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竜騎士様の最愛花嫁(4)

 ◇ ◇ ◇



 その日以降、レオは律儀に裏口に私を迎えに来るようになった。

 王都竜騎士団第一師団の師団長であるレオは絶対に忙しい。それなのに、なぜそこまでして私を迎えに来るのかと、困惑してしまう。


 レオから私を連れて行きたいところがあると言われたのは、そんなある日のことだった。


「わあ、これは竜?」


 案内された場所で、初めて間近で見るその生き物に私はただただ圧倒される。青みを帯びた銀色の竜は、3メートル近い高さがあり、馬よりもずっと大きかった。


「ギル。この人がエレンだよ。俺の大切な人」


 レオが竜に呼びかけると、その竜は私の顔に頭を寄せて匂いを嗅ぐような仕草を見せる。そして、鼻先を頬に擦り付けてきた。


「わわっ」

「エレンのこと、気に入ったみたいだ。ギルって名前なんだ。頭を撫でてあげて」

「こう?」


 私はおずおずと、その竜の頭を撫でる。すると、竜は気持ちよさそうに目を瞑った。


「可愛い……」


 上空を飛ぶ竜騎士の竜を地上から見ると、とても雄々しく見える。竜がこんなに人なつっこくて可愛い生き物だなんて知らなかった。


「竜騎士が乗る竜達は、卵のときから人が育てて飼い慣らしているからね。野生の竜に会うと、大変だよ」

「あ、そうよね」


 私はハッとする。

 レオが英雄竜騎士と呼ばれるようになったのも、魔獣──白竜の大群が街を襲い壊滅的な被害が出ていたのを、果敢に攻めて討伐した結果だ。

 ギルの頭を撫で続けていた私をしばらく見つめていたレオは、「よし。大丈夫そうだな」と呟く。


「エレン。乗ろう」

「え?」


 レオはあっという間にギルの背中に飛び乗る。

 飛び乗ると言っても、私の身長より高い位置だ。どういうジャンプ力をしているのだろう。


「エレン。手を」


 レオはびっくりする私の手を握ると、力強く引き上げる。

 まるで軽い荷物でも持つかのように難なく私を持ち上げて自分の前に座らせたレオの力強さに、ドキッと胸が跳ねた。


「ここを持って。落とさないから大丈夫」


 そう言うと、レオは私に手綱を握らせ、自分は私をすっぽりと包み込むように背後から腕を回して自分も手綱を握る。


「ギル、行くぞ!」


 レオの掛け声で、ギルが大きな羽を羽ばたかせる。すると、ぐいんと下に引かれるような感覚がして、一気に地面が遠ざかった。


「すごい……」


 初めて見る上空からの景色に、ただただ圧倒される。

 王宮にある見晴らし台からも城下はよく見えるけれど、これはそれとは比べものにならないくらい遠くまで見渡せた。


「レオ、見て! あんなに遠くまで! すごい!」


 興奮してしまい、年甲斐もなく大はしゃぎしてしまう。


「気に入った?」


 背後にいるレオが私の耳元に顔を寄せ、直接耳に吹き込むように問いかける。

 パッと振り返ると鼻先が付きそうな距離にレオの秀麗な顔があり、心臓が跳ねた。


(ち、近いわ!)


 慌てて距離を取ろうとすると「危ないよ」とレオが私のお腹に腕を回す。

 鏡を見なくとも、自分の顔が赤くなるのがわかった。


 初めて間近で見る竜に気持ちが高揚して気付いていなかったけれど、今の私とレオ、ものすごく距離が近いのじゃないかしら?

 はっきり言って、後ろから抱きしめられていると表現しても過言じゃない。

 思った以上に逞しい体つきに、10年という月日の流れを感じた。


「エレンにこの景色を見せてあげたかったから、喜んでくれてよかった」


 レオが呟く声が聞こえた。


「え?」


 私は身を捩り、レオのほうを見る。


「エレン、子供の頃に竜の背中に乗ってみたいって言っていただろ?」


 まるで大切な思い出を語るようにとても優しい表情で微笑まれる。


『いつか竜の背中に乗ってみたいわ』


 確かにそう言った記憶はある。大好きな子供向けの小説の主人公が竜騎士様で、お姫様を乗せるシーンがあったのだ。


(憶えててくれたんだ……)


 7年間も放置されて、私のことなんか完全に記憶から消え去っていると思っていただけに、そんな些細なことを憶えていることに驚いた。


「どうもありがとう」

「どういたしまして」


 歯を見せて屈託なく笑うレオの表情が、まだ小さな少年だったレオの姿と重なる。

 でも、当時は決して感じなかったこの胸のうるささは何なのだろう。


 ◇ ◇ ◇


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