6―3
――すべて燃やしてしまおう。
力なきものが場所を求めて集まった民衆。
弱くても正義であると信じた軍。
血も涙も忘れ、作り上げた合成獣。
燃やす。
燃やして、
一片たりとも、
我らの作り上げたものを、
渡さない。
さあ、燃やせ、燃やせ。
すべてを燃やし、残るは灰だけにして、
あいつらには何も残さない。
激しい炎が国を赤く染めている。
ごおごお、ぱちぱち。
勝つために考え続けた研究も、
生きようとした人間も、
戦うために作った国も、
燃えるは燃える。
炎に燃やされ、黒くなり、果てには灰になる。
そして灰は煙や風に舞い、どこかへと飛んで行く。
どこかへと旅立っていく。
そんな燃える国の姿をロクゴーは見上げていた。
軍の九割は破綻し、戦闘用合成獣部隊第二班でまだ生き残っていたのはロクゴーとリーダーのみだった。
班のメンバーは愚かにもロクゴーを庇って死んだ。
理由はロクゴーが一番幼かったからだった。
敵国は燃え上がる国と軍たちに、炎から逃げるため退却をした。
「……リーダー」
ロクゴーはリーダーへと話しかけた。その声は小さくて頼りない。燃える炎の音でかき消えそうな声だ。けれどリーダーは聞き取った。
「なんだい?」
リーダーは相変わらず穏やかな声だった。けれど、その表情には疲れが見える。
「やはり、弱いと、生きられないんだろうか」
この国は、弱いからこそ、ここまで強くあろうとしたのに。
それなのに、得た答えは、得た答えは、
「そうだねえ。そうみたいだ」
はは、とリーダーは乾いた笑いをした。
リーダーは合成獣とは違い人間だ。 だからこそ、この国で生きるに当たってそれなりの信念や意志があっただろう。 自分以上にリーダーはつらい思いをしているかもしれない。けれど、自分だって、悔しい想いが、あった。
「少なくとも、おれたちは弱くとも生きていけるという証明が出来なかった」
その証明をするためにここまで戦い続けてきたのに。
愛玩合成獣という生き物を作って外国に売るという外道を起こし、
戦闘用合成獣を作って戦いの武器とする禁忌を犯したのに。
「魔法って強いなあ」
その声は泣いてるようにも聞こえる嘆き。 けれどリーダーは涙を流してはいなかった。
リーダーを見つめるロクゴーににこっと微笑む。 頭からは血が流れていて少々笑顔は似合わない。
「おれはこの国と燃える」
笑ってそんなこと言うリーダーにロクゴーは怒った。
「………そんな、そんなっ! 死にたくないから、負けたくないから、ここまで、きたんだろ!」
この国で作られた合成獣の扱いは良いものだとは決して言えない。
それでも、この国に、この軍に所属して戦ってきた。
この国の、リーダーの生き様を見てきた。
見て、生きてきたのだ。
「おれはこの国とずっと抗ってきた。この国が消えるときは、おれも一緒だ」
いつもなら人との別れを黙ってみてきた。
心で感じたものを捨てて、無視してきた。
だけど、今日ばかりは、感情が捨てられなかった。
捨てようとする前に感情が迫り上がって、我慢ならないと溢れ出てくるのだ。
それでもリーダーは笑ってる。リーダーはもう決断しているのだ。
その決断は何を言っても覆らないだろう。
「……っ」
もし、ここで生き残ったとして、どこに行くのだ。
行くところなどないだろう。
この国は勝つために外道を起こしたものとして嫌われていた。
「おれはこの国と共に死ぬ。今まで抗ってきたのは、おれの誇りだよ」
まるで満足したかのように言うリーダー。
悔しかった。
あがいて、あがいて、それでも負けて、弱くて、最後は燃えて死ぬなんて。
「でもねW65、君は生きるんだ」
「……何をバカなことを言ってるんだ。 そんなの無理に……」
リーダーは最後までお人好しのようだった。
「無理じゃない。君はこの国の人間じゃない。この国で戦うために作られただけの生き物だ。君は国を失うことで自由になるんだよ」
そうやってリーダーはロクゴーに微笑みかけた。
ロクゴーは理解ができなかった。
ロクゴーの感情はぐちゃぐちゃだった。なんて言えばいいか分からず、けれど何かを言葉にしたくて、口は半開きのまま。
自由ってなんだ?
そりゃあ自由とは正反対の世界で生きてきたとは思う。
だからと言って、さあ自由ですよと放り投げられても生きられはしない。生き方を知らない。
強くあろうと強がらないと、生きられないほどには弱くて。
生き方が分からなくて。
一体今、何を選べばいいのかすらも分からない。選択が出来ない。
リーダーと共に胸を張って燃えることも、自由だと謳って一人で生きることも。
どちらも、怖くて選ぶことが出来ない。




