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繋ぐのは小指だけ

作者: 秋元



 ――――随分昔のことだった。



 私はある旅人に出会った。

 彼はとんでもない体質で、いついかなる場所でもトラブルに巻き込まれていると語っていた。



 そして、私は彼をトラブルに巻き込んだ。



 私は魔女という厄介な存在だった。


 今住んでいる森ではない、普通の村にまだ暮らしていた私は『黒の魔女』と呼ばれていた。髪も目も黒いからだと思う。

 そこに彼はやって来たのだ。普通の人ならば避けていくというのに。

 人の出入りが少ない村では周りと違うというだけで、命取りだというのに。


 その時期、たちの悪い病気がはやった。原因は魔女だと村人は言っていた。肌が黒くなっていく病気だったから、余計に。

 そしてついに私は火炙りの刑を科せられることになった。

 私と仲が良かった彼も「魔女の遺恨はすべて取り除かねばならぬ」という名目の元、火炙りにされそうになった。


 そこで今まで大人しかった彼は大暴れした。便乗して私も必死に抵抗した。

 人生で初めて抵抗した。今までは怒りよりも諦めの気持ちが強かったから。


 そのころにはすでに彼へ「恋心」を抱いていたから。


 逃げ出した後、彼は一緒に行こうと言ってくれた。

 私とてもうあの村で生きていくことなど出来ないことは分かっていたから、頷いた。





 その後も相変わらずトラブル続きだった。




 ある村では盗賊だと勘違いされ、ある町ではそこを牛耳っていた悪徳領主と敵対し、ついにある国の首都ではクーデターに巻き込まれいつの間にやら彼は「王」になった。


 普通に旅をしていただけなのにな、と彼は苦笑していた。


 でも私は分かっていた。彼の優しさだとか懐の広さ、優柔不断かと思いきや自分の信念を決して曲げないところとか。

 周りの人はそんなところに惹かれていったのだろう。もちろん、私もだ。


 でもいつまでも一緒にいるわけにはいかなかった。

 いつからか私の「時」は流れなくなった。


 原因が分からなかった。

 それでも、老いもせず死にもしない怪しい人物が「王」の側にいることがいけないことだというのは分かっていた。



 私が自分から山奥で暮らすと言ったとき、彼は寂しげに顔を歪ませた。そして一言「ごめん」と言った。彼が謝ることではないのに。


 いざ出て行こうとすると「彼」が見送りにきた。

 もうこれで最後なんだな、と今さらながらに思い知らされた。だって私と一緒にいることをお城の偉い様方は良くは思ってなかったから。


 だから言ってしまった。「貴方が好きだった」と。


 彼は驚いていた。どうせそうだろうと思っていたから笑ってやった。彼が私に抱いているのは友情だ。この思いが報われることはない。

 でも、今度驚くのは私の番だった。「待っていろ」と言われた。「俺がこの立場から解放されるか、この生を終えるかしたら、また会おう」と言われた。


 次には自分たちの小指を絡め、約束した。


 どこの土地の風習かは忘れたけれど、はるか遠い未来を約束した。

 未来へと続く私と彼の道は決して繋がることが出来ないと思っていたのに、彼は約束してくれた。再び私に会いたいと思ってくれた。



 それだけで私は何十年も何百年も待ち続けることが出来ると思った。



 いつか、彼が戸口を叩く日を夢見て。


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