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第49話 禍津漆本槍 集結

「以上の7人に、玉座の間へ来るよう伝えてくれ」


 マガツからの呼び出しから数刻ほど。レイメイは医務室にいた7人に呼びかけた。


 かくしてマガツが名を呼んだ7人は、玉座の間に召集された。


「突然玉座の間に来いだなんて、今度は何をするおつもりですの?」


 そう訊くのは、デザストだった。彼女は水着のような服の上に無数の包帯を巻いて、呆れ顔をしている。


「アイタタタ。うう、まだ全身が痛いアル……少し、調子に乗りすぎたネ……」


 と、ウイロウは椅子に座り、電撃のように全身を駆け巡る筋肉痛の痛みを訴える。


「ねえ見てセツナお姉ちゃん、この部屋すごいキラキラしてる!」


「ナユタ、はしゃがないの。それにしても、どうして私達もここに?」


 セツナとナユタは相変わらず、初めて見る玉座の間の荘厳さに尻尾を振っていた。


「しかし一体何なんだ? デザストとオーマはまだしも、どうしてボク達まで?」


「もしかして、レクシオン大会でもするなの?」


 続けてちびっ子、もといレイメイとシャトラが問う。


「いいや、レクシオン大会はしない。それに絶対シャトラの圧勝でつまらないだろ?」


「それもそうなの」


 マガツのツッコミに対し、シャトラはうんうんと大きく肯いた。


「してマガツ殿、勿体ぶらずに教えてくださいませ。こうして7人、全員集結しましたし」


「それもそうだな」


 オーマの一声にマガツは肯き、玉座から立ち上がる。


 そして、7人を呼び寄せた理由を語ろうと、口を開けた。


「皆を呼んだのは他でもない、俺達の新たな第一歩を踏み出すため、その計画に皆の力が必要だからだ!」


 最初に告げると、マガツは皆の驚く顔を伺ってから言葉を紡いだ。


「先日の勇者急襲騒動を受け、俺は一晩中考えた。このブランク帝国には、幹部と呼べる人材がいないことを!」


「然り、言われてみれば親衛隊も幹部も、先代の時代より存在しませんでしたな」


「じゃあまさかマガツ様、ここに呼び寄せたのって……」


 そのまさかだ! マガツはビシッと力強くデザストを指差し、声を張り上げて叫んだ。


「俺達もブランク帝国幹部、通称『禍津漆本槍(まがつしちほんやり)』を結成することにしたッ!」


 マガツのその宣言に、一同は湧き上がる。


 オーマは「幹部」という響きに感嘆の声を漏らし、セツナとナユタの双子コンビは呆然とした表情を浮かべる。


 しかしスッと、レイメイが挙手し、マガツに問うた。


「ボクと姫、それと後ろの双子は戦闘能力皆無だぞ? 幹部にするったって、ボク達には到底無理な話だ!」


 レイメイの指摘に、一同は確かにと首を縦に振った。


 彼の言う通り、現状で戦闘経験や戦闘能力を持つのはオーマ、デザスト、ウイロウの3人だけである。


 残りの4人はまだ若く戦力もなし。まして研究一筋のレイメイにとって、武器を持って戦うなど無理難題だった。


 しかしマガツはそれを待っていたと言わんばかりに、レイメイの問いに答えた。


「そこは心配ない。幹部とは言っても、シャトラとレイメイは俺達の支援に回ってもらいたい」


「支援? シャトラは戦わなくていいなの?」


「ああ。シャトラには固有の能力で、戦況を指揮する『軍師』の役を担ってもらう」


 シャトラの持つ固有能力、《絶対的(レクシオン・)領域(フィールド)》。戦場の状況をレクシオン――チェスの駒に置き換え、戦況を把握する能力。


 シャトラ本人は姫ということもあり戦場に出すのは非常にまずい。


 しかし彼女はレクシオンの天才。戦わずとも、その戦況を瞬時に把握し迅速な指揮が執れる能力を持つ。そこには1人の軍師として、光る才能があった。


 それを見抜いたマガツの采配である。


「次にレイメイは医学・薬学・化学の全般。戦況を有利に働かせる薬や、負傷者の手当などに、その能力を使って欲しい」


 次に、レイメイ。


 彼も自他共に認める天才化学者。


 今日昨日、マガツ達はレイメイの持つ医学などの知識と技術に助けられてきた。


 その実力は折り紙付。誰もが認める天才であることは、確実である。


「そしてオーマ、デザスト、ウイロウ。3人は言わずもがな、俺の両腕として前戦に参加してもらう!」


「えっ、ワタシも参戦するアルかッ⁉」


「ああ、ウイロウにも是非とも手を貸してもらいたい」


「そそ、そんな~。ワタシただのメイドアル、戦闘なんて専門外ネ~」


 ウイロウは顔を赤くして否定しているが、マガツは只の数合わせで彼女を指名したワケではない。


