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1話 最凶の星

将来の夢は月に行くことです



数時間経った頃、どこかもわからない星の大気圏に突入していた。

脱出用ポッドの機体は振動し、計器はすべて赤く染まっている。機体の自動ナビゲーションは既に機能を失い、ただ落下という運命に身を任せていた。


「──やっぱ、死ぬかも」


 そう呟いた瞬間、機体が大きく軋んだ。次の瞬間、轟音と共に、大地がすべてを迎え入れた。





爆発は起きなかった。だが、それは生存を保証するものではない。

激しい衝撃と共に脱出ポッドの装甲が砕け、その破片と共にレイの身体は吹き飛ばされた。

木や岩に叩きつけられ、全身の骨が軋む。

息ができない。衝撃で息が吸えないのだ。


「っげほ、痛っっ……!」


肺に溜まった血を吐きながら、レイは這い上がった。

辺り一面は赤黒い瘴気が漂っている。岩が隆起し、木々は不気味に生い茂り、空は煤けた血のような色をしている。

それにこの不気味な惑星、やけに静かだ。


レイは潰れかけたポッドを振り返り、無事だったらしい軽い金属製の杖を握る。


「はぁ…はぁ…状況確認といきたいところだけど」


 その時だった。

 ──“視えた”


魔力感知によって捉えた、尋常でない数の“気配”。獣型のシルエット。今のレイの魔法技術ではぼんやりとしか分からないが、今まで見たことも聞いたこともない生き物だとわかる。


「さっきの着陸の音で引き寄せられたのか!」


十体、二十体、それどころじゃない。

この星の魔獣、強さや生態系など全く分からない。言葉が通じるのかも。


思考よりも先に、レイの身体は走っていた。

生物的な本能が警報を鳴らしていたからだ。


 



 


疾走する。足場は悪く、空気も薄い。それでも、走る。魔力で身体強化をしているが、それでも少しずつ近づいてくるのがわかる。


背後から迫る足音、土を蹴る音。咆哮。異常な殺気だ。

その中の一体が飛びかかってきた。

咄嗟に身体をひねり、レイは杖をを握り直し、飛びかかってきた敵に標準を合わせる。


「【ライトニング】!!」


杖の先端から魔法陣が展開されていく。

だが魔法の欠点である発動までの時間が影響して、発動する前に敵の攻撃が当たった。


「っ……ああああ!!」


反射で左手でガードしたせいで、左手の肉ごと噛みちぎられる。

薄暗い中で奴らの姿が露わになる。四足歩行の獣で目は一つ。背中からは数本の触手が生えており、こんな生き物は図鑑ですらみたことがなかった。

触手が足首に絡みつき、引きずり倒される。近くにあった石で叩きちぎり、再びたたあがり覚束ない足で走り出す。


(魔力が底をついてもいい!身体強化に全魔力を注ぐしかない!!)


逃げた先は崖で行き止まり。いや、正確には道は一つあった。あの化け物に喰い殺されるよりかは、一か八か崖から落ちる選択肢が。

あわよくば生きているかもしれない。

運悪くても、楽に死ねる。


「がぁぁぁぁぁぁあああ!!!」


リーダーだろうか、敵を追い詰めたと言わんばかりに咆哮し、仲間を集めて崖を囲むようにジリジリや歩み寄ってくる。


(父さん、母さん!どうか加護を!!!)


レイは決死の覚悟の末、飛び降りたのだ。

レイの身体は、一瞬の浮遊の後、岩肌が背中を裂く。肋骨が折れた音がした。


「ぐあっ……!」


そのまま、崖の斜面を転げ落ち、底の見えない深淵へと落下していった。





痛みで意識が飛びかけていた。

それでも、死んでいなかった。身体能力強化のお陰だろう。だが意識が飛んでくれてた方が有り難かったかもしれない。


再び立ち上がったレイの前に、何かが蠢いていた。

真っ黒な球体がこちらをみていた。全身が触手で覆われ、中心にある方は人間そのものだった。それゆえに異形だが人に近い部位を持つ異常さ。

魔力の波動が異常だ。さっきの群れとは、まるで格が違う。それにレイが自分よりも弱い生き物だと認識したのだろう、大きな口からは汚い歯が露出し笑っていたのだ。


「もう、無理だよ……」


触手がうねり、飛来した。レイは紙一重で避けながら、再び魔力を込める。魔法障壁を展開し、触手を跳ね除ける。


だが、次の瞬間。

鋭い触手がレイの腹部を貫いた。


「──ッがはっ……!」


身体が浮いた。痛みが増す。腹部からはあり得ないほどの血がボタボタ吐き出した、

視界が揺らぎ、口から血が溢れ出す。

そのまま、おもちゃで遊ぶかのように振り回して遠くの方へ投げ飛ばした。


目が霞んでいく。


(終わりか……帝国にやられるならまだしも、こんな訳の分からない惑星で、訳の分からない化け物に殺されるなんて。父さん、母さん…ごめん)


 だが──


岩の割れ目。そこから差す、微かな光が目に映った。


「あれは……?」


希望でもただの光でもいい。ただ生きて、帝国に復讐したい。

もはや這うようにして、身体を引きずる。触手が追いかけてくる音を背に、レイは裂け目に身体を滑り込ませた。





その先は、地下へと続く洞窟だった。

肺が使い物にならないのだろうか、息をするのもやっとだった。

意識が薄れかける中、彼の目に映ったのは──光。


 光の湖。


静寂に包まれた空間に、青白い湖。

そこだけは、どこか異質で、美しかった。

引き寄せられるように最後の力を振り絞り、その湖に落ちた。


血まみれの身体で、レイは湖に身を沈めた。

湖の中は透き通っており、何より気持ちが良かった。

身体中に魔力が流れ込む。傷口が光に包まれ、裂けた腹も塞がっていく。命が、戻ってくる。いや、強化されていく。


 だがその代償は──


「──っぐ……ぁ、あああああああああッ!!」


 『激痛』


頭が割れる。骨が軋む。魔力が体内を暴れ回り、臓器すら焼かれそうだ。

吐き気。眩暈。体内の魔力回路が、異常な速度で覚醒していく。


「ぅあ、あ……ぐ……!」


もはや自分の力では湖から抜け出せない。


叫ぶこともできず──レイはそのまま、光の底で意識を失った。



見てくれてありがとうございます。レビュー、感想を書いてくれるとモチベーションになります。

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