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【コミカライズ】竜騎士様の最愛花嫁  作者: 三沢ケイ


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竜騎士様の最愛花嫁(レオ視点)

出会い~物語スタートまでの、レオ視点加筆しました!

エレンと出会ったのは、俺がまだ8歳の頃。

父の仕事の取引先──レガーノ子爵家に連れて行かれたときのことだった。

当時の俺は体も小さくて、引っ込み思案で気が弱かった。


「はじめまして。エレオノーラです」


薄緑色の瞳に、さらさらの茶色い髪。

この日初めて会ったエレンは、子供の目に見てもとても可愛い女の子だった。

初対面の子に物怖じして、俺は父の後ろに隠れる。


「ねえ、一緒に遊ぼうよ」


エレンはそんな俺に、片手を差し出してにこりと笑いかけた。

彼女が笑うだけで周囲の空気がふわりと明るくなるような、不思議な感覚がした。



その日以降、父はよく俺のことをレガーノ子爵家に連れて行くようになった。

レガーノ子爵家に行くとエレンに会える。それは密かに、俺の楽しみになっていた。



そんなある日、俺がエレンのところに行くと、彼女は本を読んでいた。


「エレン、何を読んでいるの?」

「ん? これは小説なんだけど、竜騎士様が活躍するお話なの」

「竜騎士?」


竜騎士は、騎士の中でも特別な存在だ。馬ではなく、竜に乗り、空を自在に飛び回り、魔法を使いこなすエリート集団だ。


「エレンは竜騎士が好きなの?」

「うん。素敵だよね。いつか、私も空を飛んでみたいなあ」

 

エレンは憧憬の眼差しで、空を見上げる。

一緒になって見上げた青い空には、白い雲が浮かんでいた。


 ◇ ◇ ◇


そんな日々が続き、俺は12歳になっていた。

屋敷の廊下を歩いているとき、少し扉が開いた部屋で両親が話しているのが偶然聞こえてくる。


「レガーノ家が資金援助を申し入れてくれた」

「じゃあ、この屋敷を売らずに済むのね」

「ああ。かわりに、レオとあちらのお嬢さんを婚約させようと思っている」


扉の隙間から部屋を覗くと、父と母が深刻そうな顔で話し込んでいる。


(資金援助? かわりに、婚約?)


エレンの実家であるレガーノ子爵家は、魔法鉱山による富で爵位を得た新興貴族だ。所有する魔法石鉱山の売上を伸ばすために、有能な魔術師を輩出することで有名なボローニ子爵家と縁ができると利得が大きい。


一方、俺の実家──ボローニ子爵家はこの頃、領地を襲った大規模災害で家計は火の車状態だった。父が親戚や金融機関を駆けずり回り、金の工面をしていたことは俺も知っている。


つまり、政略結婚だ。


(エレンはどう思うだろう)


俺は、やるせない気持ちになり、拳を握りしめた。


  ◇ ◇ ◇


婚約の日、俺は両親と一緒にレガーノ子爵家を訪ねた。


「レオ。これからよろしくね」


エレンはいつものように、優しく俺に笑いかけてくる。


「嫌じゃないのか?」


12歳になりだいぶましにはなったものの、未だに俺の身体は小さく、ひ弱だった。子爵家という中途半端な爵位なせいもあり、ガーデンパーティーなどでいじめのターゲットにされることもしばしば。

そんなとき、果敢に抗議して庇ってくれるのは、いつもエレンだった。


さらに、実家は借金に喘いでいて、魔法が使える以外はっきり言って取り柄もない。

俺は、ぎゅっと拳を膝の上で握りしめる。

しかし、エレンから返ってきたのは予想外の言葉だった。


「嫌じゃないわ。レオのこと、好きだもの」

「え?」


驚いて顔を上げると、エレンは俺を見つめてにこりと微笑む。


(エレンが、俺を好き?)


驚くと共に、嬉しさが込み上げる。


その日、俺は誓った。

エレンに相応しい男になって、絶対に彼女を幸せにしようと。



どうすればいいかと考え、昔彼女が竜騎士に憧れていると言っていたことを思い出す。

どうすれば竜騎士になれるかと考え、至った結論は世界最高峰の魔法学校──キエル魔法学校へ入学することだ。キエル魔法学校の卒業生は、毎年多数、竜騎士団に入団する。


その日から俺は猛勉強した。

ボローニ子爵家にはお金がない。キエル魔法学校には特待生で入学する必要があった。

立派な竜騎士になって、エレンを幸せにしてあげたい。

ただそれだけを思って、努力した。


その甲斐あってキエル魔法学校に合格したとき、エレンはとても喜んでくれた。


「エレン。君にふさわしい男になって絶対戻ってくるから、待っていて」


そう告げると、エレンは「うん」と言って笑ってくれた。


◇ ◇ ◇


キエル魔法学校に入学してからも、俺は必死に勉強した。

竜騎士には体力もないとなれないので、朝晩は走って体力作りもした。

そんな俺の楽しみは、エレンから定期的に届く手紙だった。


『先日、新しくできた公園に行ったの。レオがこっちに戻ってきたら、一緒に行きましょう』


手紙の内容は、そんな他愛ない日常の内容だ。

それに対して俺は、キエル魔法学校での出来事を書いて返事をしていた。


そんなやりとりが3年程続いたある日、実家の父から来た手紙に俺は衝撃を受けた。

エレンの実家であるレガーノ子爵家が新しく手を出した魔法石鉱山に思ったような埋蔵量がなく、多大な初期投資の借金でクビが回らなくなっていると言うのだ。


(エレンの手紙にはそんなこと何も書いてなかったのに……)


