「MIU404」第一話
野木亜紀子という天才脚本家の名前を、エンタメ好きなら頭に入れておいて損はない。
クライムサスペンスを書かせるとズバ抜けて面白く、星野源と綾野剛のバディが目の保養である「MIU404」は、当時の日本人のエンタメ需要をすっかり満たせてしまったのではないだろうか。
連続ドラマでここまで引きがあり、いつ見返しても最終回まで芋づる式に掘り返してしまう名作はそうないだろう。
来月には野木脚本の新作映画「ラストマイル」が公開される。
面白いに決まっている。
面白さの秘密に迫るべく、「MIU404」第一話について、ネタバレあり、あらすじなしで考察していく。
未視聴の方は例によって、とにかく見ないと損である。
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初っ端から話が逸れるのだが、「葛藤」について、原文は「conflict」、意味は「闘争」であるとの解説があった。
元ネタはシネマンションというyoutubeチャンネルで、現在進行形で更新されている内容、脚本に関する講義を筆者は見て、影響を受けて、この文を書いている。
にわかであること、あしからず。
「葛藤=闘争」ということは、単に敵が現れ、倒すだけでも立派な物語となる。
戦隊ヒーローなんか、まさにそうかもしれない。
ヒーロー側の日常と、敵のアジトでの悪巧みが描かれたあと、街に怪人が派遣され、被害が及び、ヒーローが駆けつけ、邂逅する。(非日常へのダイブ=闘争)
一度戦うもワケあって退散。
再戦のための中だるみをつくってから、巨大ロボットバトルまでのクライマックスに突入していく。
無事敵を倒し、戦いの中で成長し、新たな日常へ。
敵を倒すという具体的、物質的なゴールと、葛藤を乗り越えて成長するという精神的なゴールを重ね合わせることが良い物語だといえるだろう。
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新しい部署、新しい相棒と組まされることになる主人公。(非日常へのダイブ)
結論からいこう。
クライマックス、そして新しい日常はこうだ。
犯人を逮捕。(クライマックス①)
はじめは認めていなかった相棒について、見直して、続く。(クライマックス②と新たな日常)
ここで犯人逮捕にプラスしてクライマックスがくる。
遡及的に明示されるのは「主人公は新しい部署に満足していない」という葛藤である。
つまり異動という非日常へのダイブは、望むものではなかった(飛び込む葛藤)のと同時に、連続ドラマであるから、二話以降その部署に居続けることになるが、一話のラストにある、その部署を否定していた自分を改め、評価することそれ自体が、葛藤の乗り越え(クライマックス②)となっているのである。
主人公が配属されたのは、機捜という、フットワーク軽く初動捜査をメインに行う部隊だった。
大きなデメリットは、逮捕をする部隊ではないということ。
初動のみ行い、あとは引き継ぐ。
カタルシスがないのだ。
もとは優秀な刑事だったが、左遷された経緯もある。
そんな自分を認められない、新しい仕事に胸を張れない。
しかし、同じく機捜に配属された相棒は、あっけらかんとして、ラスト、こう言う。
「誰かが手遅れになる前に助けられるんだよ、超イイ仕事じゃーん!」
組織のルール、高度な分業、仕方がないと飲み込んでいたことを、この男はことごとく破り、ただ純粋な正義感で、向こう見ずな行動ばかりだが、現に犯人逮捕までこぎつけてしまった。
何も知らない馬鹿が来たと見くびっていたが、自分にはない視点をもっていて、それは素晴らしく、今の自分にとってまさしく必要なものだった。
今ここからでも、できることがあるじゃないか。
主人公の葛藤、殻を破るラストである。
野木脚本は現実の知識を物語の骨組みとしている。
現実にある組織、そのしがらみ、話題の犯罪、現代人特有の葛藤などを絡めて、エンタメに昇華するのだ。