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竜騎士様の最愛花嫁(9)



そんなある日のこと。

仕事の空き時間に新聞に目を通していた私は、ふと気になる記事に目を留めた。


「あの事件、放火だったのね」


それは、私の住んでいた宿舎に火を付けた実行犯役が捕まったという記事だった。

なんでも、全身に大けがを負い『黒髪の悪魔に殺される。お願いだから助けてくれ』と言いながら瀕死の状態で騎士団に自首しに来たらしい。


(黒髪の悪魔?)


そのとき、私の思考を遮るように声がした。


「エレオノーラ。これを、医療局に届けていただけますか?」


顔を上げると、カウンターの向こうにアルフレード様が立っていた。

アルフレード様が持っているのは、医学に関する複数の専門書だった。


「あ、はい。医療局から依頼なんて、珍しいですね」

「なんでも、ポリドロ伯爵令嬢が原因不明の錯乱状態になったとかで、治療法を探しているそうです」

「ポリドロ伯爵令嬢?」


(ポリドロ伯爵家って、アレッシア様のこと?)


アルフレード様によると、アレッシア様は数日前に原因不明のショック状態に陥り、今も錯乱状態だという。


脳裏に、金色の髪を靡かせた華やかな美女の顔がよみがえる。


(何があったのかしら?)


よくわからないけれど、彼女の回復を陰ながら祈る。




医療局に向かう途中、前方から若い男性が歩いてくるのが見えた。


(あれって……)


黒い騎士服がレオと同じなので竜騎士だろう。

茶色い髪に茶色い瞳、凜々しい顔立ちの中にも優しげな印象がある人だった。


すれ違いざまにその男性と目が合う。すると、男性は「あれ?」と言って足を止めた。


「もしかして、エレオノーラさん?」

「え? はい、そうですが」


どうしてこの人は私の名前を知っているのだろう?と戸惑いつつも、私は頷く。すると、男性は表情を明るくした。


「やっぱり! 先日の祝賀会でお見かけした方に似ていると思った。俺は王都竜騎士団の第1師団副団長をしているロベルトです」

「王都竜騎士団の第1師団副団長?」


王都竜騎士団の第1師団といえば、レオが団長を務めている師団だ。そこの副団長と聞き、私は慌てて頭を下げた。


「エレオノーラ=レガーノでございます。いつもヴァレリオ様にはお世話になっております」

「ああ、そういう堅苦しい挨拶は要らないから」


ロベルト様は片手をフランクに振る。


「最近レオの機嫌がよくて、助かってます。一時期、目が死んでたんで」

「目が死んでた?」

「ええ。ここに戻ってきた直後と、先日の祝賀会のあと。エレオノーラさんに避けられてるって落ち込んで」


ロベルト様は困ったように、大げさに肩を竦める。

それを聞いて、私は驚いた。


「レオが落ち込んでた?」


そんな様子、全く見えなかったのに。


「ええ、そうですよ。俺はキエル魔法学校のときからずっとレオと一緒だったんですけど、あいつ、昔からエレオノーラさんに関しては必死だから。頼りになる男になりたくて7年連絡を絶ってたって聞いたときはさすがにびっくりしたな。しょっちゅうあなたの話をしていたから、てっきり連絡を取り合ってるのだと思ってたから」

「頼りになる男?」


なんのことを言ってるのだろうと私は困惑した。


「なんでも、エレオノーラさんのご実家が困ってるのにエレオノーラさんが自分には相談してくれないって悩んでて。俺が『弟みたいに思われてるなら、ギャップを見せるために暫く連絡を絶ったらどうか』って言ったんだけど、まさか7年も絶つとは──」

「実家が困っている?」


すぐに、実家が事業に失敗して傾き始めた頃だと予想が付いた。

たしかにそのころ、レオから「変わりはないか?」と何度も手紙が来ていたけれど、私は心配させたくなくて『何も変わりない。元気だ』と返していた。


そして、それから程なくしてレオからの手紙がなくなった。


(レオ、レガーノ子爵家が没落していることを、知っていたんだ……。私を忘れていた訳じゃなかったの?)


知らなかった新事実に驚く。

しかも、連絡を絶った理由が『頼りになる男になってから迎えに行きたいから』って!

そんなこと、想像だにしていなかった。


「だから、叙爵と王都に戻ることが決まったとき、すごく喜んでてさ。やっとエレオノーラさんに相応しい男になって迎えに行けるって」

「そうですか……」


レオが、私が祝ってくれないなら祝賀会なんて意味がないと言っていたことを思い出す。

まさか、ずっとそんな風に思っていてくれたなんて。


(初めての日に言った私のことを愛しているって言葉、本気だったの?)


再会してからのレオの言動を思い返し、気持ちがぐらつく。


私は、今のレオには相応しくない。彼のために、身を引くべきだ。

私がいなければ、レオにはもっと若く、美しく、家の後ろ盾もしっかりした素敵な女性がすぐに現れるはず。


それなのに、私はいつの間にかレオのとなりが居心地よくなっていて、今の状況を甘んじて受け入れてしまっている。もう、自分でもどうしていいのかわからない。


「あいつ、本当にエレオノーラさんが大好きなんですよ。これからもよろしくお願いします」


ロベルト様は朗らかに微笑む。

私はどう答えればいいかわからず、曖昧に微笑んだ。


 ◇ ◇ ◇

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