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3話 これまでとこれから



あの日、レイは青白く光る湖に飛び込んだ。


――助かりたい。


それだけを願って、レイは青白く輝く湖に飛び込んだ。しかしそれは、命を繋ぐ癒しの水などではなかった。


全身が灼けるような痛みに襲われた。皮膚が裂け、血が沸騰し、骨が震える。肺に溜まった空気は焼き尽くされ、視界は真っ赤に染まっていく。


「――がっ……ぁあああああああああああっ!!」


叫び声すら泡となって消えていった。

だがその激痛と同時に、彼の傷は再生していく。

筋肉が編み直され、内臓が組み直される――再構築という名の苦痛。


それでも、レイは生きた。

気づけば、彼は湖のほとりで仰向けに倒れていた。


「あれは……死ぬやつだろ……」


震える体を起こし、意識を繋ぎ止めながら立ち上がる。そのときだった。岩の向こうから、先ほどまでレイをおもちゃ同然に遊んでいた黒い職種の魔獣が姿を現した。


黒い外殻に無数の触手。その先端は鋭い棘に変化し、獲物を貫くように蠢いている。

数時間前、命を奪われかけた相手だ。


「どんだけ魔獣が襲いかかってくるだこの星は」


足元に落ちていた杖を拾い構える。


(敵との距離はある。発動までに時間があっても間に合うはずだ)


【ファイアーウォール】


「喰らえっ!!」


ドオォォォォォン……!! 


轟音が洞窟に響く。

火柱が走り、空気が焼け、爆風が魔獣を吹き飛ばす。

その瞬間、黒い外殻がひび割れ、触手が崩れ落ちた。

魔獣は断末魔すら残さず、爆炎に包まれて燃え尽きた。


「いやいや、この威力はおかしい……!!さっきの湖のせいか?」


レイの動揺を待たずして、魔法の余波が洞窟の壁を揺らし、ゴゴゴと地鳴りのような振動が走った。

レイが立っていた場所のすぐ先、岩の壁が音を立てて崩れていく。


 「うわっ……!」


飛び退いた先、粉塵が晴れると、奥に人工の通路が見えた。

岩盤の奥に、古びた扉がある。彫刻のような文字が刻まれ、ほのかな魔力の痕跡が残っていた。


「……これは……?」


扉を押すと、ゆっくりと開いていく。

その先にあったのは――


古代の書庫。


崩れかけた棚に、無数の魔道書。

埃をかぶった巻物、魔法陣が描かれた石板、そして封印された小型の宝箱。

中心には、魔力で灯された自動点灯のクリスタルがかすかに輝いていた。


「……まさか、こんなものが……」


レイは震える指で、一冊の分厚い魔道書を開いた。

そこに書かれていたのは――先ほどの湖の正体だった。



この洞窟の奥にある湖は魔素溜まりといい、惑星が数千年かけて蓄積した純粋な魔力の結晶。

この水に触れた者は、肉体と魂が限界を超え、構造ごと再構築される。

耐えきれば、魔力は何十倍にも膨れ上がる。耐えられなければ、消滅する”

あれほどの量の魔素溜まりは見たことがない。

私は魔法が使えない為、これを読んでいるものに託そうと思う。



「じゃあ、俺は……死にかけたけど、生き延びたってことか」


さらに読み進めていくと、魔素を取り込んだ者には特異な変化が起きることが記されていた。



魔素溜まりを飲み、生還した者があるならこれも教えよう。魔素を多く含む生物――この惑星に住む魔獣を取り込めば、その魔力を吸収できるだろう。

魔獣の中にも魔素溜まりと同じ状況になっている。取り込む事によって魔力が増加するだろう。それに威力も。

以降は私の生涯をかけた発明だ。これから起こる魔導士を殲滅する時代が来る。絶対に阻止せねばならない。魔素溜まりから生還した者がいたらこの秘術を教えよう。これは魔法を詠唱する事による発動までの時間を無くすーー無詠唱魔法だ。魔力を貪り尽くす低燃費な代物な為、魔力が高くないとダメらしい。


作.ロード




「……魔獣を、喰えってことかよ。それに無詠唱?

