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ファンタジー・SF 短編集

シロガネの魔女

作者: アリス法式

ただ単にTS魔法少女が書きたくて、ふと思いついたネタを区切りの良い所まで纏めただけのもの。

 この世界は、昔から幻想と戦っていた。

醜い緑の小鬼、大柄筋肉質の豚頭の戦士、果ては空を飛ぶ赤熱した翼をもつ蜥蜴。

度々、引き起こされる世界の割れ目から流れ込んでくるそれらの怪物は『幻想種(ファクター)』と呼ばれ度々世界を滅びの寸前まで陥らせてきた。


それに、対抗する者達を魔術師と呼ぶ。

白銀に輝く魔法炉。

吹き出す魔力を幻想の武器へと見立てて、魔術師は古来から『幻想種』と戦い続けていた。


しかし、それでも人類は滅びに直面し続けていた。

特に、やく百年前から立て続けに起こった二度の『大災厄』は、世界を守っていた多くの魔術師たちに大きな傷を残した。

その傷は大きく深く、その後数十年世界の発展が遅れた原因ともいわれている。

しかし、時代は『大災厄』を越えたことによって、小経状態を迎えることとなる。

その後も数回、大規模な『幻想種』の侵攻を度々迎えながらも世界は、一歩一歩前進していた。――――はずだった。


時にして約20年前、世界は急激な転換期を迎えることとなる。

『幻想種』の個体値が突如強くなり始めたのだ。それまでの数で押してくる『幻想種』は鳴りを潜め。個としての強さを秘めた『幻想種』が徐々に姿を現し始めた。

集団としての『幻想種』と戦いなれていた魔術師にとって、個体として強くなった『幻想種』には、攻撃が通じるものが少なく世界は、また、あっという間に滅びに瀕してしまった。


そんな時である。

『始まりの魔法少女』と呼ばれる彼女が姿を現したのは――――。

黄金に輝く魔法炉。

吹き出す魔力はあっという間に幻想を書き換え駆逐していく。


それは、一つの時代が終わり、一つの時代の始まりの光景であった。


故に、嘗て、世界を守っていたのは魔術師であった。

しかし、いま世界を守っているのは魔法少女という新たな守護者である。

魔法少女の出現と共に、嘗て世界を守護していた魔術師たちは魔法相互扶助協会を造り、魔法少女と世界を支える存在へと変わっていった。

強力ではあるが、魔法少女達はその特性故に総じて幼く、精神的にも未熟である。

故に、魔法使い達は嘗ての『幻想種』との戦いから生み出されたノウハウを駆使して、精神的、現場的なサポートへと転向していくこととなる。


戦闘時の結界及び戦闘空間の構築。

戦闘後の周辺被害の修繕。

戦闘後の被害者・死亡者の回収。


一概に魔法少女と呼んでも、その力の形は千差万別であり中には戦闘に向かない者も存在する。

特に、まだ歴史が浅く魔術師の力程、研究され尽くしていない彼女たちの魔力炉は、時に予想も出来ない構築を行うことが多かった。

そして、それに気が付かないまま、戦場に向かってしまう者も多い。


強力な力を持つとは言え、精神的に未熟な年代、そして、その未熟さを前提に強力な出力を発揮する魔力炉。

それは、少しの精神的均衡の崩れであっという間にエンストを起こしてしまう強力なロケットエンジンのような存在であった。

恐怖心による魔力炉の暴走。

痛みからくる過剰抵抗による心身凍結。

過剰に燃料をぶち込まれた魔力炉が過負荷からメルトダウンを起こし、その魔法少女ごと心身を燃やし尽くしてしまう事例も存在した。


それら未成熟な戦略兵器と化した魔法少女の補助を行うのも、現代の魔術師の役目である。

魔術師の中でも錬金術系統に傾倒し、結界構築士としても一定の評価を受けていたナナフシもその業務を当てられることが多く、結果戦闘の被害者を数多くみる事となった。


故に彼は覚悟する。

いつか、己が魔法少女を越える魔術師、否、魔法使いになることを――――。





 ――シロガネの魔女――





「…こんな、はずじゃなかった」


それが、一週間にも及ぶ激痛から生還したナナフシが、全身が写る鏡を見て発した第一声である。

魔法少女の、補助を行いながら戦場を駆けるため鍛え抜かれたはずの筋肉は、抱き心地がよさそうな質量の脂肪へと変換されており、全身に走っていた大きい物から小さいものまで数十に及ぶ傷跡は、卵のようにつるりとした質感のきめ細やかな柔肌へと進化している。


