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「ジェネラルルージュの凱旋」

 ミステリーではどうだろうか。

 小説原作だが、実写邦画の方を考察したい。

「ジェネラルルージュの凱旋」は、私のオールタイムベストだ。


 以下、ネタバレあり、あらすじなしで書くので、ご覧になっていない方はぜひ鑑賞いただきたい。

 日本映画でも屈指のテンポの良さを誇る名作です。


 ***


 ミステリーを考察してみたが、あまり芯を食った解釈ができなかったと反省している。

 生ぬるい目で読んでいただきたい。


 ミステリーは事件がそのまま非日常にあたる。

 解決されれば、また日常に戻る。


 日常

 ↓

 事件

 解決

 ↓

 平和な日常


 事件という非日常へのダイブに、登場人物は渋らなければならない。

 葛藤があり、飛び込む勇気が要るほうが、物語として引きがあるからだ。


 竹内結子演じる医師の田口は、タレコミ文書を何者かによって診察室のポストに投じられ、院内の不祥事について、真偽を確かめるよう要請される。

 院長に頼まれる形だ。

 事なかれ主義の田口が事件に首を突っ込むのには、それなりの理由がいる。

 自分からは飛び込まないだろう。

 院長の頼みも、本来ならば当然断ってしまうはずだ。


 しかし、もっと面倒な、院内の倫理委員会の委員長という席に、なかば強制的に座らされているという経緯がある。

 これを田口は引き合いに出して、調査に成功したら委員長の座を降ろさせて欲しいと交渉する。

 条件つきで、キャラクターに無理なく事件へと足を向かせる。


 探偵役は、二人いる。

 静の田口と、動の白鳥だ。

 白鳥というのは、交戦的で、事件には自分から首を突っ込んでいくタイプだ。

 実は白鳥にも、同様の差出人不明タレコミ文書が届いていた。


 動だけでも事件は解決するかもしれないが、葛藤がない。

 静だけでは、葛藤はあっても、事件が解決しない。

 うまくできている。


 クライマックスについて。

 この映画はどこがクライマックスか迷うほど怒涛の展開となる。

 そう感じるのは、ミステリーが真相究明自体をクライマックスとしているからだ。

 そこに映画的な葛藤=クライマックスが被さって、怒涛の盛り上がりのように感じる。


 ①ミステリー(真相と犯人)

 ②葛藤


 倫理委員会という見せ場において、真相が明かされる。

 ここでタレコミ文書を誰が書いたのか等が明かされる。

 ただし、事件はもう一つ起こっており、それについては保留されるが、大事なのはこの真相究明自体が、物語上の葛藤についての解説になっている点である。

 物語上の葛藤は、堺雅人演じる速水センター長の葛藤に重なっていく。


 その後、間髪入れずにデパート火災が起こり、病院に大量の負傷者が運び込まれる。

 これが②葛藤のクライマックス、つまり物語上、ひいては速水の葛藤である。

 この映画における葛藤とは何か。

 それは、「人の命と、カネ」の問題だ。


 人の命は救うべきだ。

 しかし現実問題として、経済、経営的観点からの要請は常につきまとう。

 これらは両輪であり、どちらも蔑ろにされてはならない。


 しかし、パワーバランスが崩れ、経営側が力を持ち過ぎていた。

 そこにデパート火災という事故が起こり、倫理の側が虐げられながらも積み上げてきた努力が身を結ぶ。


 人の命は軽んじられてよいのか?という葛藤に、否、軽んじられて良いはずがない、というカウンターパンチが入るのだ。

 物語上の逆転が爽快に起こるのである。


 面白いのは、そのさなか、真犯人が明かされる。

 もう一つの殺人事件の真犯人が、さらっと、しれっと、コミカルに断罪されるのである。


 そして日常へ。


 日常に戻ってからも、とにかく面白い。

 退職を心に決めるほど葛藤していた救命救急センターの速水センター長は、先のデパート火災の一件があったうえでなお、辞めるという。

 それを、田口が止めるのだが、速水がいつもチュッパチャプスを舐めているというキャラクター造形が、そのまま伏線となっていることが判明し、またしても唸らされるのである。


 ***


「PSYCHO-PASS」というアニメの脚本を務めた虚淵玄が「設定上のクライマックス」という言葉を使っていたのを思い出し、今回、ミステリー上のクライマックスという言い方をさせてもらった。


 葛藤を乗り越える、という言い方では、ちょっと意味がわからなくなってしまう。


 よりわかりやすいのは、世界観の転換だろう。


 葛藤を乗り越える、殻を破る、自動思考を制することで、新しい世界観、解釈、ものの見方、自分に出会える。


 その解放を、クライマックスと呼びたい。


 単にド派手な爆発や、ラスボスの討伐、勝利、を指す場合もあるかもしれないが。

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