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ココロネの心音  作者: 存此
9/44

2―6


「う、うううそだ、そんな、のっ!」


 その叫びは悲痛なものだった。 泣いているような声にも思える。

 少年はそう言って否定すると、()(さま)ベッドから立ち上がる。

 久しぶりの活動で目眩を起こしたのか一瞬体を揺らす。

 しかしなんとか持ちこたえると、そのまま勢いよく走り出した。


 その先にあるのは窓だった。 この部屋で唯一ある小さな窓だ。


 窓は閉じているというのに、そのまま突進をすると、腕と体を貫いて窓を割った。

 割れたガラスと少年の血が舞う。

 しかし痛みなんか感じないとでも言うように、体を乗り出そうとした。

 飛び降りようとしているのだ。


 少年の意図に気づいたココロネは躊躇(ちゅうちょ)なく少年の服の裾を掴んだ。

 それでも少年は行動を止めない。

 ココロネは窓にまだ残るガラスの破片を気にしないで腕を突っ込む。 そして少年を部屋の中へと押し込んだ。 その際、ガラスがココロネの腕に赤い線を描く。

 少年はココロネの胸の中にいる体勢になった。

 それでも暴れた。

 冷静じゃないようだった。


「あああなたのことば、なんてっ、ししんじない! ひとはは、そううやって、きぼううをみせて、つぎにぜぜつぼうを、させるるんんだ!」


 その言葉は少年が今までどうやって生きてきたかを現していた。


 その時、ココロネはわかった。

 自分が一体なんで少年を拾ったか。

 ここまで苦労して生かしたか。


 ――お仲間だったからだ。


 自分が戦闘用合成獣で、少年は愛玩用合成獣だったから。

 同じ、合成獣だったから。

 だから、人間よりは少し、気持ちが理解出来るのだ。

 生きにくい世界だけれど、生きて欲しいんだ。

 それは、あまりにも勝手だった。 自己満足だ。 同情に近い。

 理由だって全然立派じゃない。

 だって、少年が合成獣でなかったら、私は拾っていなかったかもしれない。


 それでも、それはココロネの意志だった。

 自分の意志というものは、大切にしないといけない。

 いつだって意志があるとは限らないのだから。

 だから、自分勝手でも構わない。


 少しでも気が落ち着くようにと、ココロネは少年を抱きしめた。

 力加減をどうしたらいいか分からなくて、できる限りやさしくした。


 ココロネも人の言葉はそう信じない。

 信じてしまえば、弱くなってしまうから。 強くあれないから。

 だからいつも、頭の中で裏切られた場合のことを想像して行動している。

 それが、かなしいことということは、ココロネも分かっている。


「信じなくてもいい」


 この勝手な意志は相手の想いを無視している。

 だから、そんなことはよかった。

 それで傷をつくこともない。



「でも、少年。 私は君を生かすよ」


 ただそれだけの意志を、ココロネは少年へと伝え続けるのだった。



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