 ウイロウが得意とする古流拳法『冰龍極正拳』。氷魔法と東洋に伝わりし武術を組み合わせた、ウイロウ独自の能力。


 レイメイら目撃者曰く「本人が封印したがっている技」と語っていたが、実際この能力のお陰で、今回の勇者急襲事件は甚大な被害を出すことなく終結させられた。


 まさに、陰の立役者と言っても過言ではなかった。


 そしてデザストとオーマに関しても、同じことが言えた。


 オーマの剣術『逢魔流』と影を自在に操る『闇御津羽神(クラミツハ)』。更に今回の闘いで新たに会得した、影を纏う謎の能力。


 デザストが得意とする光魔法と、槍術。


 この2人が協力してくれなければ、勇者による被害はより甚大なものになっていたに違いない。


 否、それどころかマガツ1人で勇者一行を相手取り、敗北していた可能性だってある。


 幹部として選んで申し分ない戦力であることは確かだった。


「まあ、ウイロウもオーマ様も、そしてこの私が選ばれるのも納得しましたわ。ですが――」


 デザストはマガツの采配に大きく肯きながらも、しかし後ろで驚いているセツナとナユタを振り返って言葉を紡ぐ。


「セツナ様とナユタ様は、何故ですの?」


「確かに、この2人は外界からやって来た者達。そもそも戦闘できるかどうか、分かりませぬぞ?」


 オーマとデザストの疑問は、確かだった。それはマガツも重々承知のようで、難しそうに顔をしかめて首を傾げる。


「まあ、セツナとナユタに関しては謂わば『研修』だ。今のところだけどな」


 言うとマガツは顔を上げ、セツナとナユタに訊いた。


「2人とも、昨日の闘いを体験して、どう思った?」


 訊くとセツナは目を輝かせ、いの一番に語った。


「とても、勇気付けられた。私、今まで逃げてばかりだったけど、私も戦いたいって思った」


 続けてナユタも、姉に続けて答えた。


「ナユタも、お姉ちゃんに護られてばかりは嫌。だから、ウイロウさんみたいに強くなりたい」


 躍起に溢れる視線はそれぞれ、デザストとウイロウへ向けられていた。


「まさかセツナ様、私に何を求めておりますの……?」


「へ? ワタシ? なんでワタシ、こんなキラキラした目で見られているアル……?」


 ラトヌスとの激闘、そしてジェイルとの闘いの中で、セツナとナユタはある一つの思いを抱くようになった。


 それは共通して、護られてばかりでは嫌だ、というものだった。


 スラム街で連れ出した少年を、外の世界からやって来た自分たちを快く受け入れてくれたマガツ達のために戦いたい。


 姉として、妹たちを護れる力が欲しい。


 妹として、姉や姉が愛した人達を護れる力が欲しい。


「今のままじゃダメ。だから、もっともっと強くなりたい!」


「ナユタも今よりももっと強くなりたい! もうこれ以上、誰かの大切な人が死んでいく所は、見たくないから」


 セツナとナユタは互いの手をぎゅっと握りながら、力強く言った。


 勇気に満ちあふれた2人の言葉に、デザストは小さくため息を吐いた。


「やれやれ、お陰でまた一つ仕事が増えてしまいましたわね」


 やや気怠そうな口調で呟くデザストに、双子は少しシュンとする。


 が、デザストは顔を上げると、柔和な笑みを浮かべて言った。


「勿論構いません。2人の指南役としてこのデザスト、趣味と実益を兼ねて協力いたしますわ」


 快く引き受けると言ってくれたことに、セツナとナユタの表情はぱぁっと明るくなった。


 更にデザストだけではなく、横からも声がかかる。


「某オーマも、面白そうなので2人の指南に付き合いましょうぞ!」


「わ、ワタシの能力が活かせるのならば、このウイロウも協力するアル」


「当然俺も、2人の修行に付き合うぜ」


 オーマとウイロウ、そしてマガツも協力を宣言する。


 そんな4人の言葉を聞き、セツナとナユタは思わず涙を溢した。


「えっ、なな泣いちゃったアル。ウイロウ、また変なことしたアルか?」


「いえ……私達なんかのために、ここまでしてくれた人……初めてでつい……」


「ナユタ、嬉しい……」


 無理もない話であった。今まで陰鬱としたスラムで暮らし、人としてすら扱われていなかった2人。


 そんな彼女達にとって、分け隔て無く接してくれるマガツ達は、まさに暗闇の中に灯る一筋の光であった。


 そしてセツナは涙を拭うと、気持ちを新たに、真っ直ぐとした表情を向けて言った。


「誠心誠意、確実に強くなります! どうかこのセツナとナユタを、よろしくお願いします!」


「ナユタ、頑張る!」


 かくして禍津漆本槍(研修生)セツナとナユタが加わることとなった。



