奇跡の石像
下瞼で支えきれなかった結露が頬を伝って、涙を流す奇跡の石像ともてはやされたのは数十年も昔のことだ。
空調の整った新しい博物館に収蔵されてからは“奇跡”なぞ起こしようもなかったが、かつて涙を流したことがある奇跡の石像という説明はいつまでもついて回った。
ある時、倉庫で一緒になった作品群の中に、奇跡の絵画と呼ばれる絵があった。話を聞いてみれば、肌に使われた絵具が退色し、下にあった赤がのぞいたことで、絵画に血がにじんだと大騒動になったのだという。
人の言う“奇跡”なぞそんなものよな、と作品群は笑い合う。
倉庫から夜な夜な笑い声が聞こえると新たな噂が流れたことを、今のところ彼らは知らない。
Twitter第89回300文SS、お題は「石」でした。