えても20歳だ!」

「へ?俺の3つ下?」

「ほら!」

夜が身分証を見せてくる。

確かに20歳だった。


「で?ボクに雇われるかい?」

「……どんなことするんでしょうか?」

「なに、簡単だよ」

夜が俊に手でしゃがめと指示してくる。そして正面から俊のことを見つめるとこう言った。

「魔王を倒しに行く」

「…………」

借金勇者は驚いて何も言えなかった。


「……魔王を倒しに行く?」

驚きはそのままだったがなんとか口を開く。

「うん」

「俺Lv0だけど?」

「Lv0だからだよ。Lv0が魔王倒すなんておもしろいじゃないか」

「それだけの理由で……」

「ほかにも理由はあるよ?好きだからとか」

「なんかさらっと言われると冗談じゃないかと思える……」

「む……なら」

夜はもじもじしだす。

そして上目づかいで、

「ボク……俊くんのことが好き……」

「俺も好きだ」

反射的にそう答えてしまった。

「よし、これで両想いというわけだ」

「しまった!」

「大丈夫。君は顔はいいよ。ボクが保証する」

なにが大丈夫なのだろうかと俊は思う。


「さあ!決まったら今すぐ行こう!善は急げって言うしね!」

「あ!ちょっと!」

夜に引かれた腕を慌ててほどく。

「どうしたんだい?」

「いや……俺借金してるんだよ……」

「だから?」

「ほら、借金返さないでこの町離れるなんて……」

「君は律儀だな……そんなの逃げてチャラにしちゃえばいいじゃないか」

「そんなわけにはいかない」

「じゃあ……ほら、金借りたところはどこ?」

「え?」

「ボクが肩代わりしてあげよう」

「いや、そんな簡単に言える額じゃないんだけど……」

しかし案内してしまう俊。


「工藤俊!いつもいつも逃げやがって……!やっと払う気になったか?」

「違う、ボクが払ってあげるんだ。いくらだい?」

「利息込みで400万。払えるのかい嬢ちゃん?」

借金取りのトップが夜に言う。

「もちろん。現金払いだ」

そう言って夜は何もない空間から現金を取り出す。

「「「へ?」」」

その場にいた全員が目を丸くする。

「ほら、これで文句ないだろう?行くよ俊」


俊は夜に腕を引かれて金貸しから出る。

「さっきのどうやったんだよ?」

「ん?能力だよ?」

「おま!能力をそんな堂々と……!すぐに感知されるぞ!?」

「大丈夫。ボクの能力は感知されない」

「は?」

「されないさ。絶対に」

俊は夜がなにを言っているかわからなかった。


世の中には気配をたどる能力持ちがいる。

それの応用として能力の使用がわかる。

そして感知能力持ちは国が雇ってくれる。


「とにかく君はボクに借金をした。無利息で貸しておいてあげよう。働いてちゃんと返したまえ」

「了解」

「さあ!今度こそ行くよ!」

町から出る一歩を踏み出そうとしたとき……


「魔物だ!」

だれかが叫んだ。

「ボクたちの旅は横やりがよくささるね……」

「どうするんだ?」

「ん?どうしてボクに訊くんだい?」

「俺の雇い主なんだろう?」

「それじゃあ君はボクが戦うと言ったら戦うし、戦わないと言ったら戦わないのかい?」

「そうだな」

「じゃあ戦おう」

「えー」

「文句言うんじゃないか……」

「だって俺Lv0だし……というよりできれば働きたくない人だし……」

「君はダメ人間だな……」

夜は呆れる。


「じゃあこの仕事は1万でどうだい?」

「え?」

「ここに来た魔物を倒せば借金から1万ひこう」

「マジで?」

「マジだ」

「行ってきます!」

俊は走って行った。

「さて、俊の実力見せてもらおう」

夜はゆっくりと空に浮かんだ。


町はところどころから煙が上がり始めていた。

他の勇者はなにをやっているのかと俊は疑問に思う。

しかしその疑問はすぐになくなる。

「上位種……!」

そこにはドラゴンが1体いた。

「まさかほかのところにいるのも上位種か……?」

ドン!

急に辺りが光った。

光の柱が空から出現していた。

「夜か!?」

多分あの柱の全ては魔物を殲滅しているだろう。……ここ以外。

あれ?夜さん?あんな風に殲滅できるのなら俺の目の前にいる敵も倒してくれないかな?俊はそう思わずにはいられなかった。

GYAAAAAAAAAAAAAAA!!

ドラゴンが吠える。

「上位種一体に1万は少なすぎるぞ!!」

俺、死んじゃうかも……と俊は思ったがその思いは消える。

多分死にそうになったら夜が助けてくれるだろう。

400万も借りてるのだ。そう簡単に死なせるわけがない。


「でも……女の子、しかも年下に助けられるわけにはいかないよな」

━━━展開。

俊は能力を使う。

「見せてやるよ、Lv0の勇者の能力を」

俊は口元に笑みを浮かべながら構える。

GYAAAAAAAAAAAAA!

ドラゴンのブレス。

この大きさのドラゴンだとこれだけでビルの一つは破壊できてしまうだろう。

「             」

俊が人には理解できない言葉をつぶやく。

瞬間、ドラゴンのブレスが拡散する。

ドラゴンがうろたえるのがわかる。

近接攻撃をされないようにするためかドラゴンが羽ばたき空に上がる。

「さすが上位種。ちゃんと考えも持っているのか」

俊は手をドラゴンに向ける。

「でも、そこも攻撃範囲内だ」

━━━結界固定。捕縛。

ドラゴンは急に羽を羽ばたかせるのをやめる。

しかしドラゴンは落ちない。

「            」

━━━収束。属性は威力の強い炎。

またつぶやく。

その瞬間ドラゴンの身体が燃える。

ドラゴンが骨だけになって落ちてくる。


「これでどうだ?」

戦闘中に近くに来ていた夜に顔を向けて言う。

「気づいてたのかい?」

「これで1万は安すぎだろ……」

「君は締まらないやつだな……でも1万は君だって納得しただろう?」

「それ言われるとキツイ……」

「さて、じゃあ今度こそ行こうか」

「ん?お前なんで泣いてるんだ?」

「泣いてないよ!」

「いや、でも……」

「ボクが泣いてないと言ったら泣いてない風にふるまいたまえよ」

「いや、俺は泣いてる女の子には手を差し伸べるタイプなんだ」

「借金勇者のくせに……」

「そこ関係あるの!?」

「ただ……」

「ただ?」

「自分の血が憎いだけだよ」

「?」

「理解できないのならいいさ」

そう言って夜は歩き出す。

「本当に自分の血が憎いよ」

夜は本当にうらめしそうに空に向けてつぶやいた。


「あ!」

「どうしたんだい?」

いきなり声を発した俊によるが振り返る。

「ドラゴンの部位切り取って持ってくるの忘れた……」

ドラゴンの部位は高く売れる。

「残念。それを売ればボクに借金返せたのにね」

「くそう……」

「まあ気にしたって始まらないよ。ボクたちの冒険はこれからなんだから」

俊と夜。

Lv差120の凸凹コンビの冒険が始まった。

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