0. プロローグ
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大陸暦855年 水節
ここはアーウィン大陸である。
天地創造の神が名付けられた大陸の中央部には大きな山脈がそびえ立ち、囲うようにして複数の国家が形成されている。
国家間には舗装された道が蜘蛛の巣状に巡らされており、貿易が盛んに行われていることが見て取れる。
交易の中心部から離れるにつれて住宅地は少なくなってゆき、対して魔物たちの巣がちらほらと現れる。
魔物とは動植物が体内に一定量の魔素を取り込むことで体の一部が変異したものと定義されている。
魔物は通常の動物よりも身体能力や体格に優れているものの熟練の狩人であれば魔法を使わずとも狩ることが可能であり、人々の生活を支える重要な産業となっている。
大陸外縁部は海洋が広がっており、そこには大陸の魔物とは比べ物にならない強さの魔物が住んでいる。
何人もの戦士たちが大陸の先にある未知なる神秘に挑んでいるが、例外なく全ての冒険者は帰らぬ人となっており海を超えた先に何があるのかを知るものはいない。
国策として調査を行う国家もなくなり、海の先を目指すものはよほど腕に自信のあるものか命知らずかの二択である。
アーウィン大陸は資源に溢れており、大陸全体で国々は人、物、金を血液のように循環させながら安定した生活を過ごすことができていた。
大陸に住む人々はこの平穏な日々がいつまでも続くと考えていたことであろう。
事情が急変したのは大陸歴840年日差しの強まる火節に差し掛かった頃であった。
大陸北西部に突如として漆黒の渦が出現した。
渦の中心がちょうど大陸と交差するように現れており、その大きさは数キトル離れた位置に住む人が渦の上部がはっきりと見えるほど巨大なものであったからだ。
漆黒の先には何も見通すことができず渦はまるで呼吸するかのように収縮を繰り返していた。
渦は一際大きな膨張をしたかと思うと耳障りな甲高い音を出し、渦の先から多様な魔物たちが一斉に大陸にむかって進撃してきた。
魔物の数は優に1万体を超え、体には渦と同じ漆黒の煙を纏っていた。
知性は見られないが生物を無差別に襲う習性を持ち、生物が大量に集まる箇所を見つけては襲ってゆく。
戦闘によって傷ついた体もその漆黒の煙によって回復し、無尽蔵の体力で昼夜問わず襲撃をする猛獣たちはこれまで発見されたどの生物よりも凶悪であった。
その見た目と強力凶暴な性質から暗黒魔獣と名付けられ、全人類と暗黒魔獣たちとの戦争が始まったのである。
事態の緊急性が人類に伝わったのは最も渦に近かった国家が一夜にして滅亡した報告が入ってからであった。
突然出現した漆黒の渦、暗黒魔獣の発見、渦に最も近い国家の滅亡という現状から、国王たちはこの事象を全人類の存亡をかけた大戦争であることを国民に対して知らせた。
人類は持ちうる全ての対抗策を講じた。
前線への軍事支援、軍備拡大、軍事・魔術技術の開発、暗黒魔獣の調査など、資金の必要なものは国庫から際限なく提供され、技術研究者ともに最先端のもので研究が行われていった。
しかし全ての対抗策は一時的に暗黒魔獣の侵攻速度を遅延させる効果はあったものの、暗黒魔獣が侵攻を止めることはなく、ついには人類の生息圏は渦発生前と比較して半分の規模になった。
だが人類は諦めていなかった。
人類に残された希望は暗黒魔獣のそのエネルギーの源が出現した漆黒の渦によって提供されている事実、そして暗黒の力を中和する魔術の二つの研究成果であった。
暗黒魔獣の侵攻を根絶するためには迫り来る外敵を掻い潜りながら渦の発信源まで辿り着き、漆黒の渦に対して中和魔術を放つことであった。
これまでの侵攻の防衛に最も貢献してきた20人が選抜され、それぞれ4人ずつのパーティによる渦攻略作戦が始まった。
この暗黒魔獣に対抗する人類の最初にして最後の攻勢施策は"勇者計画"と名付けられた。
勇者計画が遂行して一節が過ぎた頃、人類はこれまで防衛の中枢を担っていたメンバーが抜けたことによって生息圏はさらに3割縮小し、人口も侵攻前から半分まで減少した。
防衛資源の集中によってギリギリ対抗できているものの、防衛拠点が突破されるのも時間の問題であった。
また先行きの見えない戦争に対して諦めている意見も少なからず存在し、市民の統制が乱れたことによって内側からも危機が迫っていた。
事態が好転したのは何回目かもわからない暗黒魔獣の侵攻を食い止めた朝であった。
これまで時間関係なく侵攻してきた暗黒魔獣の動きが止まった後、一斉に防衛拠点とは逆方向に走り出したのである。
方向は北西部、渦の発生源であった。
侵攻が始まって二節の間起きえなかった初めての事象に防衛拠点の人類が戸惑っていた。
警戒を怠らずに再度日が登った朝、北西部から発生時と同じ耳障りな音が大陸中に響き渡った。
昨日討伐した魔獣を確認すると、全ての魔獣で残留してた漆黒の煙が霧散していった。
これまで暗黒魔獣だった魔獣たちからも煙が失われ四方八方に走り去る様子が拠点から確認ができた。
大陸歴840年風節、勇者計画が成功した瞬間であった。
勇者たちが帰還したのはそこから水節になった頃であった。
最初は20人いた勇者であったが帰還してきたのは3人、最後に出発したパーティのメンバーであった。
戦士 アーク・ルイヴィヒテン
聖騎士 リヒター・ドラグノフ
魔法使い エヴァン
彼らによって伝えられた封印まで道のりは瞬く間に広がり、半節に渡る侵攻が真に終わったことを告げる祝福の祝詞であった。
暗黒魔獣は生物のみを襲う性質が功を奏し、侵攻前に利用されていた国家や農場の跡地などが再利用できたため、復興は著しい速度で行われた。
復興が進み人々の生活が落ち着くと勇者たちを讃える祭りを開いた
全ての勇者は計画を成功させたその功績を讃えられて歴史に名を残したとともに、末代の系譜に対して創世の神の名であるアーウィンをミドルネームとしてつけることが許可された。
そして帰還した勇者パーティ最後のメンバーである魔法使い フィオナ・ミッドナイトローズは自らの命を引き換えに漆黒の渦を封印した功績を讃えられて聖女の称号が与えられた。
人類を救った彼らを弔う祭りは三日三晩続き、人々が完全に勝利したことを実感させる契機となった.
侵攻が終わってから15年が経った現在、北西部に突如として出現した漆黒の渦は消失したままである。
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各種単位について
季節の流れ
土節→火節→風節→水節
一節あたり3ヶ月になります。
貨幣
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銅貨 → 100円
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距離
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