7-1
「ふふふ……聞け、ココロネ! 少年を売るというのはなあ……なんと! 嘘でしたーー!!」
時間が経過し、オリバーは気絶から起き上がると開口一番にそう言って、いつものようにがははがははと笑う。
「うまくいったか? うまくいったよな? な!?」
オリバーは心配そうに少年 ミコトに腕を巻き付けて言うと、少年は笑った。
「うん。 ぼくら、ずっと、いっしょだよ」
するとオリバーはガッツポーズを決めて嬉しそうに笑う。
オリバーの話しを聞いてココロネは呆れた。
怪我をさせた者はいたが、殺しをしなくて本当によかった、と思った。 殺しに慣れているココロネでも、さすがにこんなことで死者が出てしまえば後悔する。
気絶してた者たちは次々と起き上がり、おのおの痛むところを押さえながら冒険者街第六区を出て行く準備をする。
第七区にある穴について言ったら、オリバーはうるさいくらいに笑い、そして「弁償費……」と小さく呟き顔を青くさせていた。
もちろん弁償費は私が払う、とココロネが名乗り出る。 オリバーはその言葉に表情を明るくさせた後、少し考えて、
「いや、割り勘だ!」
と言ったのだった。
こうして、日は巡っていく。
骨折したバーのマスターの代わりに料理を作るミコトは、みるみるうちに料理の腕を上げていく。
エイミーへと戻ったココロネは弁償費を稼ぐために、オリバーからの依頼を遂行した。
「ココロネ、きょうはなんのごはんが、いい?」
「おまかせで」
いつものようにミコトが尋ねると、ココロネもまたいつもと同じ返事を返す。話すことに恐怖を感じなくなったミコトの話し方は少しずつ流暢なものになっていった。
「もう、そればっかり」
時々オリバーが気を遣い二人で食事出来るように時間を設ける。
ココロネとミコトは出来上がった料理を持って二階の自室へと向かうため歩き出す。
「おまかせなのが、いちばん、こまるんだよ?」
「だってミコトの作るご飯はなんでもうまいから……本当になんでもいいんだ」
ココロネの言葉にミコトは、しかたがないなあ、とでも言うように笑みを浮かべてため息を吐く。
自室に到着すると、二人は食事を始めた。 一つしかなかったイスは二人で食事が出来るように一つ増えていた。
「ココロネ、ぼくは、ね」
食事をする中、少年は、ふと思い出したように話しを切り出した。
「ココロネがいれば、ほかにはなにも、いらないんだよ」
それは強烈な愛の告白であった。
ミコトの突然な言葉にココロネは食事の手を止める。 ミコトを見ると優しく微笑んでいるものだから、こちらが恥ずかしくなった。
「それこそ、ぼくは、あのとき、おりばーも、ばーのますたーもしんでもよかった。 それくらいに、ココロネにもどってきてほしかった」
そして突如の発言に、ココロネは微妙な表情をして黙る。
あの時、少年が悲しむと思って殺しはしなかったが、その考えは甘かったようだ。
「ココロネがいないといきられないんだ、ぼくは」
続けてなんとでもないように言うミコトの問題発言。
「……そうか」
しかしココロネは否定もしない。 だってココロネも同じ気持ちだったから。
世間から見れば歪んでいるようにも思えるかもしれないが、二人にとっては、気にすることではない。
「ぼく、あいがんごうせいじゅうで、でよかった」
ココロネがなぜ少年を拾ったのかはミコトも知っている。 あそこまで心身尽くしたのは同じ合成獣だったからだ。
ミコトは背中の折れた翼の根元が見えない限り、ただの美しい人間として生きられる。
けれどミコトは美しいと褒められれば「ぼくは、あいがんごうせいじゅうなんだ」と、すらりと他人に言ってしまう。
ココロネだって言ってしまえば銃を持っていない限り風貌はただの人間だ。 それでも銃を持ち、時には戦闘用合成獣と名乗る。
彼らは合成獣であることを隠さず、生きている。
生きにくい世界でも、彼らは彼らなりの意志を持って、生きていた。




