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ココロネの心音  作者: 存此
41/44

6―2


 まだ幼い少女にリーダーは声をかける。


「W65、君はなぜそんなにも誰かと関わろうとしないんだい」


 その声音は優しかった。

 その質問にロクゴーは素直に答える。

 だって皆、自分と同じようにあろうとしたら辛くはならないだろうから。生きやすくなるだろうから。


「強くありたいんだ」


 その言葉ははっきりと芯がこもっていて、ロクゴーの意志の強さが感じ取れた。


「人と関わらないことで強くなれるのかい?」


 リーダーの疑問にロクゴーは頷く。


「そうすれば何も失わない。どんなことにも傷つかない。痛くない。だから、生きていける」 


 ロクゴーの瞳の奥はまるで闇が淀んでいるようで、光が灯っていない。けれどそれは珍しい事じゃない。合成獣で目に光を保っていられる人なんて、ほとんどいないだろう。

 そうか、とリーダーは静かな声で言った。否定も肯定もしなかった。


「俺と反対だね。W65が言うには、俺は自分から痛みを感じに行っているみたいだ」

「……? そうだろう。それ以外になにがある」

「ええ? 勿論あるよ。人と関わるのに感じるのは、決して痛みだけじゃないだろう」

「……それが、嫌なんだ」


 自分のことを気にして声をかけてくる部隊の者やリーダー。そんなものたちは邪魔だった。 切り捨てていかないと心は一気に弱くなってしまうのだ。


 弱くなってしまうと、つらい。

 そのつらさをロクゴーは耐えられなかった。

 痛みを感じたくないと思い、強くなるが故に何か失う時がくるのだろうか。

 自分は、それを、失ったことに気づけるだろうか。


「そんな辛気(しんき)くさい生き方してっと、そのうち後悔すっぞ!」


 いつの間に話しを聞いていたのか、会話に割り込んできたのはいつもロクゴーに話しかけてくる熊の戦闘用合成獣だ。しかも、ロクゴーの肩に腕まで回し距離が近い。


「そんなことない」


 直ぐ様ロクゴーははっきりと否定して熊の戦闘用合成獣の腕から逃れた。


「でもさ、W65の言うことを聞いてるとさ、優しいんだね、君は」


 リーダーが二人の馴れ合いを微笑ましく見ながら言う。そんな穏やかな瞳にロクゴーは少しイラついた。


「意味が分からない」


 自分の発した発言の一体何処が優しい部分があったのか。普通は逆だろう。相変わらずリーダーは意味の分からない思考を持っている。それは、人間だからなのだろうか。


「だって感じないように意識しなければ、君は人を想って傷つくってことだ。やさしい子だ」


 目を細め愛おしそうにロクゴーを見るリーダー。その瞳がロクゴーはむずかゆくて目線を外した。


「……やさしさなんて、いらない。強く、ありたい」


 そう言うロクゴーに熊の戦闘用合成獣は頭をぐしゃりぐしゃりとなで回した。おかげで髪の毛はぐしゃぐしゃだ。そのことを笑うリーダーと熊の戦闘用合成獣。ロクゴーは呆れため息を吐いた。もう怒るのもばかばかしくなったのだ。


 それでも、この時間を嫌いじゃないと思った。

 そんな自分が嫌で、その感情も捨ててやった。


 









 そして展開は迎える。

 大型大魔法を発動され軍の九割は破綻。国にも致命的損傷を受けている。

 しかし、国は負けを認めない。

 

 魔法を使えない自分たちが、

 力などなくても生きていけると証明しなければ、

 この先の人生など、くそくらえだ。


 軍も民衆も誰一人諦めない。

 涙を流し、叫び、怒り、武器を捨てない。

 それでも微々たる抵抗に、国は一つの答えを選択する。

 もう、どうやっても勝てない。

 これだけの力を振り絞っても、ダメだった。

 認めよう。

 だから、せめて、





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