第3話「可愛いは努力やって、ほんまやったん?」
放課後。
教室の窓から見える夕焼け。
「はい、特訓開始な!」
美麗がパンッと手を叩く。
場所は心愛の部屋。
ベッドの上には雑誌、コスメ、ヒール。
「ミススター出る言うたんやから、本気でいくで?」
「う、うん……」
正直、怖い。
黒崎レナの余裕の笑みが頭から離れない。
「まず姿勢!」
「え?」
美麗は心愛の背中を軽く押す。
「猫背あかん!ギャルはな、背筋で勝つねん」
「背筋で!?」
「堂々としてるだけで、可愛さ倍増や」
鏡の前に立たされる。
「自分見て」
心愛は自分の姿を見る。
ギャルメイクは慣れてきた。
でも目がまだ自信なさげ。
「笑ってみ」
「えへ……」
「ぎこちない!」
「む、無理やって!」
美麗が真剣な顔になる。
「心愛」
「うん?」
「可愛いってな、与えられるもんちゃうねん」
心愛は目を瞬く。
「自分で信じるもんや」
静かに言葉が落ちる。
「心愛が自分可愛いって思わんかったら、誰も信じへんで」
胸がぎゅっとなる。
(わたし、自分のこと好きやったことある?)
ないかもしれない。
「もう一回笑って」
今度は、少しだけ意識する。
自分を否定せずに。
「……どう?」
美麗がニヤッと笑う。
「それや。それが心愛や」
その瞬間、少しだけ胸が軽くなる。
翌日。
昼休み。
廊下で蒼真と鉢合わせ。
「お、特訓してる顔やな」
「顔で分かるん!?」
蒼真は笑う。
「なんか雰囲気変わった」
「……ほんま?」
「うん。前より目が強い」
ドキッ。
「なあ」
蒼真が少し真面目な声になる。
「レナ、昨日うちの学校来てたで」
「え?」
「話しかけられた」
心愛の胸がざわつく。
「……なに話したん?」
「心愛のこと」
一瞬、呼吸が止まる。
「やっぱ可愛いなって言われた」
「……は?」
「俺のタイプ聞かれた」
「で!?」
思わず身を乗り出す。
蒼真は少し照れたように笑う。
「自分で考え」
「ずるい!」
蒼真はふっと優しくなる。
「でもな」
「うん?」
「俺が応援してるんは心愛やから」
まっすぐな目。
逃げられない。
「コンテスト、楽しみにしてる」
それだけ言って去っていく。
心愛はその場で立ち尽くす。
(応援してる)
その言葉が何度も頭の中で響く。
放課後。
屋上。
風が強い。
心愛は一人で歩く練習をしていた。
ヒールで、まっすぐ。
「……よし」
一歩。
ぐらっ。
「きゃっ」
転びそうになった瞬間。
「危なっ」
誰かに腕を掴まれる。
蒼真。
「なんでここに!?」
「たまたま」
絶対嘘や。
「無理すんな」
「無理ちゃうし!」
でも腕は離さない。
距離が近い。
「なあ心愛」
「なに」
「勝ちたいん?」
少し考える。
レナに。
自分に。
過去に。
「……うん」
小さく頷く。
「勝ちたい」
蒼真が笑う。
「その顔、好きや」
また心臓が暴れる。
「でもな」
「うん?」
「勝ち負けより、自分好きになれたらそれでええ」
風が二人の間を抜ける。
心愛は静かに思う。
(わたし、変わってきてる)
まだ怖い。
でも、前より前向けてる。
遠くの校舎の下。
レナがスマホで二人を撮っていた。
「へぇ……」
その目は、冷たい。
「本気でいくわ、心愛」
文化祭まで、あと三週間。
恋もバトルも、加速する。
ギャルは、強くなる途中。
――続く。




