5―2
「少年、質問に答えよう。 もう一度尋ねる。 ココロネに会いたいか?」
再度された質問に少年がぎゅうと口をつぐんだ。 オリバーのことだ、こんな風に聞くにはきっと意味があるのだろう。
少年は考えた。
ココロネに会いたいなど、当然のことだ。 すぐにでも頷くことが出来る。
けれど、そうしなかったのは、ココロネに会っても、また別れを告げられる可能性があるからだ。 会えたとしてもずっと一緒にいられないだろう。 少年がどんなにも、いつまでも一緒にいたいと思っても、ココロネは一人でいたいのだ。
「勇気を出せ、少年。 そしたら、力を貸してやる」
頼もしい声音でオリバーは言う。
少年は以前から疑問だったことを問うた。
「な、なん、で、おりばーは、そんな、に、やさ、しいの」
バーのマスターもココロネも。
今までこんな風に扱ってくれる人と出会わなかった。 ぼくをたいせつに、守ろうとしてくれる存在。 檻の中から見ていた外の光景は夢のようだった。 しかし、それは夢では終わらなかった。 ココロネが生かしてくれたおかげで、すべてが変わった。
何でもっと早く出会えなかったのだろう、とも思う。
けれど、ようやく出会えた。
死にたいほどの苦しみとつらさを知ったあとでも、それは遅くなかった。
こんなぼくに対しても力を貸してくれる存在がこの世界にいると知った。
それは、生きる上で力強い。
「優しい? うーん」
オリバーは顎に手を当てて考える。 オリバーにとっては当然のことだったから、優しいと言われてもピンと来なかった。
オリバーには行方不明になった妻子がいる。 それが関係あるのかもしれない、と考えた。 つらそうな子どもは見てられない。 しかし、どうだろう。 本当にそれだけだろうか。 大人だって助けてやりたいし、道端で困っている知らない人でも……。
ああ、そうだ。 それは――
「それが当然である世界であってほしいからだな」
にかり、とオリバーは笑う。
そりゃ、そうだ。 そうでなければ何でも屋ギルドなんてものやってはいない。
「そ、うなんだ」
もし世界がそうであるなら、それはなんて素敵なことだろう。
少年は思う。
「ぼ、ぼぼくも、そう、あれる、かな?」
強くて優しい人に。
そう、ココロネのように――。
「当然だろう! 少年、お前はそういうヤツの傍にいただろ? そんなもんは、自然となっちまうもんだ!」
オリバーはがはがはと笑う。 少年も釣られて微笑んだ。
「で、少年。 どうするんだ?」
オリバーはまるですべてを見通すかのように、じっと少年を見つめた。
少年は思い悩むようにぎゅうっと目を瞑る。 あれこれ考えても少年に出来ることは限られている。
怖いのは勇気を出して頑張っても、否定されることだ。
ココロネに迷惑そうな表情をされる想像するだけで、心が痛む。
ぼくはココロネがいなければ生きられない。
ならば、生きたいのなら、ココロネと一緒にいたいのなら
それは、勝手な思いだ。 随分自分勝手な想いだと思う。
ココロネの意志なんて大切にしていない。
今、自分のために行動をしようとしている。
初めて、自分の為に、勇気を出そうとしている。
少年は覚悟を決めるかのように長く息を吐く。
そして、ぎゅうと目を瞑り、しばらくした後、目を開く。
気持ちがはっきりとしたのか、覚悟をした顔つきでゆくりと口を開く。
「……う、ん。 こころね、と、いっしょ、に、いた、い。 ずっと……!」
そう言うとオリバーは「よおし!」とガッツポーズをしながら勢いよく立ち上がる。
オリバーは少年の目の前に来ると、両肩をがしりと掴んだ。
「よく言った少年! この、エイミーのマスター、オリバーが全力を出して力を貸してやる!」
オリバーは少年が自身の想いを口にしたことが嬉しかった。 少年の勇気を讃えた。
「こころね、に、あえる、の?」
「ああ! 会えるとも! ただなあ、少年、その後はお前次第だ。 お前が、なんとかするんだ!」
少年の心には期待と緊張が走る。 少年の溶け出しそうな太陽は決意に燃えていた。