 ***



 ――一方、その頃。


 ブランク帝国より帰還したマサキは、イシュラ皇帝へ一連の事件についての詳細を報告していた。


「――というワケで、ブランク帝国とスラム放火事件は無関係。また魔王マガツ=V=ブランクについても無害であると判断した次第でございます」


 玉座に腰掛けるイシュラ皇帝へ頭を下げ、マサキは語り終える。


 スラム放火事件の真犯人はジェイルだったこと。ジェイルの暴走により、ロックが焼死したこと。そして、マガツが無害であること。


 しかしその結末は、イシュラ皇帝の求めていた『シナリオ』から完全に逸脱したものだった。


「成程、それはそれは結構。実に結構」


 不愉快そうに肘掛けを指で叩きながら、皇帝は呟く。


 当然、マサキも皇帝から承った任務――魔王討伐の任務を達成できなかったことに、怒りを覚えるのは当然だと考えていた。


 だがこの目でマガツの本性を知り、戦う理由がないと判断したのもまた事実。


 無駄な死者も、無益な戦争も生まれないのであれば、それで万々歳だろう、と。


「無情がウリのキミが魔王なんぞに絆されるとは、堕ちたものだな」


「…………」


「しかしまあ、無事帰って来たことだけは褒めてやろう」


 悪態を吐きつつも、イシュラ皇帝はマサキの帰りを歓迎した。


 が、しかし。


「だがこのイシュラ・シュノワァルの命令に背くことは、どうにも見逃すワケには行かない」


 イシュラ皇帝はフルーツの盛られた皿からリンゴを取り、それをマサキに投げつけた。


 マサキは間一髪でそれをキャッチし、顔を上げる。


「手切れ金はソイツで十分だろう。それを受け取り、さっさとこの場から立ち去れ」


「と……言いますと?」


「マサキ、貴様は今日限りでクビだ。旅に出るなり何なり、とにかく二度と我が国に立ち入るな」


 クビ宣告。覚悟の上ではあったが、しかし真っ向から宣告され、マサキは一瞬ショックを受けた。


 けれども無理のないことでもある。マサキは立ち上がり、投げつけられたリンゴに齧り付きながらその場を後にした。


「それでは、お言葉通りボクは好きにさせていただきます」


 言ってマサキは玉座の間の門を通り抜け、イシュラ帝国から姿を消した。


 やがて静寂に包まれた玉座の間で、イシュラ皇帝は深々とため息を吐いて愚痴った。


「ったく、クソ召喚士共めが。異世界から勇者を喚び出したと言うのに、魔王を倒せないなどとはどういう了見だ」


 皿に盛られたフルーツに齧り付きながら、皇帝は続ける。


「それにジェイルの奴まで負けおって。お陰でイシュラ帝国がこの大陸を統一する計画に、数十年の遅れが出ることとなった……」


 ジェイルの死、勇者マサキの大失態。やけ食いだけで収らない怒りに、イシュラ皇帝は荒れる。


 と、その時だった。


「フン。大言壮語を語っておきながら、実に無様なものだな」


 玉座の間に新たな影が姿を現した。


 それは赤いマントを羽織っており、腰には大きな銀色の剣を携えていた。


 そして、マントの背に描かれた紋章を見た瞬間、イシュラ皇帝はげっと、露骨に嫌な表情を浮かべた。


「貴様は、ヨルズ……!」


 男の正体は、ヨルズ皇帝だった。


 勇者が帰還したという情報を受け駆けつけたのである。かつて自国の騎士団長・グレアを送り出した時のように。


「最強に最強をぶつけた結果がこれとはな。貴様の思う“最強”も存外大したことないのではないか?」


「だ、黙れッ! これはそう、外れの勇者を引いた召喚士が悪いのだ。次こそは、魔王を確実に葬ることのできる勇者を――」


「無駄だ。魔王を倒せなかった以上、その召喚士とやらは“その程度”の技量しかないのだろう」


 イシュラ皇帝の言葉を遮り、ヨルズ皇帝は鼻で笑った。


「き、貴様の方こそ団長とその軍勢を以てしても倒せなかったくせに、よく言う!」


「あれはほんの小手調べ。グレアもまさか魔王が毒に耐性を持っていると思わなかったと言っている」


「ほざけ、負け惜しみを」


 イシュラ皇帝は言うが、しかしヨルズ皇帝は続けた。


「だが次は違う。妥協もなく、今度こそこのヨルズ帝国が魔王マガツの首を取る」


 そう宣言して、ヨルズ皇帝はマントを翻す。


「我々は、全てを捧げ――」



「〈禁獄の門(ヘルズ・ゲート)〉を開く」


これにて第2章完結ですッ!

新たにレイメイ、ウイロウ、セツナとナユタが加わったブランク帝国。

第3章ではどんな物語が待っているのか……


次回、ご期待くださいッ!

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