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3話「扉Ⅰ」



……扉が、ある……うん、扉だね…………紛うことなき、扉だ……。




文面だけ見れば何をそんなに驚いているんだと思われるかもしれないが、きっと私と同じ立場に立った人であれば同じことを言うだろう。扉が、ある、と。


扉とは一般的に建物や乗り物の出入り口に取り付けられる建具である、というのは世界共通認識だろう。私が言う扉もその扉で合っている。ただ一つ、違う点があるのだ。



「……これ……空中に浮いてね?」



思わず喋り方がアレになってしまったが、呟いた言葉が全てだ。


通常、建物や乗り物についているはずである。が、今私の目の前にある扉と思わしきものは、扉単体で空中に浮いていた。地面から10cm程上に。


何もない空中に扉が浮いているのだ。ということで、私の混乱がお分かりいただけただろうか。


『人生でこれ以上の驚くようなことはない』と宣言したけれど、早々に撤回することになりそうだ。


きっと常人が経験しないだろう驚きをここで体験しまくっている。今年世界一驚いた人で賞というものがあれば、間違いなく私がダントツトップで賞をいただけるだろう。うん、絶対いらない。平穏をくれ。




何故こんな現象が起こっているのかといえば、30分前に遡る。


まずは町に行こうと思い立ち、マップを見ながら獣道を歩き続けて、ふと、手に持った剣が視界に入り、銃刀法違反、もとい、邪魔だな、と思った。


瞬間。剣を持っていた右手の甲がうっすらと光り出した。目を見張っているうちに光で魔方陣が描かれ、かと思えば、同じように剣も光り出して輪郭を失って、何と、右手甲の魔方陣の中に光の粒子になった剣が吸い込まれるようにして消えてしまったのだ。


絶句する私を他所に、魔方陣も徐々に光を弱め、ほどなくして消えた。



「っっっ!! えぇ、何コレ何コレ何が起こってんの!? ウソでしょ、剣がなくなっちゃった!? どこ行った剣!?」



咄嗟にそう叫べば、再び右手甲に光の魔方陣が現れて私の手の中にも光の粒子が集まり、それはすぐに先程の剣へと姿を変えた。魔方陣は先程と同じく、徐々に光を弱めて消えた。


現象は一秒足らずで終わったけれど、理解するには二分の沈黙と一分の考える時間が必要だった。



「……あー、なるほどねぇ……武器の出し入れは自由自在なんだぁ……わー便利だなぁ……」



もちろん、棒読みである。


つまり、私の意志で武器は出し入れできるということである。便利ではある、しかし。


ゲームの仕様だとしても、小出しにすんな!マジ説明書持ってこい!!このツッコミは正論だろう。


再び剣を収納した後、はー、と長い溜息を吐き出して、額に手を当てる。色々ありすぎてもうキャパオーバーだ。



「アイテムは多分同じように出し入れ出来るとして……ハウスアイテムと衣装アイテムはどうなってんだろ……」



呟いた時。目の前に、宙に浮く扉が現れた、というワケである。




そうして、やっと冒頭に戻る。




とりあえず、私が考えたのはハウスアイテムと衣装アイテムなので、恐らくこの扉がそのどちらかもしくは両方に関係しているとは思うけれど、現実を受け止めるのに時間をかなり使ってしまった。


十数分経ってようやく調べてみようという気になって、扉の周りを一周してみる。うん、これはただの扉が宙に浮いているだけに見えるね!というのが結論。


ドラ〇もんのどこでも〇アの枠を細くしてオフホワイトに塗り替えて空中から10cm程浮かせた扉をイメージをしていただければ大体あってると思うよ。


外側は十分確認したので、意を決して扉を開けて中を見ると……中に更に扉があった。どういうことなの。


すぐ近くに扉があるというわけではなく、分かりやすく言うならば豪邸の玄関をくぐった時のように、目の前には広い長方形のエントランスがあった。扉を入って正面は一面壁になっているみたいだがエントランスを囲むように左右の壁に5枚ずつ、計10枚の扉があるのだ。


外から見ると全然分からないけれど、中はかなり広い。広すぎる。扉でもつい考えてしまったが、これ、ドラ〇もんの秘密道具か何かかな?と錯覚するほどだ。


恐らく危険はないと思うけれど、念のため注意して中に入り、中の扉を一つ一つ確認していくことにする。


中に入って、すぐに気付く。扉にプレートがあり、その扉の意味が記載されていることに。


右手前から『倉庫』『畑』『衣装部屋』『洗濯部屋』『図書館』、左手前から『作業部屋』『リビング・キッチン』『トイレ』『寝室』『バス』とある。



「あ……これ、もしかして『マイルーム』なのかな?」



部屋の名前を確認していくうちにどこかで見たことがあるような気がしていたが、アプリを立ち上げた際に出てくるホーム画面の右上に『マイルーム』というボタンがあるのだ。


『マイルーム』では取得アイテム一覧が確認できたり、自家栽培や料理やアイテム生成など色んなことが出来る仕様だった。これらもやり込み要素を凄まじい物にしていた一因である。ちなみに、装備や衣装を変更できる衣装部屋もこの中にある。


