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ココロネの心音  作者: 存此
42/44

6―3



 ――すべて燃やしてしまおう。


 力なきものが場所を求めて集まった民衆。

 弱くても正義であると信じた軍。

 血も涙も忘れ、作り上げた合成獣(いのち)


 燃やす。


 燃やして、


 一片たりとも、


 我らの作り上げたものを、


 渡さない。


 さあ、燃やせ、燃やせ。


 すべてを燃やし、残るは灰だけにして、


 あいつらには何も残さない。




 激しい炎が国を赤く染めている。


ごおごお、ぱちぱち。


 勝つために考え続けた研究も、

 生きようとした人間も、

 戦うために作った国も、


 燃えるは燃える。


 炎に燃やされ、黒くなり、果てには灰になる。

 そして灰は煙や風に舞い、どこかへと飛んで行く。


 どこかへと旅立っていく。


 そんな燃える国の姿をロクゴーは見上げていた。

 軍の九割は破綻し、戦闘用合成獣部隊第二班でまだ生き残っていたのはロクゴーとリーダーのみだった。

 班のメンバーは愚かにもロクゴーを庇って死んだ。

 理由はロクゴーが一番幼かったからだった。

 敵国は燃え上がる国と軍たちに、炎から逃げるため退却をした。


「……リーダー」


 ロクゴーはリーダーへと話しかけた。その声は小さくて頼りない。燃える炎の音でかき消えそうな声だ。けれどリーダーは聞き取った。


「なんだい?」


 リーダーは相変わらず穏やかな声だった。けれど、その表情には疲れが見える。


「やはり、弱いと、生きられないんだろうか」


 この国は、弱いからこそ、ここまで強くあろうとしたのに。

 それなのに、得た答えは、得た答えは、


「そうだねえ。そうみたいだ」


 はは、とリーダーは乾いた笑いをした。

 リーダーは合成獣とは違い人間だ。 だからこそ、この国で生きるに当たってそれなりの信念や意志があっただろう。 自分以上にリーダーはつらい思いをしているかもしれない。けれど、自分だって、悔しい想いが、あった。


「少なくとも、おれたちは弱くとも生きていけるという証明が出来なかった」


 その証明をするためにここまで戦い続けてきたのに。


 愛玩合成獣という生き物を作って外国に売るという外道を起こし、

 戦闘用合成獣を作って戦いの武器とする禁忌を犯したのに。


「魔法って強いなあ」


 その声は泣いてるようにも聞こえる嘆き。 けれどリーダーは涙を流してはいなかった。

 リーダーを見つめるロクゴーににこっと微笑む。 頭からは血が流れていて少々笑顔は似合わない。


「おれはこの国と燃える」


 笑ってそんなこと言うリーダーにロクゴーは怒った。


「………そんな、そんなっ! 死にたくないから、負けたくないから、ここまで、きたんだろ!」


 この国で作られた合成獣の扱いは良いものだとは決して言えない。

 それでも、この国に、この軍に所属して戦ってきた。

 この国の、リーダーの生き様を見てきた。

 見て、生きてきたのだ。


「おれはこの国とずっと(あらが)ってきた。この国が消えるときは、おれも一緒だ」


 いつもなら人との別れを黙ってみてきた。

 心で感じたものを捨てて、無視してきた。

 だけど、今日ばかりは、感情が捨てられなかった。


 捨てようとする前に感情が迫り上がって、我慢ならないと溢れ出てくるのだ。

 それでもリーダーは笑ってる。リーダーはもう決断しているのだ。

 その決断は何を言っても(くつがえ)らないだろう。


「……っ」


 もし、ここで生き残ったとして、どこに行くのだ。

 行くところなどないだろう。

 この国は勝つために外道を起こしたものとして嫌われていた。

 

「おれはこの国と共に死ぬ。今まで抗ってきたのは、おれの誇りだよ」


 まるで満足したかのように言うリーダー。

 悔しかった。

 あがいて、あがいて、それでも負けて、弱くて、最後は燃えて死ぬなんて。


「でもねW65、君は生きるんだ」

「……何をバカなことを言ってるんだ。 そんなの無理に……」


 リーダーは最後までお人好しのようだった。


「無理じゃない。君はこの国の人間じゃない。この国で戦うために作られただけの生き物だ。君は国を失うことで自由になるんだよ」


 そうやってリーダーはロクゴーに微笑みかけた。

 ロクゴーは理解ができなかった。


 ロクゴーの感情はぐちゃぐちゃだった。なんて言えばいいか分からず、けれど何かを言葉にしたくて、口は半開きのまま。


 自由ってなんだ?


 そりゃあ自由とは正反対の世界で生きてきたとは思う。

 だからと言って、さあ自由ですよと放り投げられても生きられはしない。生き方を知らない。

 強くあろうと強がらないと、生きられないほどには弱くて。

 生き方が分からなくて。

 一体今、何を選べばいいのかすらも分からない。選択が出来ない。

 リーダーと共に胸を張って燃えることも、自由だと(うた)って一人で生きることも。

 どちらも、怖くて選ぶことが出来ない。




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