「…なぜだ?」


肩の凝りそうなその物を、下から持ち上げてみると大盛りのどんぶりくらいはありそうだ。

そして、さらに下。

付き合いの長い息子の姿は跡形も無く、つるりとした頼りない流線形だけが残されている。


「なぜこうなったぁ!!!」


叫んでも、雄たけびのような声は上がらず。

鶯のように耳に心地の良い、悲鳴が洗面所に反響する。

ぴったりと、190越えの巨漢を覆っていたはずのタンクトップがワンピースと化しており、ブカブカのスラックスはどこかで置き去りとなった。

駄々っ子のように振り下ろした右手は人工大理石の洗面台を砕き結界構造の床へと蜘蛛の巣を作り上げる。

短髪に揃えていたはずの頭髪が、ふわりと広がり、銀の光沢のあるシルクのように蜘蛛の巣へと広がった。


覚悟はあった。

最悪、失敗して死ぬ覚悟も、ぐちゃぐちゃに再構築されて『幻想種』として討伐される覚悟も、ましてや、どろどろになった体から脳だけ摘出して全身義体へと換装する覚悟迄あったのだ。

でも、さすがにゴリゴリマッチョの三十路間近の男して、今更、半分程度にしか見えない美少女の姿になる覚悟はキメて無かった。


「なぜだぁ…」


その日、ナナフシは両親を亡くして以来、10年ぶりにガチでマジ泣きするのであった。


半日、涙を流してすっきりしたのか。

それとも、現実逃避で本来の性質が強く出たのか、意外とナナフシの復帰は早かった。

錬金術師としての本来の技能を遺憾なく発揮すると、適当なファッション誌を見繕い女性用の下着から一式、見られても違和感のない程度の服装を用意していそいそと着替えている。

その服装が、少々スタイリッシュと中二病の狭間で反復横跳びしているは、ご愛敬といった所であろうか。


「因子投与による魔力炉の性質変化は上々。

最大出力は、現状、原初の魔力炉には及ばないが、一般的な金の魔力炉とは同等、安定度は比較にもならないな」


視覚の補助兼投影型モニターである、ごつい銀縁眼鏡をかけ、一般家庭には不釣り合いな大型の計測装置から伸びた多数の計測機器が彼女の体を所狭しと巻き付いている姿は、まるで大型の機械型『幻想種』に捕食されているような光景でもある。


「観測される魔力光の色彩は金の混ざった銀。

やはり、金の魔力は銀の魔力よりも空間元素に脳波が干渉しやすい利点がある反面、思念波にいささか敏感なようだな

現状の混ざった状態でこれほどの干渉力なら、純粋な金の魔力は過剰といっても良いかもしれない」


魔術師として戦闘もこなさないといけないため、男性であったころのナナフシは一見脳筋であったが、その実、錬金術師としてはかなりマッドな側面を持ち、肉体の改造すら趣味の範囲内であった。

そんな彼女が、一部予定外とはいえ己の研究成果の結晶を弄繰り回さないはずが無く、事実、ここまでの検査を行うのにすでに泣き止んでから半日が経過している。


「やはり、問題はこのような過剰とも言ってよい魔力炉が生まれ出るに至った経緯だな――――」


――ピンポーン――


「…客か?」


手早く、機器を引き抜きインターフォンの通話口を見ると、見慣れた女性がイライラしたような雰囲気で立っていた。


「…開けたぞ」


「相変わらずのようね」


ガチャリと鍵の開錠音を残して、徐に機器へと戻ろうとするナナフシ。

彼女は、それよりも早く部屋に踏み込むと、ナナフシの手首をつかんで機器から引きはがす。


「で?説明してくれる、一週間も音沙汰なしで、ようやく連絡が取れたかと思えばいつの間にか、弟が妹と化した上に、それが当たり前のことなのだと世界が訴えかけてくる。

……一体、あなた何をやったの?」


「やはり、認識汚染が始まっていたか

姉貴でも抗えないとなると相当強力だな…」


最初に違和感に気が付いたのは、着替えを造るために荷物を漁っていた時であった。

たまたま見た魔術師としての認識票に添付された顔写真が、撮った記憶の無い写真へとさし変わっていたのだ。

次に、魔法相互扶助協会にて管理されているデーターベース上でもすでに自分の性別は女であると書き換わっていた。


「俺としては、金の魔力炉への親和性を上げるだけのつもりだったんだがな…」


「いや、サラッと言ってるけど金の魔力炉へのアプローチは禁忌よ。

幾らあなたでも、越えちゃいけないラインの見極めは出来ていると思っていたのだけど、上司として裁かないとダメかしら?」


「直接的な干渉はしてないさ。

飽くまで俺が研究してたのは魔力炉じゃなくて、それを使用している魔法少女しか持ちえない因子の研究だったからね」


「ギリギリ……アウトな気もするけど、その研究成果がこうして存在して、しかも、世界のオーバーライドが起こった以上すでに済んでしまった話のようね。

私の監督不足か…、しかも、オーバーライドが終わってしまった以上すでに事象は完結してしまった。それだけが救いかしら、問題は、私の可愛げのない弟が、可愛い妹と化してしまったことぐらいかしらね」


