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第43話 『煉獄の魔女』

 何もせず上空から観察していたはずの勇者一行が1人、魔法使いのジェイル。


 マサキとの勝負も終わり、スラム襲撃の誤解も晴れた矢先、彼女はその本性を露わにした。


「ジェイルッ! どうして、何故こんな真似をッ!」


 マサキは緊迫とした表情を浮かべ、ジェイルに問いかける。


 一体どれほどの時間を共有したのか。マガツ達は知らないが、マサキら勇者一行にとってその時間は、何物にも代え難い日々の連続だっただろう。


 しかしジェイルは躊躇する素振りも見せず、仲間である筈のマサキを狙った。


 そして信頼する仲間だったロックが犠牲となり、骨も残らない塵と化した。


「マサキ、貴方にはロックとラトヌス共々、ここで死んでもらう計画だったの。初めて出会ったあの日から、ね」


「そんな馬鹿なッ! 一体何のために――」


「私の未来のためよ。男共は激闘の末、刺違いで魔王を倒した。生き残ったアタシはそれを美談として語り継ぎ、イシュラ帝国の最高の地位に就く」


 ジェイルは語ると狂気じみた笑みを浮かべ、指を振る。


 すると無数の真っ赤な閃光が現われ、爆発と共に民家を炎の渦に閉じ込めた。


「そして、『戦争』と銘打って多くの人間を焼き殺すの♡ 手始めに、このブランク帝国を焼き滅ぼす♡」


 ジェイルの本音を聞いたマサキは言葉を失い、絶望感から膝をついた。


「じゃあ最初から、ボクは踊らされていたというのか……っ」


 彼女の笑みには、人を殺すことへの躊躇や罪悪感はない。


 燃えさかる炎が映る虚ろな赤い瞳、物の焼け焦げる臭いに恍惚とした表情を浮かべる顔、その様子に興奮して甘い声を漏らす口。


 全てはジェイルの追い求める、狂った快感を満たすため。


「なるほどな、要するにテメェの利益のためだけに、罪もねぇ人間を利用しよって魂胆か」


 絶望するマサキの横から、マガツが口を挟んだ。彼はジェイルの火球攻撃に臆することなく、堂々とした様子で一歩前に出る。


「何か悪いことでもあるの、おじさん? 生きるためには無知な弱者を利用する、それが世の常でしょう?」


 ジェイルは顔をしかめ、マガツに反論する。


 マガツは彼女の言葉を咀嚼して肯きつつ、「確かにそうかもな」と呟く。


「所詮この世は弱肉強食、利用された弱者(ヤツ)から喰われていく。嬢ちゃんの言う通り、コイツぁ人間がウホウホ言ってた時代から受け継がれてきた“世の常”だ」


「でしょう? 分かったなら、大人しく焼かれなさ――」


「民の信頼なくして、王にはなれねぇ」


 ジェイルの言葉を遮り、マガツは顔を上げて言った。


「国の最頂点に立つヤツにとって、隣人(こくみん)は一片も欠けちゃならねぇ。たとえそれが、信頼に厚い勇者(テキ)ご一行サマだとしてもなァ!」


「き、キミ……」


 言うとマガツは振り返り、膝を付くマサキの前に手を差し伸べた。


 その表情はどこか優しく、無邪気な子供のようだった。


「いつまで落ち込んでやがる、早く立たねぇと死んだ仲間が浮かばれねえぞ?」


「キミ……どうして、ボクにそう優しくするんだ……?」


「勘違いすんなよ。偶然オレも、あの火遊びっ娘ちゃんに大きな借りがあってなァ! 国守るがてら、お前さんにも手伝って貰いてぇだけだ」


 頬を赤らめながら、マガツはぐっと右手を差し出す。


 マサキはマガツのその厚意に感化され、笑みを返して手を取った。


「仕方ない。今回だけですよ、マガツさん」


「さんじゃねぇ、マガツでいい」


「じゃあマガツ、悪いけどウチの魔法使いを止めるの、協力してもらうよ」


 マガツとマサキはお互いに顔を見合わせ、ジェイルと対峙する。


 一方ジェイルは不愉快な表情を浮かべ、和解した2人を見下していた。


「勇者ともあろう男が、魔王と共闘するつもり? 見下げた根性ね、マサキ」


「何とでも言えばいいさ。キミのために罪なき人々が焼き殺されるのなら、ボクは“勇者”として罪なき人々を救うために戦うよ」


「右に同じく、俺も“魔王”として愛する国民を守る。テメェ都合の死者はこれ以上増やさせねえぜ!」


 言うとマガツは後ろを振り返り、固唾を呑んで見守っていたレイメイ達に指示を出した。


「レイメイ! ウイロウ! とりあえずそこで眠ってるオーマと剣士を安全な所に運んどいてくれ」


「ま、マガツ⁉ オーマはともかく、この剣士は敵だぞ……?」


「じゃあ手と足縛っとけ。もっとも満身創痍だから無理に動けねえだろうけど」


 そう話をしている隙に、ジェイルは指を鳴らし、火球を放った。


 マガツは気配で攻撃を察知し、レイメイ達を守るように闇魔法を展開する。


「早くしろ! コイツは俺とマサキで何とかする!」


「あ、ああっ! だが無理だけはするんじゃないぞ!」


 最後にレイメイは言い残し、オーマとラトヌスを連れて遠くへ避難する。


 しかし完全に腰を抜かしてしまったセツナとナユタだけは、その場で蹲っていた。


 が、彼女達の前に立ち塞がったウイロウが、ニコッと満面な笑みを浮かべている。


 まるで「ワタシに任せるネ」と言わんばかりに。


 ウイロウを信じて前を向くと、隣で剣を構えたマサキは笑顔で言った。


「キミは随分と、家臣に信頼されているみたいだね」


「まぁな、それぐらい信頼できねぇと魔王は務まらないんでな」


 果たして闘いの準備が整ったマガツとマサキは、ジェイルを見上げて戦闘態勢を取る。


 対するジェイルも狂気的な笑みを浮かべ、魔法の杖を取り出した。


「いいわ。そんなに死に急ぎたいなら、この“煉獄の魔女”が直々に焼き殺したげる♡」



「勇者と魔王、焼いたら一体どんな臭いがするのかしらァ♡」


煉獄の魔女・ジェイル登場ッ!

次回、遂に最後の闘いが幕を開けるぞッ!

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