第一話 姫と王と入学式
4月、それぞれの新しい生活が始まる時期。
そういう僕も、今日から名門、私立桜光学園で新たな一歩を踏み出す。
桜坂学園はかなり有名な進学校で、偏差値は70程度ある。受験勉強も死ぬほど頑張った。
(ちなみに比喩ではない)
そんな大事な日、一生の思い出となるような…
「どこだよぉぉぉぉぉ!!!???」
…は?
ふと声のした方を見る。そこには背の高い女子高生が…遠目でもわかるぐらいには絶望していた…
制服からして自分と同じ学校か?
「あ!」
目が合ってしまった。
まずい。これはまずい。本能がそう訴えてくる。
もしここで返事をしてしまったら…たぶん…いや絶対…とんでもないものになるだろう…
そう思い僕は無視を決め込んで反転し、学校に向かおうとする。が、
「ね~え教えてくれない?学校の行き方」
「ドゥア!?ナンデ!?」
彼女は目の前にいた。たぶん顔から10センチほどしか離れていないだろう。
この状況で無視を続けられるほど僕のメンタルは強くなかった。誠に遺憾であるが、仕方なくコミュニケーションを図ることにした。
「えーと…桜光学園の生徒ですよね…?」
「そう!新入生の 帝王坂 狼だ!よろしく!」
「いや名前は求めてない」
はあ…なんなんだこいつは…いきなりこれかよ…
「まあ、僕についてくれば着けるから、勝手にして」
「オーケー!…んと、名前は?」
「教えない」
これ教えたらまずい。とてもまずい。断言できる。
「え~。こっちは教えたのに~教えろ~」
そういって彼女…もとい狼は僕の肩をつかみ前後に揺らしてきた。
「あなたみたいなヤバい人には教えたくないよ…」
「ふぇ~かわいい見た目して辛辣~」
そういえば言ってなかったが、僕は身長が152㎝と、15歳にしてはかなり小さい。
そのせいでよくかわいいと言われてしまうのだが、僕はそれがコンプレックスで、気に入らない。
だから、僕は人一倍努力し、かわいいなどと舐められないようにしているのだ。
「はあ…朝から疲れた…飲み物でも買お…」
そういって定期を出し、イチゴミルクに手を伸ばそうとしたところ…
「スキあり!」
「んなっ!?」
そういって彼女は僕から定期を奪い取った。
「ちょっ…KA☆E☆SE!!」
僕が必死にジャンプして取ろうとしても、彼女は170㎝以上あり、奪い返すことはできない。
「へぇ~ ヒメサカ レン…姫坂 蓮かな?」
「おい、いい加減に返せ」
「はいはい~♪」
くそ…ぬかった…あっけなく名前がばれてしまった…
「んで♪どう行くの?れ~んれん?」
「はぁ?れんれん?」
「そ、蓮だから、れんれん!かわいいっしょ♪」
「はあ…かわいいって…」
でもなぜだろう…不思議と落ち着いてしまう。そのせいで思う様に怒れない…
「もういい!勝手にして!」
「はいは~い、勝手にするね~れんれん♪」
もう付き合ってられないと思い、気持ち急ぎめで学校に向かった。
その後ろを、謎の存在感を放つ大きな狼がついてくるのであった…
At school...
入学式がおわり、担任が教室に入ってきた。
「ハイどうもこんにちは~D組担任の武口 魔理奈で~す以後お見知りおきをっ」
これまたすごいのが来たな…ようつべーかよ…と思いつつ、ご恒例、自己紹介が始まった。
その時気づいた。いや、とっくに気づいていたのだが、気づきたくなかっただけなのだ。
「こんちゃ~♪天才JKの帝王坂 狼で~す!みんなよっろしく~☆」
ドォシテダヨォォォ!!!!なんであいつが…いや…なんとなく知ってたけど。できることならやめてほしかったな…
ていうかこんな自己紹介、みんな引くだろ…
「「「わああああ!!」」」 「「かわいい!!」」 「「美人!!」」 「「それでいてかっこいい!!!!」」
は?予想の第一象限の方向の反応なんですけど。
といっても自分もなんか落ち着く…というかふわふわする…
そこで僕ははっとひらめいた。
「1/fゆらぎ」だ!
説明しよう。1/fゆらぎ(エフぶんのいちゆらぎ)とは、パワー(スペクトル密度)が周波数 f に反比例するゆらぎのこと。ただし f は0より大きく、有限な範囲をとるものとする。(出典wikipedia)
かつてのヒトラーやかの有名な産屋敷〇屋も該当する。簡単に言えば聞いた人にリラクゼーション効果を与えられる声を発する人のこと。このような人は必然的にカリスマ性が高い傾向がある。(説明終わり)
だからクラスの人たちは湧きあがり、自分でさえも少し魅了されてしまうのだ。
そんなこんないろいろ考えているうちに、自分の番が回ってきた。
まずい、何も考えてなかった。え…っと…
「ひ…姫坂 蓮です。好きなものは…マカロンと猫…」
言い終わってから気づいた。
シマッタアアアアアア!!!!!!と。
まずい。ほんとうにまずい。本来の予定では好きなものは数学とか言うはずだったのにいい!!!!!!
あいつのせいでつい本音が出てしまった…!!!!
まあ、男子だし少し引いて終わると思ったのだが…
「かわいい…」 「尊…」 「これは推せる…!」 「キュンとキた…!!」
あれ?なんか違う。
引くでも、はしゃぐでもなく、なんか…和んでらっしゃる…(?)
その時ちらっと大きな狼が目に映った。
よくも…!!!と思いつつ彼女を見ると…
ニマニマしてる。
ものすんごいニマニマしてる。
腹立たしいほどにニマニマしてるんですよ。あの狼。
アンンオヤロォォォォォォォォ!!!!!!オボエテロヨォォォォォォォ!!!!!!
かくして、一波乱どころか二、三波乱ある入学初日は幕を閉じ…いや…
幕がやっと開いたのであった…