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ココロネの心音  作者: 存此
3.5
18/44

3.5―2


 うるさいよ。

 おまえが何を知ってるというんだ。

 どれだけ必死に生きようとしても、おまえらが、おまえらが、

 きらい。 きらいだ。

 おまえも。

 誰も助けてくれない、このぼくも。


 感情が高ぶって涙が浮かんでくる。


「おい、あまり傷をつけるな。 商品なんだぞ」

「こんなの商品にもなんねえよ。 売ってもどうせすぐ返される。 そんなら、翼だけでも切って売った方がお得じゃねえか?」

「そんなことない、物好きも……おい!」


 男が頭横に差したままだった刃物を抜くと、背中に刃先が移動した。

 その瞬間、背筋に悪寒が走る。


 ――愛玩用合成獣は美しくなければ生きられない。


 その言葉が頭をよぎった刹那。

 ぼくは抵抗した。

 人間よりも力が弱いと知っているくせに、頭をめがけて思いっきり殴った。

 次に腕に噛みついてやった。 食べ物を噛むよりも強く、全力で。

 死にたいと思ってるはずなのに、これじゃあ、

  

「この野郎!」


 その声と同時に腹に感触があった。

 嫌な予感をして、自分の腹を見てみると、刃物が深々と突き刺さっていた。

 傷口からはじわじわと血が溢れ始めている。

 強烈な痛みと熱さ。

 今まで散々暴力を受けてきたけど、刃物で刺されたのは初めてだった。

 そして察知する。


 ――これは、死だ。

 ぼくは、死ぬんだ。

 この傷じゃあ、助からない。


 そう思うと、ほっとした。

 ああ、ぼく、やっと終われるんだ。

 やっと、この人生を終わらせることが出来る。

 それは、うれしいというよりも安堵だった。

 だけど、何故だろう。

 なぜ、  


「お前なにやってんだ!」


 泣けてしまうんだろう。

 だれか、

 だれかたすけて。

 そんな人いないってわかってるのに。

 助けを求めずにはいられないんだ。

 ばかなぼく。

 腹が、熱かった。

 



 体を誰かに揺すられている。

 こんなにやさしく体を揺する人は、ぼくにとって一人しかいない。


 意識が浮上する。

 ああ、過去の夢を見ていたんだ。


 瞼を開くと涙がぽろぽろと零れた。 泣いているようだった。

 ココロネと出会ってから、ぼくは随分と弱くなったように思える。

 暴言を吐かれることも、傷つけられることもない。

 それは、やさしい環境すぎて、ぼくには怖い。

 いつか夢から覚めてしまいそうな現実で。

 以前のぼくならば、過去を思い出し泣く暇すらもなかったというのに。


「うなされていたよ」


 静かな声でココロネは言う。

 ココロネの表情は動きが少なく、端から見れば冷たい人に思えるだろう。

 けれど、それだけじゃない。

 ココロネの雰囲気や声音、表情はどこか寂しさを感じさせる。

 それなのに、やさしい。

 まるで月の出る深い夜のような人だ。

 その冷たさは、人によっては心地よい。 月は一人ぼんやりと光り夜を照らしている。


 ぼくは夜が好きだ。

 真夜中のほうが好き。

 真夜中になると皆が寝静まり、一人だけになれるから。

 まるで世界にひとりだけになった気になれる。

 夜空を見上げると月や星が浮かんでいて(きら)めいているから。

 一人で眺めていられる時だけは寂しさを忘れる。

 誰にも傷つけられない、そんな一人の夜が好きだった。

 このまま夜に溶けて自分がいなくなってしまえばいいのに。


 けれど、最近のぼくはどうか。

 夜はぐっすりと寝ているじゃないか。

 夢にうなされるとココロネが起こしてくれて、水をくれる。

 想いをココロネに吐き出すと、すっきりして不安がなくなる。

 そしてまた眠りへと入る。

 だけど、今夜は少し違う。



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