「ラストマイル」完全ネタバレ感想
待ちに待った公開。
野木ユニバース、現時点の集大成。
妻と観てきた。
ボロ泣きしてしまった。
映画系YouTuberは、シネマンションのほか、おまけの夜というチャンネルが推しで、ほぼすべて視聴している。
今回、ラストマイルの考察動画がアップされる予定だが、かなり練っているようで、まだ時間がかかりそうだ。
それより前に滑り込みで、私の考えを記録したい。
以下、激烈ネタバレの感想、気づき、考察などなど。
***
①404号室
シングルマザーのアパートに設置されている荷物受取ボックスで、部屋番号404の文字が表示される。
404not found。
見つからないことを象徴している。
②シングルマザーの窓
ラスト。
404号室に駆け込み、爆弾を投げ捨てようとするも、窓が開かない。
なぜ、開かなかったか。
あのお母さんは、子供の落下防止に、特殊な鍵を窓に後付けし、対策を打っていたのだ。
市販の簡単なものでも、その家の住人でないと、ぱっと見では開け方がわからないものだ。
だから洗濯機だったのである。
③飛び降り禁止
配送センターの吹き抜けに、最後まで、落下事故防止のネットが張られることはなかった。
シングルマザーはすぐに対策を打ったのに。
この対比はどういう意図だろうか。
あのロッカーを受け継ぎ、責任あるポストについた人間は、頑なに落書きを消さず、ネットを張らない。
ドロップアウト。
重い責任から逃れる最終手段。
それは、ある種の救いかもしれない。
死が、まるでセーフティネットのよう。
最後まで握っていたい命綱は、死そのものなのではないかと思えてくる。
だから、いつでも途中下車できるように、あえて対策を打たず、そのままに。
皮肉だし、倒錯している。
この部分には、さまざま解釈があろう。
私は梨本が、センター長赴任後、何より先にネットを張ってくれると信じている。
④正常性バイアス
自分だけは大丈夫。
そう思う心理があることを説明したのは五十嵐だったが、目の前で人が落ちて、どうして自分は大丈夫だと思えたかと、終盤エレナから問われている。
ブーメランである。
⑤白い責任
ホワイトパスという、あからさまなホワイトカラーとブルーカラーの格差描写で、その対比に気づかないものはないと思うが、着ている服の色も、エレナは白くなっている。
⑥外資系の支配
野木脚本は、もはやドキュメンタリーである。
直近では「フェンス」というドラマで、アメリカ兵が現地で犯罪を犯したとしても、沖縄米軍基地のフェンス内に逃げ込んでしまえば、日本の警察は逮捕できないという理不尽を描いていた。
アメリカの強権、抑圧された日本。
構図としては似ている。
問題意識はそこにあるのかもしれない。
しかし、かといって、反米という単純な立場ではない。
ある思想を押し付けるのではなく、現状の違和感や、純粋な問題意識を掲げて、どう思う?と投げかけてくれるのが野木作品の高尚さである。
⑦落書きの意味
ゼロ以外の意味を考察し合うフェーズだろう。
私は、進捗や効率をリアルタイムで表示する円グラフを連想した。
山崎は、あれを100%、つまり真円に近づける仕事をしていたのではないだろうか。
それなのに、いつまで経っても円にならない。
少しでも欠ければ、人格ごと否定される日々。
そこで、はたと気づく。
いっそ止めてしまえば。
0%も真円になるのでは?
⑧人類の進歩
2.7m/sは、人の歩く速度より速い。
徒歩1分で80mというのが、不動産業界の基準となる速度だ。
80/60≒1.3m/sなので、約2倍である。
山崎佑は、ついていけない、と思ったのではないだろうか。
人類は、そこまで速く進まなくても良いのではないか。
⑨マグロのように動き続ける
五十嵐がランニングマシンに乗り走っているシーンは、もはや笑えてしまった。
こいつは止まることを知らないのかと。
動き続けないと生きていけないのか、マグロか。
でも、この静と動がテーマだと感じる。
人類の歩み、昼間起きて夜寝るというサイクル。
これを無視して、それ以上の成果や進歩を求める社会システム。
不眠になったり、自ら命を落としたり、そちら側になりたくなければ、不断の努力によって自らを強く保ち続けなければならない。
降りた者から死んでいく。
止まっていく。
⑩眠りと死
ラストのエレナの睡眠は、おそらく4日ぶりの爆睡ということなのだろう。
冒頭、電車の中で眠っているのを最後に、彼女は作中、眠れていないのだ。
警察車両の中で眠るエレナは、叩いても起きない。
名前を呼ばれても目覚めない。
まるで息をしていないかのようだ。
でもよく見ると、お腹が上下していて安心する。
11.息が止まる、機械の心臓
ラストの畳み掛けは恐ろしい。
思わず息を忘れ、ロッカーの文字に飲まれる梨本。
ふと我に帰り、呼吸を取り戻す。
荷物を運ぶベルトコンベアだけは、絶えず、止まらず、動き続ける。
心臓の鼓動のように一定のリズムで。
そこに、米津玄師の歌。
ブレスから始まる。
映画館で聴けてよかった。
12.what do you want
欲望とは何か。
全てが欲しいエレナと、現状を維持したい梨本。
強者として動き続けたい五十嵐。
敗者となっても構わないから、すべてを止めたい山崎。
欲望と無欲の対比かと一見思うが、実は、どちらも欲望ではないか。
13.五十嵐を悪者に
山崎は、自分が被害者となることで、会社を悪に、五十嵐を悪者にしたかった。
責任を追求されることで、苦しんで欲しかったのだ。
そうでもしなければ、止まらないから。
静の側からの逆転は望めないから。
勝てないから。
山崎の自死は、それすらも欲望なのだ。
14.動き始めたら止まらない
冒頭、電車の中でエレナの顔のアップが映る。
これがやけに長い。
緊張しているような、リラックスしているような。
物思いにふけるような、何も考えていないような。
これほど長く、ゆったりと時間を費やせる場面は、この瞬間が最初で最後である。
動き始めてしまったら、時間の流れに絡め取られてしまう。
社会の動きに飲まれてしまう。
それでも動かなければならない。
止まらないために必死である。
15.また元気に会うために、しばしお別れ
荷物を区切る金属の板。
心拍に似た稼働音。
心臓と血管の逆止弁のようにも思えてくる。
動き続けていればどこか壊れる。
一度止まって、休まなければならない。
それはしばしの別れとなるが、また元気に会うための必要な区切りである。
人は、終わらせることができない。
区切ることがせいぜい。
ラストマイル、最後の区間。
ラストは、一つ前のことでもある。
エンドは続くことでもある。
デイリーファーストのロゴは、円が二つ重なっている。
まるで♾️のようである。
誰かにとっての最後は、誰かにとっての途中であり、始まりなのである。