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乾いた砂埃舞う戦場地。敵影の攻撃が止み一時の休みを得てる最中の軍隊がいた。
「おいロクゴー、さっき飯を分けてもらわなかったんだって? バカだなあ」
大きな体を持つ熊の戦闘用合成獣が狼の幼い戦闘用合成獣に話しかけた。
その呼ばれた者は正式名称をW65。狼を意味したwolfと65番目に作られたことを表している。しかしそのままでは呼びにくいので周りの者たちはロクゴーと呼んだ。
ロクゴーは話しかけられても返事をせず、食事として与えられた硬いパン一つを無表情で食べている。
「今日はリーダー、肉の缶詰くれたんだぜ。ラッキー」
ロクゴーが所属するこの部隊を戦闘用合成獣部隊第二班と言う。 隊員は戦闘用合成獣のみで構成され、唯一リーダーだけが人間の部隊だ。
他の戦闘用合成獣の班と違い、この二班はメンバー同士がコミュニケーションを取ろうとする傾向にあった。
それはリーダーである人間がお人好しで、戦闘用合成獣に対しても隔てなく関わるからだった。
リーダーと呼ばれる者は自分の持つ食べ物をよく部隊の者に分け与えた。
戦闘用合成獣は基本一日に一つ乾いたパンしか与えられないのだが、リーダーはそれを可哀想に思い、腹が減っていてはつらいだろうと自分の食糧を与えたのだ。
「W65本当にいらないのかい? 腹を空かせているだろう」
部隊の仲間たちが皆ロクゴーと呼ぶ中、リーダーだけは正式名称で呼んだ。部隊長の人間は戦闘用合成獣に情が湧かないよう、正式名称以外では呼んではいけない決まりがあった。
リーダーはやせ細っていて、見た目は弱々しい。 お人好しらしい人の良い顔つきをしていて、性格もそのままのため、この部隊のリーダーを押し付けられたのだ。
リーダーは先ほど断られたにも限らず、再び現れて食糧を手にロクゴーへと話しかけた。
しかしロクゴーは反応をしない。無言でパンを食べているだけだ。
W65はまだ幼く本来は少女であるが、少年のような見た目をしている。 齢を予想すれば十一くらいだろうか。
ロクゴーは狼の合成獣なだけあって、瞳はくすんだ金色。髪は灰。合成獣らしく頭には獣耳、腰には尻尾を持っていた。
ロクゴーは部隊では一番幼く、そのせいか部隊の者たちはロクゴーを可愛がった。
しかしロクゴーは人と関わるのを良しとせず、話しかけられても滅多に返事は返さない。
「リーダーもよく諦めないよな、ロクゴーって一回も受け取ったことがないだろ?」
ロクゴーが食糧を受け取らないことに悲しい表情をしてるリーダー。そんなリーダーへ先ほどロクゴーに話しかけた熊の戦闘用合成獣が話しかける。
「だって次は受け取ってくれるかもしれないだろう?」
弱々しい見た目だが、意外にも頑固なところもあるらしい。
リーダーは仕方ないなと笑みを浮かべ、与えようとしていた缶詰をポケットにしまった。そしてロクゴーの隣へと座る。
反対側には先ほどから話しかけてくる人の良い熊の戦闘用合成獣が座っている。ロクゴーは間に挟まれることになり、嫌そうに眉間にシワを寄せた。
「あーあ。今日も明日も明後日も、きっと戦いさ。嫌なものだね」
リーダーは戦争を嫌った。この国の人間なのに。いつも戦いについて嘆いてばかりだ。
それに対しロクゴーは戦争に対し何とも思っていなかった。
戦闘用合成獣というものは戦争に勝つために作られた生き物だ。それ故、生まれてから戦いしかしらない。これからもきっと戦いしかしらず、そのうち死ぬだろう。
そんな思考はロクゴーだけならず、戦闘用合成獣は皆同じようなものだった。
だって戦争で戦うために生まれたのに、戦争以外のところで生活など出来るわけがない。
達観しており、または諦めている。
戦闘用合成獣は戦争が嫌だと嘆くこともしない。
嘆くことが出来るのは人間の特権だった。
「――敵だ!」
見張りをしていた者が叫ぶ。それを聞いた部隊の者たちは直ぐ様立ち上がり武器を手にする。
その武器は銃と呼ばれる、この国独自の武器。
この国は魔法を使えない者たちで構成されている。
魔法が発展していく世界で、魔法が使えない者を無力と迫害する国があった。 他にも差別や偏見で苦しみ国を出た者。 そんな魔法を使えない者たちが集まって出来たのが、この国だ。
魔力など持たなくても正しさを示すため、この国は戦っている。
独自の研究、独自の武器、独自の戦い方。
それは端から見れば血も涙もない国。
魔法が使えなくても戦いに対抗するために銃を作り、
武器を作るための金を得るため、愛玩用合成獣を作り、
戦うための武器、戦闘用合成獣を作った。
リーダーは部隊の者たちに指示を出し、戦闘用合成獣たちは目にもとまらない速度で動き、戦う。
しかし、魔法の力は絶大で、どんなに頑張ってもこの国は勝利が見えない。
それでも、この国は戦った。
魔法が使えなくても、生きていけるという正義のために。
勝利は見えず、部隊の仲間は減って行く。
リーダーは一人失う度に涙を流した。
そしてロクゴーはその時に湧く、名前の分からない感情の扱いに困っていた。
その感情があると、生きていくのに邪魔なように思えた。 どう生きたって、この世界からは逃れられない。
だから、ロクゴーは邪魔な感情を捨てた。
そうやって感情を捨てていくのも、ロクゴーには理由があった。
――強くなりたい。
その意志は一体どこから湧いて出てきたのか。
いつの間にかその感情が心にあって、そのためにならば、何でも捨てられた。
弱い感情なんていらない。
そこまでしてなぜロクゴーは強くありたいのか。