エレンからはつい1週間前に手紙が来た。

庭のコスモスが綺麗に咲いているという、いつもの変わりない内容だった。


俺は慌てて、エレンに手紙を出す。

実家が大変なことになっていて、精神的にも辛いはず。

自分を頼ってほしかった。けれど、何回手紙を送ってもエレンからそのことに関しての言及はなかった。


『寒くなってきたから、風邪を引かないようにきをつけるのよ』


書き添えられたそんな一言に、自分が彼女の中で〝守ってあげなければならない男の子〟のまま止まっていることを自覚する。


「レオ。なんか元気なくね?」

「エレンが俺のこと、子供扱いする……」


友人のロベルトに、つい愚痴を漏らす。

ロベルトはカルゴ伯爵家の次男で、キエル魔法学校に入学してから知り合った。

明るく気さくな性格で俺と同じく竜騎士を目指しているロベルトは、何でも話せる一番の親友だったのだ。


「エレン? いつも話してる婚約者だよな?」

「そう。頼ってほしいのに」

「年上だっけ。うーん、じゃあギャップを見せたらどうかな?」

「ギャップ? どうやって?」


俺の質問に、ロベルトは腕を組む。


「しばらく連絡を絶ってみるとか……」


連絡を絶つとギャップを見せられる。

いかにも子供が思いつきそうな、稚拙な理論だ。

しかし、当時の俺はエレンのためなら何でもやる覚悟でいたので、なるほどと思ってしまった。


その当時、俺の実家は災害のために火の車状態だった経営収支がようやく正常化して多少の資金の余裕ができていた。父は、かつてボローニ子爵家が危機の際にレガーノ子爵家が資金援助してくれたこともあり、恩返しの資金援助をしたようだ。

それにより、すぐにエレンの実家がどうこうなる状態は免れたと聞きホッとする。


エレンから来ていた手紙は俺が返事を出さないせいで段々と頻度が減っていき、16歳でキエル魔法学校を卒業する頃には俺達の連絡は完全に途絶えていた。


その頃、父から俺にまたしても衝撃の手紙が届く。

エレンとの婚約を白紙に戻そうというものだ。


聞けば、エレンの父──レガーノ子爵からの申し入れだという。

未だに完全返済の目処が立たない借金の返済のために、爵位を売ろうと思うとのことだった。

エレンは貴族でなくなるから、政略結婚に見合わないと。


(嘘だろ?)


頭が真っ白になる。


俺はすぐに父に連絡して婚約は破棄しないと告げる。そして、エレンの父には爵位は売らないでほしいと頼み込んだ。

竜騎士として働き始めた俺は、自分の収入のほとんどを実家を通してレガーノ子爵家に援助した。

そして、それを決してエレンに言わないでほしいともレガーノ子爵に頼んだ。

エレンがその事実を知れば、彼女の性格的にきっと自分から身を引いてしまう、ともすれば自分から金持ち商人の後妻になるとでも言い始めると思ったから。


竜騎士団で出世するためには手柄が必要だ。

だから、俺は自ら志願して危険任務の前線に立ち続けた。

1日でも早くエレンを迎えに行きたかったから。

そんな日々を過ごしていたら、いつの間にか英雄と呼ばれるようになっていた。


そして、俺は史上最年少で王都の竜騎士団師団長に任命され、伯爵と同格の爵位も貰えることになった。

王都に帰れる。お金ももう大丈夫。


「レオ、よかったな!」


竜騎士団でも同期で、俺と一緒に活躍していたロベルトが、自分のことのように祝ってくれた。


「ああ、ありがとう」


俺は笑顔で頷くと、いつも持っているロケットペンダントの蓋を開ける。そこには、キエル魔法学校に旅立った日のままのエレンが笑顔を見せていた。


「エレン、やっときみを迎えに行ける」


再会したら、彼女が好きな花を贈って、結婚しようと告げよう。


俺は口元に笑みを浮かべ、7年ぶりにエレンへと手紙をしたためたのだった。


<了>


最後まで読みいただきありがとうございました。


最初から最後までヒーローの溺愛もりもりで書いていてとても楽しかったです。

作者のやる気が出るので★★★★★での応援よろしくお願いします!


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