現実逃避なのか、遠い目をしながらなぜか体格に見合わない膨らみをムニムニと揉まれる。


「本当に…、憎らしいほどデカいわね」


体格は本来の男であったナナフシと遜色のない姉。

しかし、鍛えすぎたのか胸筋の脂肪までも燃焼してしまった彼女になぜか、憎しみのこもった目で見られるという意味の不明な体験をする事態。


「…肩がこるだけだぞ」


「その余裕が憎たらしいのよ!」


何故、実の姉にこんな理不尽な理由で睨まれなくちゃいけないのだろうか。




体も心も現状に慣れてくるのにさらに一週間の時間が必要だった。

元来、見た目に反して研究肌の出不精の為、他者との接触によるストレスは少なく、その大半は現状の自分自身を受け入れる時間として要したものである。


しかし、さすがに通して2週間の時間が経つと嫌でも世間に接触せざる得なくなってくる。元々が高度な結界構築士としても登録されているため、『幻想種』の出現頻度が多くなると避けていた出動の機会が来てしまったのだ。

深くフードを被り体のラインが出にくい恰好をしているが、それが返って怪しく、合流した魔法少女に怪訝な顔をされたのは記憶に新しい。

しかし、それも結界を構築するために己の魔力炉を廻した瞬間吹っ飛んだ。

まるで、意思がそのまま魔法へと昇華したような。

元々、極めたといっても良い技能ではあるが、明らかに今までと精度が違っていた。

結界の出来等に興味が無いらしい魔法少女は、ため息一つ吐いて結界内に侵入してくが、同じように周りに集った他の魔術師たちが唖然として結界を見つめている。


そして、戦闘が始まった。


結界とはいわば外への被害を無くす意味合いもあるが、その一番の在り方は、戦闘のしやすいフィールドを構築することである。

例えば、魔力の動かしやすい空間。

例えば、敵の邪魔な障害物がある空間。

例えば、邪魔な障害物がない空間。

魔法少女によって、戦いやすい空間は人それぞれであり。

今回の彼女にとっても戦いやすい場所は、魔力濃度の高い空間だった。瞬間火力の高い彼女は、その実、()が受け持つことが多い魔法少女の中でもガス欠になることが多い娘であった。

そのため、彼女ように調節した空間は魔力の濃度が濃く、魔力炉への燃料が補充しやすい空間となる。


今回の結界は、言い方が悪いが出来が良すぎた。

干渉力の高くなった私の魔力は、予想外に結界に作用し、彼女の能力を一段階底上げしてしまう。

一瞬で、片付いた。

そして、立て続けに鳴る『幻想種』の出現アラーム。


本来であれば、逸って連戦するようなタイプの娘では無かった。

本来であれば、彼女より高位ランクの魔法少女が戦うべき相手であった。

そして、たまたま近場にすぐ動ける高位ランクの魔法少女がいなかった。


決着はついた。

彼女は、己の力量を見誤り、血だまりに倒れて、そして私は――――。




轟々と、胸中を駆け巡る後悔と憎しみの想い。

なんのために私は、目の前で同じように死してきた彼女たちの死を辱め、この身に因子を投与したのか。

覚悟はできていた。

それでも、足りなかった。失う覚悟も、そして捨て去る覚悟も。

ケタケタと嗤う『幻想種』を前に体を覆うコートを脱ぎ捨てる。

突風に煽られて白銀の髪が大きく靡いた。

魔法少女とは、金の魔力を使い、自らを違う自分へと昇華させる者達。


臆病な者には勇気を。

短気な者には冷静さを。

死にたがりには、生きる希望を。


相反する希望を胸に、己を金の魔力によって『転換(コンバージョン)』する魔法。

その力は絶大で、造られた意思は逆境を覆す。

しかし、因子を取り込んで魔力炉を変質しただけの私には、そんな奇跡は存在しない。


だから、この体となったときと同じように、自らを今ここで『転換』する。

新たなる―――魔法少女―――否。


―――魔女―――へと。



まるで煌めく星屑のように、倒れた魔術師達の体がほどけ銀の粒子となって残された一人へと渦巻いていく。

彼らと共に死した少女の体も解け金の粒子となってその渦へと加わった。

たった一人、残された銀の少女。

その胸元で廻る魔力炉に二色の魔力が吸い込まれ、やがて別種の、白金の魔力となって放出されていく。

怪訝な顔で眺めていた『幻想種』の体が、一瞬で抉られたように吹き飛びその先にはいつの間にか、魔女のような長いローブを揺らした少女が立っていた。



その日、世界はオーバーライドする。

ナナフシ、そして、一時存在した少女は、白金の魔女として世界に上書きされたのだった。

嘗ては戦えていたはずなのに、足手まといとなる苦悩。さらには、少女たちに死と隣り合わせの業を背負わせないといけない大人たちの苦悩。そんな悲哀のプロローグ的な何かです。

まあ、あまり設定も考えてないのでサックリした感じに仕上がりました。

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