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「アンナチュラル」第八話

 野木亜紀子脚本、不朽の名作「アンナチュラル」について触れたい。


 アンナチュラルは、とくに第一話は、未視聴の方がいたら度肝を抜かれることだろう。

 まるで未来予知なのである。


 例によってネタバレありで考察する。

 未視聴の方はいますぐ。


 ***


 バディものについて、例のYouTubeチャンネル「シネマンション」で講座があった。全3回の講座なので、今回が最終回となる。


 探偵と助手のプロットについての話だった。

 お決まりの展開、王道の構造があるということがわかった。

 10項目くらいに分けられていたが、わかりやすいところで挙げる。


 ・探偵と助手が出会う

 →助手は探偵をいぶかる、しかし才能は認める

 ・「たき火を囲む」

 →内心の吐露、最終決戦前に結束を強める


 たしかに、あるあるである。

「MIU404」こそ、このプロットに沿って考察すべきだった。


 ***


 なぜ第八話なのかというと、私が好きだからである。


 複数の登場人物に、それぞれ「帰れる場所」と呼べる心の拠り所があるか、という話になっていく。


 そのうちの一人が、身元不明の焼死体である。


 第八話のミステリー上のクライマックスとなる遺体の謎と、ほか複数名の感情的クライマックスが見事に重なる。


 日常→非日常→新しい日常


 冒頭の日常は、大きく二つのシーンに別れる。

 ①窪田正孝がバイト先の雑誌社から後ろめたい連絡がきているのを無視する。

 ②所長が遺骨引き取りを拒む遺族の老人宅を訪ねる。

 ↓

 消防車のサイレン(非日常へ緩やかに導入)


 ここからは、あまりにプロットが美しいため、普段はあらすじなしとするところ、ほぼストーリーをなぞらせてもらう。


 ビル火災により10体の遺体が運ばれてくる。

 解剖を行うと、うち1体に、火災によるものではない損傷が見つかる。

 殺されて燃やされた、殺人の事後放火か、という話になっていく。

 さらには11人目にあたる生存者がおり、衣服には血液が付着していた。

 犯人か?という煽りが入る。

 間髪入れず、窪田正孝の父登場。

 医者になる道を踏み外すなと詰め寄る。

 解剖を行う法医学者さえも、父は否定する。

 ↓

 いわゆる「焚き火」のシーンへ。

 窪田正孝と石原さとみは、飲み屋で父について話す。

 両者、プライドのために結束。

 とにかく謎を解くことで、認めさせようとする。

 この物語は謎解きこそが冒険であり、非日常であり、葛藤、闘争である。


 デンタルデータという武器が登場し、遺体の身元判明に寄与する。

 石原さとみの母登場。

 石原さとみは養子であり、血は繋がっていない。

 そのことから、「帰れる場所」をつくってあげられているか心配だ、という説明が入る。

 言葉として「帰れる場所」が登場するのは、おそらくここが初めてだ。

 しかし、すでにいくつもの命題が散りばめられている。

 遺骨にとっての「帰れる場所」、父に認められない息子にとっての「帰れる場所」、身元不明の焼死体たちの「帰れる場所」、なんという脚本力なのだろう。


 その後、あらゆる専門用語が飛び交い、それぞれが武器や杖というクエストをこなす材料として機能し、捜査が進展する。

 そして、他殺の疑いがある遺体の謎だけが残される。


 ここで地味に、所長の「焚き火」シーンが入る。

 人物としては窪田正孝と井浦新の二人の会話であり、伝聞の形をとる。

 そこで所長の並々ならぬ情熱が語られ、組織の存在意義が改めて示される。

 窪田正孝のモチベーション、自己肯定感、法医学を否定する父への反骨精神など、底上げされる。

 遺体の身元を突き止め、絶対に帰すという宣言がなされる。


 調査が進むも、なかなか手かがりを掴めない中。


 石原さとみがひらめく。

 カテーテル手術の痕ではなく、銃創。


 警察の前科者データから身元特定。

 遺族に引き合わせることに成功。


 ところがさらなるトラブル。

 遺族である父が遺体の息子を罵倒する。

 他殺の可能性があることを承知で、人を巻き込んで焼かれて死んだことにさえ激昂する。

 もともと銃創がつくような反社会的な人物だった。

 親の心情としては理解できるかもしれない。


 テラスでランチ。

 未婚のままでは、将来どこに帰るのか、という話になる。


 残業のシーン。

 ここで、石原さとみと井浦新の「焚き火」。

 結束を強めつつ、さらには井浦新の過去、ラスボスへの布石が打たれる。

 最終話への助走である。


 警察の聞き込み。

 火災のあったビルによく出入りしていた被害者。

 被害者を知る人物が登場。


 生存者に紐の跡。

 被害者と生存者の関係はなし。


 紐の跡について、本を読み、調べる。


 どんな縛り方だったのか説明を挟み、その後、火災の火元が家電製品の発火事故だったことが、テレビを見ろという電話を受けて、ニュース映像から判明。


 同時に、紐の跡は、人が人を背負い、搬送するための縛り方をした跡だと判明。こちらは、電話で伝える形。


 老人宅の所長へ、窪田正孝が手がかりの入手を懇願。

 火災現場の写真を入手してほしい。

 遺体周りしか見ていないこと、どうしても被害者の名誉を回復したいことを告げる。

 所長と入れ替わり、窪田正孝が老人と会話。

 老人の内心が吐露される。

 窪田正孝だから聞き出せた形である。


 現場にも、警察に無理を言って入る。

 実物感や、冒険の要素も必要である。

 ある情報が確定する。


 生存者、意識を戻す。


 被害者遺族と再度面会。

 死の真相を告げる。

 ミステリー上のクライマックスを迎える。

 実は被害者は、火の手から人を助けようと、10人背負い搬送していたことが明らかになる。

 炎で道が塞がれ、上に逃げるしかなかったため、結果として1人しか助からなかったが、どうにかして人命を守ろうと必死だったことが告げられる。


 被害者は、ビルの常連となり、我が家だと言っていたこと、実は実家に帰りたがっていたことが明かされる。

 父は元消防士であり、縄の縛り方は父から教わったものだった。

 覚えとったんやなぁ、と父は息子を涙ながらに認め、窪田正孝らに頭を下げ感謝して去る。


 窪田正孝、父に会いに行く。

 法医学の道に進むか、医師になるか、まだわからないが、今の仕事を続けながら考えたい、という意見をぶつける。

 わかった、と了承したかに思えたが、父は、ならばうちの敷居を跨ぐな、と一喝して去る。


 遺骨が老人の元へ帰る。

 ちっちゃくなっちゃったなぁ、と骨壷を撫でる。


 窪田正孝、仕事場に戻ると「おかえり」と迎えられる。

 帰れる場所があることに涙する。


 石原さとみ、母と電話で、職場で飲んでいることを報告。

 母、心配なさそうね、と安堵。


 ここから、最終話へ向けた怒涛の不穏な危機感ラッシュ。


 最後は連続殺人の遺体を見つけて、次週へ。


 ***


 連続ドラマのたった一話に、4つのシンクロニシティを盛り込むなんて、尋常ではない。

 相場は二つと決まっている。

 過剰摂取で中毒になってしまう。


 ただプロットをなぞるだけになってしまったが、こういう名作は、ただ暗記するだけでも身体にいいはずだ。

 兎にも角にも、新作映画が楽しみである。

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