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6話 ネオ・トーキョーへようこそ

未来の東京だったりして



星の海を抜けた先に、都市があった。


空中航路の終着地、太陽系最大の都市――ネオ・トーキョー。無数の光が雲を突き抜け、天へ昇る様は、まるで夜の銀河そのものだった。


「う、うわぁ……」


思わず息を呑むリアの声が、レイの隣で上ずった。

空を覆うのは雲ではない。排気ガスとネオンの混ざった人工の霞。そこに無数のホログラム広告が投影され、ビルを染め、空を彩っていた。


「すっげー……あれ全部、看板?」


「正確には“商業演算体の投影式拡張広告群”だよ。シェル調べ~!」


 シェルが小さな胸を張ってふよふよ浮くが、すぐに目を細めてしかめっ面になる。


「うぇっ……電磁波の味がする……!」


「味って……」


苦笑しながら、レイは都市の全景を見下ろす。ビルの表面は発光ラインが這い回り、空中に浮かぶ車両が縦横無尽に行き交っている。その一方で、地上には建物の影に沈んだエリアもあった。光が届かず、黒く濁った区画――〈グリッド88〉。

ネオ・トーキョーは来た旅行者はまずここを通ることになる。





「ここ……ほんとに同じ都市の中なの……?」


地面に足をつけたリアが、思わず呟いた。


〈グリッド88〉は、まるで都市から追いやられた街だった。壊れた広告ホログラムがちらつき、錆びた鉄骨の路地には謎の液体が染み出している。浮遊ドローンが警戒音を鳴らしながら頭上を巡回し、遠くでは誰かが言い合っている。


そして、その中でも人々は生きていた。


頭から火花を出している改造人間、体の一部が義手の少年、AIペットを連れて歩く老夫婦。喧騒と機械音に包まれて、誰もがこの混沌を“日常”として受け入れていた。


「見て見て! 焼きそばパンの自販機だー!」


シェルがくるくる回転しながら飛びつく。


「しかもホットドッグモードに切り替え可能! って、うわ! 焼きそばパンなのに中身ラーメンだよこれ!」


「名前から裏切ってるじゃん……」


レイが思わずツッコんだところで、通りのスピーカーが高音を響かせた。


『〈ネオ・トーキョー公安局より通達〉違法魔力反応の探知強化中。魔法の行使を発見した場合、最寄りの通報装置をご利用ください』


「……!」


リアの表情がこわばる。

街角のポスターには「魔法犯罪にNOを」と書かれていた。やはり魔法は帝国管内だと異端扱いされているらしい。


「この街……魔法、ほんとに危険視されてるんだね」


「そりゃそうだよ~。ここ、帝国の体の一部みたいなとこだもん。魔法使ったら、即お縄コース~!」


シェルが軽く言うが、その言葉の裏にはリアルな危機感があった。レイも、腰に携えた杖に手を触れる。何かあったときに使えるようにと反射的に身構えていた。





 通りの先、大きな広場に出ると、さらに異様な光景が目に入った。都市の中心、空中に投影された巨大な女性のホログラム――。


『星の彼方へ響け、わたしのメロディ! ユニ=ラピス、NEWシングル “Star Ripple” 発売決定!』


白銀の髪に流れ星の形をしたピン、天使のような笑顔。光の羽を広げたその姿に、観衆が次々とスマホを向けていた。


「わ……キレイ……」


「ユニ=ラピス……宇宙一のアイドルだよ!私も一回ライブに行ったことあるの!」


リアが見惚れるように呟き、レイがうっすらと頷く。


だが――

突然、映像が乱れた。


『……続いてのニュースです。アイドル・ユニ=ラピスさん、本日未明より行方不明との情報。事務所からの公式発表は――』


「……えっ?」


リアが驚いたようにモニターを二度見する。

そのとき、通りの向こうをフードを深く被った人物がすり抜けていった。


すらりとした体つき、やけに目立つ銀色のスニーカー。フードの奥は見えなかったが一瞬、綺麗な髪留めが見えた。


「……!」


彼は無意識に後を振り返った。

が、もうその姿は見えなかった。


「ねぇレイ、今の子……なんか、雰囲気似てなかった?」


「……あのホログラムのアイドルに?」


「うん……たぶん、気のせいかも。でも、ちょっと気になる」


レイは黙って、通りの先を見つめた。まるで街全体が何かを隠しているような、重い空気が漂っていた。



 


「この街、データ密度も空気の濃さも異常だよぉ……。なんか息が詰まりそう~」


シェルがふよふよと沈み込むように呟く。

その小さな頭が、ごく微かに左右に揺れた。


「……情報が足りなすぎる。誰が、何を狙ってるのか――分からないまま動くのは危険だ」


レイがぽつりと呟く。リアも静かに頷いた。


「マリモさんも言ってたよね。“帝国がネオ・トーキョーで何か動いてる”って」


「それが何かは教えてくれなかったけど……何か知ってる人が、この街にはいるかもしれない」


「じゃあ、聞いてみる? この街の人に」


リアが指差した先、ネオン看板がチカチカと明滅している扉があった。


「ほら、酒場。あっちの通り、ちょっとにぎやかだったよ。地元の人が集まるなら、何か分かるかもしれないし」


「えー、えー、いいねいいね! 飲めないけど雰囲気は楽しめそう~! バーテンダーが改造イカだったら全力で写真撮る~!」


「……その時点で店選び間違ってる気がする」


レイが小さく笑いながら、二人の後を追う。


煌びやかで、そしてどこか壊れかけた都市。

ネオ・トーキョーの夜が、ゆっくりと彼らを飲み込んでいく――。



とりあえず伸びが悪いのでここで一旦終わらせます!

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