「サイコロ十個振って全部六でしたら結婚して差し上げますわ」
『第3回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』投稿作品です。
指定キーワードは『サイコロ』。
サイコロの目が決める恋模様をお楽しみください。
「一年ぶりですわね」
「あの言葉はまだ有効かい?」
「えぇ」
「なら、僕と結婚してほしい」
僕は両手を開いて、十個のサイコロを見せた。
「でしたらそれを振って、六を十個出してくださいませ。六千万分の一。社長令嬢の私を得るのに相応しい確率ですわ」
「その目を出せたら、君は誰とでも結婚するつもりなのか?」
「えぇ」
「なぜそんなに自棄になってるんだ?」
「……六千万分の一をなめていらっしゃるの? 聞きたければ奇跡をお見せくださいませ」
「そのつもりさ」
十個のサイコロは青空に舞い上がり、そして落ちた。
「へぇ……」
サイコロは全て六の目を上に向けていた。
「イカサマに一年もかけましたの?」
「そう思うなら君も振ってみるといい」
「勿論ですわ」
彼女が振るが、目はバラバラだった。
初めて彼女の顔に動揺が走る。
「ど、どうしてこんな事……!?」
「約束だ。君が賭けをする理由を教えてくれ」
「……」
「嫌なら『嫌』と言えばいい。なのに君は賭けを口にした」
「……」
「まるで神に祈るような、奇跡に縋るような願いを感じたんだ。それを教えてくれないか?」
彼女は観念したように息を吐いた。
「……私は婚約者が決まっております。お相手はお金持ちですが、私をアクセサリのようにしか思っていませんの。仕事は辞めろ、家事はするな、ただ綺麗でいろとだけ……」
「……それは社長が決めたのか」
「そうですわ! ですから私は……!」
「奇跡を起こせる男がいたら何か変わるかも、そう思ってあんな賭けをしたんだね」
僕はさっきしたようにポケットの中のコントローラーを操作すると、バラバラだった目が全て六になった。
「な、な……!」
「このサイコロはプラスチック製のナノマシンの集合体だ。指示一つで瞬時に形を変える。出目の細工なんて朝飯前さ」
再び操作すると、サイコロはそれぞれ小さな人型になり、めいめいに踊り出す。
「うそ、こんな技術……、一体どれほどの……?」
「こんなイカサマに一年もかけてしまう程度の男だけど」
僕は彼女に手を差し出す。
「僕と結婚してくれないか?」
「……はい」
彼女は僕の手をそっと取った。
「あ、か、勘違いしないでいただけます!? これは婚約破棄と優秀な人材を抱え込むための作戦で、本当に恋した訳ではありませんの!」
「今はそれでいい。まずは社長を説得しないとね」
「……あの父の考えを変えるなんて、それこそ奇跡ですわ」
不安げな彼女に、僕は微笑む。
「起こして見せるさ。君のためなら」
読了ありがとうございます。
衣谷強の貴重なスパダリ描写。
ストレートに格好いい男って書くの難しくないですか? 私だけ?
次回キーワードは『映画』。
よろしくお願いいたします。