6―2
まだ幼い少女にリーダーは声をかける。
「W65、君はなぜそんなにも誰かと関わろうとしないんだい」
その声音は優しかった。
その質問にロクゴーは素直に答える。
だって皆、自分と同じようにあろうとしたら辛くはならないだろうから。生きやすくなるだろうから。
「強くありたいんだ」
その言葉ははっきりと芯がこもっていて、ロクゴーの意志の強さが感じ取れた。
「人と関わらないことで強くなれるのかい?」
リーダーの疑問にロクゴーは頷く。
「そうすれば何も失わない。どんなことにも傷つかない。痛くない。だから、生きていける」
ロクゴーの瞳の奥はまるで闇が淀んでいるようで、光が灯っていない。けれどそれは珍しい事じゃない。合成獣で目に光を保っていられる人なんて、ほとんどいないだろう。
そうか、とリーダーは静かな声で言った。否定も肯定もしなかった。
「俺と反対だね。W65が言うには、俺は自分から痛みを感じに行っているみたいだ」
「……? そうだろう。それ以外になにがある」
「ええ? 勿論あるよ。人と関わるのに感じるのは、決して痛みだけじゃないだろう」
「……それが、嫌なんだ」
自分のことを気にして声をかけてくる部隊の者やリーダー。そんなものたちは邪魔だった。 切り捨てていかないと心は一気に弱くなってしまうのだ。
弱くなってしまうと、つらい。
そのつらさをロクゴーは耐えられなかった。
痛みを感じたくないと思い、強くなるが故に何か失う時がくるのだろうか。
自分は、それを、失ったことに気づけるだろうか。
「そんな辛気くさい生き方してっと、そのうち後悔すっぞ!」
いつの間に話しを聞いていたのか、会話に割り込んできたのはいつもロクゴーに話しかけてくる熊の戦闘用合成獣だ。しかも、ロクゴーの肩に腕まで回し距離が近い。
「そんなことない」
直ぐ様ロクゴーははっきりと否定して熊の戦闘用合成獣の腕から逃れた。
「でもさ、W65の言うことを聞いてるとさ、優しいんだね、君は」
リーダーが二人の馴れ合いを微笑ましく見ながら言う。そんな穏やかな瞳にロクゴーは少しイラついた。
「意味が分からない」
自分の発した発言の一体何処が優しい部分があったのか。普通は逆だろう。相変わらずリーダーは意味の分からない思考を持っている。それは、人間だからなのだろうか。
「だって感じないように意識しなければ、君は人を想って傷つくってことだ。やさしい子だ」
目を細め愛おしそうにロクゴーを見るリーダー。その瞳がロクゴーはむずかゆくて目線を外した。
「……やさしさなんて、いらない。強く、ありたい」
そう言うロクゴーに熊の戦闘用合成獣は頭をぐしゃりぐしゃりとなで回した。おかげで髪の毛はぐしゃぐしゃだ。そのことを笑うリーダーと熊の戦闘用合成獣。ロクゴーは呆れため息を吐いた。もう怒るのもばかばかしくなったのだ。
それでも、この時間を嫌いじゃないと思った。
そんな自分が嫌で、その感情も捨ててやった。
そして展開は迎える。
大型大魔法を発動され軍の九割は破綻。国にも致命的損傷を受けている。
しかし、国は負けを認めない。
魔法を使えない自分たちが、
力などなくても生きていけると証明しなければ、
この先の人生など、くそくらえだ。
軍も民衆も誰一人諦めない。
涙を流し、叫び、怒り、武器を捨てない。
それでも微々たる抵抗に、国は一つの答えを選択する。
もう、どうやっても勝てない。
これだけの力を振り絞っても、ダメだった。
認めよう。
だから、せめて、