こんなの力……手に入れれば格段に強くなるっ!!」


レイは本を閉じ、深く息をついた。

魔素に適応したとはいえ、疲労感と飢えが限界に近かった。


「それにしても腹減った……まずは…あいつ…か」


重い足取りで書庫を出て、魔獣の死骸の前に立つ。

焚き火を作り、肉を焼く。

生臭く、鉄のような味。しかし、口に入れた瞬間――


「おぇ」


吐いてしまった。それでも少しの血と肉片が喉に通って体が、熱くなった。


「ぺっぺっ!……不味すぎる。それにこれが魔素……確かに湖に沈んだ時の感覚と似てる」


自分の中の魔力が、微かに増えたのを感じた。

それは確かな“力”の実感。


レイは見上げた。洞窟の天井のさらに上――この惑星の、過酷な空。


「喰って、強くなる。そして魔法を学んで強くなる……それが、この星で生きていくために」


それからレイは修行に明け暮れた。

本を読んでは新しい魔法を試し、覚える。

体が疲れたら魔素溜まりに顔を突っ込み、魔力を補給する。


それを繰り返すこと数年……魔素溜まりは無くなっていた。


その頃には体は鍛え上げられ、この星に住む魔獣の過半数が減った。


レイは最強になっていた。




「……それが、俺の数年間の全部かな」


レイの言葉が途切れた瞬間、イグナス号の操縦室には静かな空気が流れた。リアもシェルも、その過酷な生き様に一言も返せずにいた。


うるうると涙をためていたシェルが、ぎゅっと拳を握り――


「レイィィ~~っ! がんばったんだねぇぇ~~っ!!」


「うわっ……ちょっ、シェル!?」


シェルはわんわん泣きながらレイに飛びつく。

服に涙を押しつけながら、ぐすぐすとしゃくりあげる。このロボットは涙も出るらしい。


「こわかったでしょぉ……! ひとりでぇ……っ、魔獣いっぱいいたんでしょ!? ひどい怪我もしてたのに……!」


「ちょ、ちょっと……泣かなくてもいいって」


「だってぇぇっ、ボクだったらムリだもん〜〜!」


レイは困ったようにため息をついて、シェルの頭をぽんぽんと優しく撫でた。


「ありがとな、シェル。お前がそう言ってくれるだけで、少し報われた気がする」


「うぅ〜……うんっ……」


その様子を見ていたリアが、少しだけ目を潤ませながら笑った。


「レイ、ほんと……すごいよ。たった一人で、数年もこんな星で……生きてたなんて」


「ただ、生き延びたかっただけだよ。それに運が良かっただけだよ」


「でもさ、運が良かっただけじゃない。ちゃんと努力をして強くなってる。それが一番難しいことなんだよ」


リアの笑顔はやさしくて、あたたかかった。

レイは少しだけ目を伏せて、それでも照れくさそうに小さく笑った。


「今度は、あたしたちの番だね。レイに、今の銀河のことを教えるよ!」


リアがパネルを操作すると、空間にホログラムの星図が広がった。


「これが現在の銀河マップ。アルファ帝国が……今は全体の六割を支配してるの」


「六割……そんなに」


レイの声は低く、しかし冷静だった。


「宇宙の端に位置しているアークまだ進行してきて、嫌な予感はしてた。けど……ここまでとは思ってなかったな」


「うん……あたしも、ずっと帝国のやり方に疑問を持ってた。だから、こうして戦士を探して旅してるんだ」


「戦士って、魔法が使える奴らのことだよな?」


「うん! 帝国に反旗を翻した魔法使いたちの総称だよ。噂程度しか聞かないけど、私はいるって信じてる」


(もしかしたらそこに父さんや母さんがいるかもしれない)


リアが手を動かすと、星図が切り替わり、領域が三色に分かれていく。


「帝国の支配下が60%、残りの30%は“中立惑星って呼ばれてる。戦争に関わらないようにしてる星たち。で、最後の10%が……レイがいた惑星みたいな、未調査の惑星なんだ」


「なるほど……ってことは、俺がいた星は完全に見放されているってわけか」


「そうそう! ほんとよく生きてたよね」


「……さっきも言ったけど偶然が積み重なっただけだよ。それに、リアやシェルが来なかったら1人で死んでた」


「今後レイがいなくなっても、ボクとリアなら絶対見つけられるよぉー!」


ホログラムに小さな青い星が表示される。


「そうね!シェルの言う通りだよ。それでね、次に向かうのがここ。ヴァルナっていう中立惑星!」


「……ヴァルナ?」


レイが少し首を傾げる。


「えっ、知らないの!? あ〜そっか、そりゃ知らないか……今から数年もあの惑星にいたってことは教育は受けてないもんね。ヴァルナはね、宇宙中の情報や物資が集まる惑星で、いろんな種族が共存してる商業の中心地なの!」


「へぇ……そんな星があるとは」


「ふふ、気に入ると思うよ。ちょっと騒がしいけど、楽しいところ!」


リアが笑顔でそう言った時、シェルがひょこっとレイの前にネックレスを差し出してきた。


「っと、惑星に着く前に、これ! 魔力量を隠せるの! つけてないと、レイの魔力……魔力探知機に引っかかるよ」


「へー、こんなものがあるんだ。ありがと。……ん、つけてみたけど何か変わった?」


先ほどから飛行船の中で鳴っていた音が消えた。


「わ〜! ほんとに、魔力探知機の音が無くなった!」


「あの音魔力探知機の音だったのか!ずっとうるさいと思ってたんだ」


「ふっふーん、ボクがこの飛行船に取り付けたんだよ!」


レイは思わず小さく吹き出す。


「そっか……シェルは凄いんだな!なんか久しぶりだな。人とこんなに喋ったの」


そう言った彼の横顔に、リアはうれしそうに目を細めた。


「よしっ、それじゃあ、出発だー!」


 イグナス号がゆっくりと浮上し、星の空を駆ける。

 そして――銀河の深部、ヴァルナへ向かってその身を預けた。



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