第二話 姫と王とヤンキー
あんなことがあった次の日。
もうこの日から授業は普通にスタートした。
この学校、少し…というかかなり変わっている、
偏差値こそ高いものの、面子がその…なんていうか…
ヤバい奴らが多いのだ。
自己紹介を聞いただけで、関わったらまずいと思ってしまう者もいた。
でもそれより…
あのでっかい狼をなんとかしなくてはならない。
あいつは離れようと思っても近づいてきて、逆らおうとしても声のせいで思うように動けない…
あれ?詰んでる?ツンデルじゃん。
これは真剣に考えないとまずいな…
「な〜にボーだとしてんの?」
「うゎっ!なんだよいきなり!」
「へへへ〜いやなんかかわいいな〜って思って♪」
また…すぐかわいいって…
しかしこれも声のせいで嫌だと思えない。
「うっさい!いちいち話しかけてくんな!」
そう言って僕は逃げるようにどころか逃げた。
「ちょっと〜まってよ〜」
「ダァァァァもう!着いてくんな言ったろ!」
僕はあの狼から逃げ続けるうちに体育館の裏まで来ていた。
しかしその時僕は忘れていた。
どの世界線においても、体育館裏というのは不穏なものであるということを…
「ふぅ…ここまでくれば…」
「ねぇ、話聞こえてるよね?」
「は…はひぃ…」
「そう、なら…お金、ちょうだい?」
どこからともなくこんな声が聞こえてきた。
いくら偏差値が高いといえど、こういうのはどこにでもあるようだ。
しかしどこかで聞き覚えのある声だな…
「とりあえず、とっとと離れるか…」
そう思い、その場を離れようとしたが…
「んー?なにしてるの?」
「ウワッ!?」
目の前…というか目のちょうど下に…僕よりも小さな女子が立っていた。
「だ…誰だ?」
「いやー困るんだよ。私の裏勝手に見ちゃってさ。」
「裏?」
そこではっと気が付く。小さく幼い見た目とそれに合わないどこか暗く、不気味な声…
入学式で見た…
「生徒会長…小紫 爽香…!
「やっと気づいたか。でもそんなことは関係ないんだよねー。」
そう言って彼女は少し距離をとり、振り返る。
「これ見ちゃった人には、正しい教育をうけてもらわなくちゃ♪」
なんだ…これは…
こんなに小さい(人のことは言えないが)、女子高生のはずなのに…
言葉に表せない程の…恐怖を…感じる…
「じゃ、はじめよっか。」
まずい…どうすれば…
「大丈夫、緊張しないで。私に身を任せるだけ…」
「れんれんいた~!!!!」
そう言ってでかい狼が空気をぶち壊しに来た。
ついでにあの怖い人もぶっとばされた。
「ねぇねぇなんで逃げるの?もっと話そうよ~」
狼は僕の肩をつかんでぐわんぐわんしてきた。
何も知らないやつがどれだけ幸せかがよーくわかった。
「あ、そうだ」
僕は何もかもの気力を失い、怖い人ではなく狼に身を委ねていたぐらいだ。
「昼休み、もう終わるよ♪」
「…」
そう言い終わると同時に、授業開始の鐘が鳴った。
体育館裏では鐘の音がよくこだましていた…
「高校最初っから…遅刻…かよ…」
After school...
放課後、荷物をまとめてとっとと帰ろうとした。
ら、案の定、あいつが来た。
「れんれ~ん 一緒にかえろ~!」
「はあ…」
僕は疲れきっていて、反抗することもできない。
「ていうか、なんで僕にそんな執着するわけ?」
とりあえず気になっていたことを聞いてみた。純粋に気になる。
「う~ん」
彼女は少し、といっても1.5秒ほど考えた後。
「わかんない!」
と、元気いっぱいに答えた。
「は?」
僕は拍子抜けな声を出してしまった。
「いや~最初に目つけたコだからね~ 大切にしたい!」
だったらもっといたわってほしい…と思いつつ、一緒に坂を下りるのであった。
と、その時。
「お前ら!止まれ!」
ただでさえ狭い坂に大声が響き渡るものだから、やかましくて仕方ない。
そう無駄なことを思ってるうちに、僕らは大勢の男に取り囲まれていた。
中には金属バットやヌンチャクなど、かなりいかついものを持ったやつもいる。
いやいや、何冷静に分析してるんだ。かなりヤバいぞこれ。
自分はこの体格のせいで戦うことなんか無理だし…隣にいるのもいくら大きいとはいえ女子だ。
任せることはできない…
どうすれば…
すると隣から声が聞こえる。
「7秒後に捕まえられる準備しといて」
なんのことか全く分からず聞き返そうとした。が。
狼はその瞬間目の前の男に殴りかかっていた。
ナニシテンダ⁉︎と思ったが、相手は…なんか…3メートル近く宙を飛んでいた。
オオカミはその後も次々と相手をぶっ飛ばしていた。
僕は情けなくも、その様子をただ唖然として傍観することしかできなかった。
僕があまりにもボーッとしていたためか、後ろから飛びかかってくるやつに気づかなかった。
自分の影に相手の影が重なる時にはもう遅い、
振り返る暇もなく、目をつぶった。ただそうすることしかできなかった。
その瞬間、
「いくよ」
狼は僕を抱えてガードレールから飛び出していた。
そこに都合よく…トラックが来ていて、僕たちは荷台に着地した。
僕は本当に唖然…というか意識が飛ぶぐらいには
困惑していた。
「ふゎー!うまくいった!」
ウマクイッターじゃないわ!やばいわ!
寿命3年は縮んだわ!
と、心の中でツッコんでおいた。
声に出してにツッコむ体力はない。
しかしよく考えてみろ。
彼女は瞬時に遠くから来るトラックをみつけ、ここに来るまでの時間がを割り出し、その上で相手を投げ、
トラックにうまく着地できるように立ち回った…
よくよく考えてみるととんでもないことをしていたようだ。
一体何者なんだ…帝王坂狼…
「で、この後どうしよっか?」
そうだった。いつまでも荷台の上にいるわけにはいかない。
「とりあえず…降りるだろ…」
「おk」
そういうや否や、狼は僕の体を抱えて飛び降りた。
僕はまた、寿命が3年縮まった気がした。
「さて…こうして色々あったわけだけど、」
狼はおもむろに話し始めた。
「どうしてオレたちは襲われたんだ?」
一人称オレだったのか…と思ったが、確かに不思議だ。このままだとまた襲われる可能性もある…
「そんな時には、このオレ!にお任せあれ♪」
「は?」
いきなりそんなことを口走る。どこまで自身があるのやら…
ハァ…と、とびきりのため息を吐いた。
「いやオレ、探偵業やってるから」
「…」
「と、いうわけで、れんれんには助手⭐︎やってもらおうかな!」
ああ…これだ…嫌な予感の正体…
生徒会長に迫られるだったり、いきなり襲われるだったり…そんなことの比じゃない…
こいつに…しかも助手として…振り回されることの方がよっぽど問題だ…!!
「ウソダドンドコドーン‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」