ふたりの兄妹
暗い闇の森、二人の兄妹が歩いていた。
「お兄ちゃん、どこまで歩くの…?」
オレンジ色のずきんを被ったまだ幼い妹が、眠そうに兄にそう聞いた。
「もうすぐ、もうすぐ見つかるはずだ。」
兄は強くそう言った。しかし、彼らの服はもうボロボロで体も汚れている。おそらく子供の歩ける距離の限界はもうとうに越えており、体力は底をつきているだろう。
体を引きずるように歩く妹を見かねて、兄は止まった。
「ほら、背中に乗って。」
兄はしゃがみ、自らの背中を示すように軽く叩いた。
そして妹は眠そうに聞き取れないようなお礼を言って、目を擦りながら兄の背中に乗る。
そしておぶった状態のまま、彼らはまた暗い森の奥へと進んでいった。道と言える道はなく、頼りになるのは月光のみだ。
いくら進もうとも続くのは夜空を塞ぐほどの大きな木々のみで、あたりからそれらの軋む音ばかりが聞こえる。
たまにそれらが自分たち兄妹をいつ食おうかと嘲笑う化け物のように聞こえ、兄は震えが押さえられなくなる。一方で妹は既に寝ているらしく、兄の耳元で寝息を立てていた。
妹だけでも助けねば。そう強く誓う兄だが、自らの体力はもう尽きている。一歩一歩が枷の付いたように重く、明白に限界が見えてきていた。
すると徐々に、辺りが暗くなっていった。どうやら月が厚い雲に隠れているようだ。
兄は絶望した。この暗い森は、月の光が無くなればもう
目を閉じているものと変わりはない。
野宿をしようもここは危険だ。寝ている間に妹が魔物に連れ去られようでもしたら一体誰が助ける。
焦る兄の成すべきことはただひとつ、この森をいち早く抜けることのみだった。
兄は重い足を無理矢理持ち上げ、何度も強く踏み込んだ。今、なんとか見えている空間を覚え、その方向へがむしゃらに進んでいくしかない。
そして、光は消えた。
兄は目を細めとにかく進んだ。木にぶつかるかもしれない、しかし進む以外の道はないのだ。
そしてそれは、月光の消えたすぐにやってきた。
──────光だ。
それは月光ではなかった。遠くに見える暖色の大きな光り。よくみるとそれは小さな光の集まりだった。
兄は乗り移られたように近づくと、それの光の主が建物であることが確かに解った。
「あった────」
吐息に紛れて兄はそう言った。疲労や安心、色々な感情が一気に押し寄せた彼は、妹を乗せたまま膝を付いた。
「どうしたの…?」
妹はその衝撃で起きたらしく、寝ぼけたようにそう聞いた。
「あった…!これで大丈夫だ…」
兄はそう言って、起きた妹と手を繋いでその建物へと向かった。