黒の魔法少女と想い人
今回の侵攻は二大都市群の大和と神狩州の間に出現した。
街には警報が鳴り響き、怒号が飛び交い、慌てた様子で指示を出す。
まさに混乱状態で、魔法少女達が指揮を担い、大和結界を防衛していた。
東地区の一部地域に瘴気の異常発生。
そんな通信が黒の魔法少女に届く。
密かに心拍数が上がる。
東には最愛の幼馴染である骸木華羽がいるからだ。
地下通路。
主侵攻の予測地点は南西であり、東側は一番安全であると考えられていた。
骸木華羽は男だが、力を借りることで魔法が扱える特別な人間だ。
あって損はないだろうと結界を張り終え、道具を片付けていた頃。
「は?」
腰に装備しているレーダーが火花と共に壊れた。
手持ちのマナストックを指で触れ、確認する。
「4本...」
通常の戦闘なら安心できる量だが、今回は違った。
ホルスターから筆を取り出す。
煌めきを放つその筆は魔法少女でいうステッキだ。
地面がわずかに揺れ、身体が危険を訴えるようにビリビリとするような感覚が骸木華羽を襲う。
胸のペンダントが輝き、骸木華羽を包む。
後ろでは結界が瘴気を弾き返しまるで骸木華羽を狙い撃つように瘴気が流れ込んだ。
瘴気が薄くなる頃、指先でマナを確認する。
「えー。2本も持ってかれちゃった」
細く黒い人間を真似たような身体に面をつけた化け物が骸木華羽の前に現れた。
カタカタと震え苦しむような笑い声が響く。
筆を振るった頃には遅かった、マナを流す隙もなく右腕を貫かれた。
痛みと瘴気のせいで筆を持つ力はもうない。
「さいあく」
体にマナを流し、身体能力を向上させる。
残された武器は刀のみ。
居合で弾き返せなければ骸木華羽は死ぬ。
集中力を切らすような場違いなメロディが響く。
骸木華羽に電話をかける人など一人しかいない。
勝手に電話が繋がる。
黒の魔法少女、黒薔薇だりあがスマホを改造しているからだ。
「なに?」
風切り音が電話から聞こえてくる。
きっとこっちに向かっているのだろう。
「私は...たぶん間に合わないけど、黄色ちゃんが向かってるから!」
珍しく声を荒げている。
骸木華羽の頬は少し緩む。
その時だった、四方から手が現れる。
全ていなし、わずかに傷をつけた。
掠めた傷から血が滴る。
「どーん!」
黄色の魔法少女が飛び込みながら、巨大な黄色いハンマーを化け物へ叩きつけた。
魔法の影響だろうか、化け物の頭上にはぴよぴよと鳥が飛びクラクラと揺れている。
黄色の魔法少女が再び飛び込む。
一撃目は防がれ、二撃目で吹き飛ばす。
その隙に骸木華羽は止血を済ませ、落とした筆を回収する。
「うーん。頑丈だなー」
ハンマーに寄りかかり砂埃が収まるのを待つ。
化け物が飛びだして一直線に走る。
どこか笑っているように見える姿は不気味だった。
黄色の魔法少女は再び構え、集中する。
「え!私素通りー!?」
焦りを見せた化け物はさらに加速し、骸木華羽の胸を貫く。
化け物の腕をぎゅっと離さない。
震える手で筆を突き刺し、残りのマナを流し込む。
もがき苦しみ後退りする黄色の魔法少女はその隙を逃さなかった。
ハンマーを振りかぶり、べちゃっと化け物は潰れた。
「あー。やっばい」
パタリと倒れた。
黄色の魔法少女が駆け寄り、手当てをしようとしたが...傷が予想より深刻だったらしく、手をビクッと止めてしまう。
黒薔薇だりあがついた頃には意識も朦朧としていて、黄色の魔法少女の魔力で延命できている程度だった。
「だりあなの?目が霞んでて...」
瘴気傷の進行が進み始め、激しい痛みとだんだんと五感が薄れてしまう恐怖に蝕まれてた。
黒薔薇だりあはそっと抱きしめる。
「華羽。ごめんなさい。お前は怖がりなのに大事な時に守れなくて...」
掠れた光を持つ瞳がじっと黒薔薇だりあを見つめる。
強がっていたが限界だったらしく、骸木華羽の頬にぽつぽつと涙が降ってきた。
「ねぇ。約束して?絶対にだりあが僕を見つけて、契約して。醜い化け物になってもだりあならわかるでしょ?」
返事を待たずに黒薔薇だりあの手をぎゅっと握る。
延命も効果がなくなってしまい、瘴気に蝕まれ、黒い塵となって消えた。
さっきまであった温もりはもうない。
そっと黄色の魔法少女が寄り添い、一人の犠牲と共に侵攻が終わった。




