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ココロネの心音  作者: 存此
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2―1


 ココロネは一つの仕事先を得た。

 なんと寝泊まりの出来る寮つきの冒険者ギルドだ。


 冒険者は様々な人間から仕事を受けることで生きていくが、冒険者ギルドはその効率をまとめたようなものだった。

 ただ問題点があるとするなら、冒険者ギルドとは一つの場所を拠点とすることから、旅を好む冒険者には出来ない事だ。

 しかし少年のこともあり、一つの場所に留まり一時旅を中断することに決めたのだ。


 仕事先を紹介してくれたのは、はなさき診療所のデールじいさんだった。

 ココロネは治療に対する払う金が余裕ないことから、デールじいさんに信用の出来る仕事先があるか尋ねた。

 デールじいさんは知人がマスターをしている仕事先を紹介した。


 その場所を「なんでも屋ギルド エイミー」。

 温もりある木造の二階建て。 その扉上にはエイミーと洒落た字で看板に綴られている。

 扉を開ければ右手にはバーカウンター。そこではバーカウンターのマスターの手によって手作りの食事や酒が提供される。

 左手には複数のテーブルとイスが並び所属する冒険者の集える団らんの場となっている。 中央奥にはギルドマスターオリバーの専用の部屋へと続く扉が存在している。

 両端には二階へと上がれる階段があり、それぞれ階段を進むとギルドメンバーたちが寝泊まり出来る部屋が並んでいた。 ちなみにトイレと風呂は共用で、風呂の順番は新人が一番最後だそうだ。


 デールじいさんからの紹介で来たことを言うとオリバーは既に分かっているようで頷いた。 オリバーの元にはデールじいさんを主にしている鳥から手紙が来ていたのだ。 快くオリバーはココロネを受け入れた翌日。

 オリバーがにこやかに、そして大きな声で言う。


「さあ、ココロネ! お前の初仕事を説明するぞ!」


 オリバーは左手にあるテーブルの席にココロネを連れていくと席に座らせた。

 ココロネは黙って席に座る。 オリバーには自分の得意分野を伝えてある。 そのことを思うと今から伝えられる仕事内容は想像出来た。

 手に持っていた書類たちをオリバーは机上にずらりと並べた。


「当初話したとおり、このギルドは何でも屋だ。 様々な仕事が入ってくる。 草むしりから殺しまで。 それでココロネ、お前の担当は……」


 オリバーはわざとらしく間を作り、にやりと笑う。

 ココロネに嫌な予感が走る。


「……生活担当だ!」


 オリバーは大きな声でどうどうと両手を広げ言った。

 その瞬間ココロネは嫌そうに顔をしかめた。

 仕事が戦闘を伴うものではなかったからだ。

 机上の資料をよく眺めてみる。

 ココロネは文字が読めないので書類など読んだところで意味がない。

 しかし、注目した場所は違うところだ。 資料としてか、何枚かの写真があったのだ。

 その写真が、問題だった。


「生活担当とは! その名の通り、人の生活に関わる仕事だ。 さっき言った草むしりとかな」

「オリバー。 私は戦闘における仕事が得意だと告げたはずだが」

「だから手頃な仕事を持ってきた。 ……と言っても命に関わる大事な仕事だ。 真面目にやってくれよ?」


 話しを聞いているのか、聞いていないのかよくわからないオリバー。 生活担当と聞くと簡単そうな仕事の印象だが、オリバーは重く語る。

 ココロネは志望した部署の担当でないことに複雑な思いを抱きながらも、とりあえず仕事の話しを聞いてみることにした。


「………その、仕事の内容とは……」


 そしてまた、少しの間である。

 オリバーはわざと時間を溜めて話している。 完全におもしろがっていた。


「……猫探しだ!」


 ねこさがし……猫探し……猫……猫?


 思考が止まりそうになる。

 意味が分からない仕事内容にココロネは既に仕事を放棄したくなった。

 いつものココロネだったら、バカバカしい、と去っているところだ。

 頭の中に少年の存在がよぎる。 金を得なくては治療費は払うことが出来ない。

 通院のことを考えると、仕事内容についてあれこれ選択している場合など、今のココロネにはなかった。

 オリバーは机上にあった複数の猫の写真を渡してくる。 ココロネは睨みつけるようにその写真を眺めた。


 ご丁寧に角度別に撮られている。 三色の毛が生えた目つきの悪い三毛猫だ。

 家で飼っている猫、ミミちゃんが扉を開けた瞬間に出て行ってしまい行方不明。 見つけ出して欲しいとのこと、とオリバーは書類に書かれたことをすらすらと読み上げていく。

 ココロネは考えてみる。 一体どうすればこの猫が捕まるかなんて検討もつかない。


「この街に来たばかりのココロネにとって道を覚える良い機会だろ?」


 そんなココロネの様子も無視してオリバーは歯を見せた良い笑顔で言った。

 まるでココロネに良い仕事を与えたような言い様だ。

 何でも屋ギルドとはそういうこと。 一般のギルドでは受け付けないような仕事……を受けるということだ。


「私に出来るとは思えない」

「オレはそうは思わん! ただ、まあ猫も生き物。 出来れば死んでしまう前に見つけてくれると嬉しい」


 出会って間もないココロネに期待するオリバーにため息を深く吐いた。

 猫が野良死にする前に、という時間制限。

 放っておけば死んでしまうかもしれない。 それは拾った少年とまるで同じ境遇だった。

 なかなか面倒なことになってきてしまっている。

 まず、あの少年を助けるために、私がここまでする必要はあるのだろうか。


 ……いや、でも、誓った。 生かせる、と。


「わかったよ」


 仕方なさそうに腹をくくったココロネにオリバーは嬉しそうに笑った。


「猫の名前はミミちゃんだ。 家は冒険者街二区にあるから、まずはそこら辺りを探した方がいいだろう。 となりの区だな」


 ココロネは仕方なく頷いた。 しかし、既に頭が痛かった。


 話しが終わった後、ココロネはすぐに仕事へと向かった。

 冒険者街は門に入るとすぐに存在する一区から始まり左回りに七区まで存在する。 区が後半に行くにつれて治安は悪くなり、雰囲気もよくはない。

 そう言うと、冒険者街の中で一番治安の良い地区は一区と言える。 何故ならば入り口からすぐにあることから、街の看板地区として存在するからだ。 そのため街からも監視されている。


 なんでも屋ギルドエイミーやはなさき診療所があるのは一区だ。

 ココロネはしばらく歩き、冒険者街二区に到着する。 一区と二区で特に区切りがあるではなく雰囲気は一区と大して変わらない。 あえて言うなら少しだけ一区よりも人が少ないだろうか。


 陽が落ちるまでココロネは二区を歩き回る。 道を覚えるためだった。

 隙間や脇道を見てはミミちゃんがいないか探したけれど、それらしきものは見かけない。


 ココロネは小さくため息をついてエイミーへと帰る。

 一人であったならもっと時間をかけて探索をしてもよかったが、少年のことが気がかりだった。


 少年はエイミーの二階にあるココロネのために用意された部屋のベッドで眠っている。

 当然、鍵を閉めて出てきたが、もしかしたら目を覚めて混乱していることもあり得る。

 そのため遅くまで仕事するのは嫌だった。



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