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竜騎士様の最愛花嫁(6)

 


 叙勲式が二週間後に迫ったこの日、私は図書館に来たステラから衝撃の言葉を聞いて耳を疑った。


「嘘でしょう?」

「本当。だから、エレンには絶対に出席してもらわないと困るの」


 ステラは腕を組んで、そう宣う。


 私が聞いた衝撃の言葉。それは、レオが『エレンが祝賀会に行かないなら、俺も行かない』と言い出しているというのだ。


「叙勲式はさすがに出ないとまずいって説得できたんだけど、祝賀会は頑なに『行かない』って。もうお手上げだから、エレンには出席してもらわないと」


 ステラは先ほどと同じ言葉を繰り返す。


(なんでそんなことを!?)


 私は頭を抱える。

 今回の叙勲式では、レオも含め、先の魔獣討伐で活躍した竜騎士数名に爵位が与えられる。

 また、祝賀会は叙勲のお祝いはもちろんのこと、魔獣討伐に参加した竜騎士達の勝利を祝い労うのが目的だ。


(レオが一番大活躍したのに、参加しないなんてあり得ないわ!)


 レオの考えていることがちっともわからない。

 私はその足で、レオのところに真意を聞きに行った。ステラも一緒だ。


「レオ!」

「エレン? 俺に会いに来てくれたのか?」


 厳しい表情で部下達を指導していたレオは、私を見るやいなや満面の笑みを浮かべる。

 それを見た部下の騎士達が、驚いたような顔をした。


「レオ! 一体どういうつもりなの!?」


 私はレオの元に歩み寄ると、開口一番に問い詰める。


「どういうつもりって?」

「祝賀会を欠席するって言ったらしいじゃないの!」

「ああ、それ」


 レオはなんでもないことのように頷く。


「俺はエレンと一緒に参加して、エレンに祝ってほしかった。エレンが行かないなら、行く意味がない」


 きっぱりと言われ、私は戸惑った。


「レオは主役なのよ? それに、私はそんな素敵な場所に行くドレスも持っていないし、無理よ」


 舞踏会に参加するためのドレスは、最低でも1ヶ月前までに発注が必要だ。

 没落していた我が家ではもう何年も舞踏会に参加していない。ドレスは一着も持っていないし、買うお金もない。


「ああ、それなら心配いらない。もう頼んであるから」

「へ?」


 私は呆気にとられてレオを見返す。

 もう頼んであるとは、一体?


「サイズは?」

「竜に乗せたときに抱きしめたから、大体わかった」

「ええーっ!?」


 抱きしめたときにサイズがわかった? 

 そんなことってある!?


「じゃあ、つまりは私が行くと言えば、レオも参加すると?」

「そうだね」

「…………」


 ステラや、レオの部下達の視線が一斉に私に集まる。

 ものすごい圧を感じた。


(それって、もう答えの選択肢はひとつしかなくない?)


 私が行かないって行ったらレオも欠席になっちゃうんでしょ?


「……行きます」

「本当? 嬉しいよ」


 レオはぱあっと表情を明るくし、私の髪を一房手に取るとそこにキスをする。


「絶対にエレンに似合うから、楽しみにしていて」


 ◇ ◇ ◇


 舞踏会の日、私は王宮の控え室にレオが用意してくれたドレスとアクセサリーを目にしてただただ圧倒されていた。


 薄黄色のドレスは足元に向かって上品な広がりを見せ、幾重にもドレープが重なっている。胸元や袖口には繊細なレースがあしらわれ、生地には小さな花の刺繍がちりばめられている。

 そして、それに合わせて贈られたのはダイヤモンドのネックレスとイヤリングだ。

 没落前、まだレガーノ子爵家の羽振りがよかった頃でも、ここまで豪華なものを見ることがなかった。


「落ち着かないわ……」

「エレン、すっごく可愛いよ!」


 今日は事務方として参加するステラが、にこにこしながら私を褒める。

 もう何年も前に没落して借金まみれなので、実は大人になってからドレスを着るのは初めてなのだ。

 慣れない格好に、そわそわする。


 そのとき、トントントンとドアをノックする音がした。「はい」と答えると、ドアが開く。


(わあ、格好いい)


 そこに姿を現したのは、盛装したレオだった。式典用の騎士服はいつもよりも数段装飾が豪華で、袖口や襟元に金糸の刺繍が施されている。髪の毛をかっちりセットしたレオは、さながら王子様のようにすら見えた。


 一方のレオは、私を見つめたまま数秒固まる。


(えっ、何? やっぱり変だったのかしら!?)


 レオの反応に不安が込み上げる。そのとき、「はーい。お互いに見惚れてないでね!」とステラの元気のいい声がした。


(見惚れてなんか……っ)


 いるかもしれない。

 恥ずかしくなって、顔が赤くなる。レオはハッとしたようにこちらに近づき、私の手を取った。


「エレン。すごく綺麗だ。きみがあまりにも綺麗すぎて、息が止まるかと思った」


 蕩けるような甘い微笑みを浮かべるレオを見て、益々顔が赤くなる。


「照れているの? 本当に可愛い」


 レオは私を立ち上がらせ、その胸に抱きしめる。

 逞しい体にすっぽりと包まれ、服越しに伝わる体温に心臓が煩く鳴り響く。


「可愛すぎて、誰にも見せたくないな。ずっと俺の側で囲っておきたい」

「ダメよ。おふたりにはきっちり参加していただきます」


 横から声がしてハッとする。見ると、ステラが呆れたように私達を見ていた。


「いちゃいちゃは終わってからにしてね、おふたりさん。さあ、行くよ」

「いちゃいちゃなんて……!」


 私は思わず否定する。


「そうだな。夜は長いし、終わったら存分にいちゃいちゃしよう」


 なんか聞こえた気がするけど、聞こえなかったことにしよう。




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