惑星アーク、滅びる
この作品を見つけてくださりありがとうございます。
ぜひ楽しんでもらえたらありがたいです。
赤い大気に包まれた惑星アークは、銀河でも数少ない“魔法が残る星”だった。
大都市のような文明はなく、空には魔力を帯びた巨大な浮遊岩が漂い、地上には精霊樹が根を張る。都市国家『リヴァル』では、魔法を日常に取り入れた穏やかな暮らしが続いていた。
その片隅で、少年レイは今日も魔法の修行に明け暮れていた。
「……っやば!」
額に汗を滲ませながら、彼は岩を圧縮して爆発させる。10歳ながら魔法が扱えるレイはリヴァルでは優秀な方だった。
「はは、ここまで魔法が扱えるなら十分だ。レイ、お前は自慢の息子だよ」
魔法の師匠であり、父親でもあるカイが笑いながら背後から声をかける。レイは肩をすくめ、魔法陣をかき消した。その様子を見て母親のイルは笑っていた。
「それでも、止まってられないよ。魔法がこのままじゃ、消されるから」
冗談のようで、冗談ではなかった。
銀河ではいま、“魔法狩り”と呼ばれる戦争が静かに進行していた。
科学を神と掲げる『ゼオ・テクト帝国』が、魔法文明を根絶やしにするべく、次々と惑星を占領しているという話は、銀河の隅々にまで届いていた。
そしてその夜、平穏は突然終わった。
――ドンッッ!!
空が爆ぜた音が響いた。揺れる地面。吹き飛ぶ家屋。
夜空に浮かぶのは、見慣れぬ金属の艦隊。青白く輝くビームが街をなぎ払い、人々の悲鳴が星を覆った。
「……帝国、だと……!?」
カイは瞬時に察した。突然の敵対行動はしない。戦争が起きるからだ。そして周りの惑星は同盟を組んでいる為、攻撃などあり得ない話だ。
カイは現状を把握すべく家から出ると、街の中心へ向かった。
街の広場には、全身を硬い鉄で作られた鎧を纏った帝国兵が降下し、住民を無差別に攻撃していた。
「魔法反応あり。即時排除開始」
「了解しました。魔法を行使する前に射殺しろ!」
彼らにとって魔法を使える人間は、“異常反応”であり、“対象”でしかなかった。魔法は強力だが、行使までに時間がかかる。それに反して帝国側が使う銃は主観的に人を殺せる。
そして数でも圧倒している帝国兵は次々と殺していった。それはまさに虐殺。戦闘とは言えなかった……
カイが家へ着くと、レイが家の扉を開けて外の様子を見ていた。
「逃げろ!レイ!!」
父の声が飛ぶ。肩を掴まれ、強引に家の中へ押し込まれる。
「イル!レイを裏庭に連れて行ってくれ」
「分かったわ!せめてレイだけでも」
「父さん?母さん?」
そう言って母に抱きかかえられて、裏庭に連れて行かれる。そこには人1人を乗せれる船のようなものがあった。
「脱出ポッドに乗れ。座標は……ガル・デュナス。決してここへ戻るな」
「そんな星……聞いたことも……!それに母さんと父さんは!?」
「そこに行けばお前を助けてくれる人がいる。父さんと母さんは後で向かう!絶対だ」
「愛してるわ。レイ」
母はレイのおでこにキスをし、父は笑った。最期の、2人の笑顔だった。
気づけば、彼の身体は脱出ポッドに押し込まれ、ハッチが自動的に閉まる。
「……ッ…父さん!母さん!開けてよ!俺も残るよ!その為に……魔法の練習だってしてたんだよ!!」
レイは叫んだ。誰にも届かない叫びを。
視界の奥、街が炎に包まれていく。
空を覆う帝国艦隊。彼らの支配は、攻撃的で圧倒的だった。
昼間は穏やかな風と街並みで、人々には幸せで溢れていた。それが一瞬にして崩壊した。
やがてポッドは閃光とともに地表を離れ、破壊されていく街並みが遠くなっていく。
――そのとき、帝国艦隊から一線のレーザーが放たれた。
「──っ!?」
ポッドが大きく揺れる。内蔵ナビが緊急アラートを鳴らし、進路座標が強制的に書き換えられていく。
《脱出ポッド損傷。ナビゲーションシステムに重大な異常》
《代替着陸ポイントを選定中……候補地登録ナシ203451へ向かいます》
レイはまだ知らない。
これから向かう惑星がどういう惑星なのかを──
よかったらレビュー、感想などよろしくお願いします。