ここまでくるとルームって言うかハウスやん、という心の中のツッコミは心の中だけに留めておきつつ、とりあえず危険はなさそうなので確認作業に入ることにする。


これ一つ一つ確認するのかと考えれば少しげんなりするけれど、もしかしなくても私の持ち物らしいのでやはりチェックは必要だろう。先程状況把握は大事だと実感したから尚更。





まずは『倉庫』。これは大体想像がつく。アイテムとかを保存しておく場所だ。ゲームでは倉庫に保存できるアイテム数の上限は10000までだった。


扉に手をかけた瞬間。ビリッと頭がしびれたような感覚があり、次いで頭の中に自動的に情報が流れ込んでくる。倉庫の中身の情報だった。



「……あー、これ便利かも」



特に体調が悪くなることなどなく、今倉庫に保管されている全てのアイテム情報がスッと頭に浮かぶ。倉庫の中のものは予想通り、ガチャやレベル上げで集めていたアイテムたちのようだった。


カチャリと扉を開けて中を覗けば、倉庫内はかなり広く、棚にカテゴリーごとに整頓されたアイテムが並んでいる。


とりあえず知りたいことがあったので、一番近くに置いてあった薬草の束を手に取って倉庫を出て扉を閉める。その後で、再び扉を開いて薬草の束が置いてあった部分に何もアイテムが置かれていないことを確認し、あえて倉庫の床に手に持っていた薬草の束を置いて扉を閉める。


二秒ほど待って再度倉庫の扉を開いて地面を見て……置いたはずの薬草の束が消えていることを確認してから視線を動かし、空になっていたはずの棚を見て、地面に置いた薬草の束が綺麗に置かれていたことで確証を得る。


つまり、倉庫に入れておきさえすれば自動的にカテゴライズされたアイテムたちが綺麗に整頓されて配置される、ということだ。


良かった!本当に良かった!初っ端の扉から大きな憂鬱を抱え込まなくて済んだことに、私は歓喜した。


だってそうだろう。整理整頓は結構大変なのだ。


しかもかなり広い倉庫である。これから使っていく上で、獲得アイテムを自分の手でキッチリ整理整頓するなんて、どれだけの時間と労力を費やしてしまう事だろうか。考えるだけでも恐ろしい。でもこの倉庫の仕組みであれば、獲得アイテムを倉庫の中に入れて扉を閉めるだけで自動的に整理整頓してくれるのだ。


こういうところのシステム化はどんどん進めて行っていただきたい。うんうんと頷きながら、私は次の扉に手を掛けた。





次は『畑』。正直これはどういうものか想像がつかない。


畑って、作物を育てる畑、かなぁ?ゲームにもあったしね。なんて考えながら、開けて……閉めた。


もちろん扉の中には入らずに、だ。


だって部屋の中に畑があった。もう一度言おう、部屋の中に畑があった!!


いや確かにね、ドアプレートには「畑」ってあったよ?でもさ、部屋の中に本物の畑が広がっているって普通思わないよね?しかも室内だと分かるものの、下の床以外がガラス張りになってるみたいに外が見えて、太陽の光サンサン照り付けてたからね?もう訳が分からないよ。


勇気を出してもう一度中を見る。が、先程と変わることのない光景が現実を教えてくるだけだった。


部屋はテニスコートくらいの広さだろうか、扉から真っ直ぐ伸びた人二人が通れる位の通路が畑を左右に分断しており、その通路は部屋の壁に沿うように続いて畑をグルリと囲っている。そして出入口の扉と床以外の四面がガラスのような素材の壁になっていて外の景色が見えている。少し落ち着かない感じはするが、外から見えなかったので問題ない。……と思いたい。


冷静になって考えれば、左右に部屋があるはずなのに外が見えるっておかしくない?と疑問が浮かんだものの、とりあえずそういう細かいことは考えないに限る。私の精神がゴリゴリ削られるだけだから。



「そうだ、畑があるってことは自給自足出来るんじゃないの?」



ふと思いついたことに少し希望が見える。生きていくうえで食は欠かせない。が、今は畑に何も植えられておらず、種も苗もない。否、倉庫に野菜の種や苗が複数あったと記憶しているけれど収穫までに多少時間がかかるので今はないものとして考える。私のお腹は耐えられるだろうか。


でも、ゲームでは花や野菜、薬草を育て収穫することも出来ていたのだ。出来ると分かっただけでも大きな成果である。





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