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婆ちゃん家(父)その一

 美緑と婆ちゃん家行ってから数日後のことだ。俺たちはまた婆ちゃん家へ行こうとしている。


「おい、行くぞ」

「今日は酒飲んでないんだな」


 前回は母方の婆ちゃん、今回は父方の婆ちゃんだ。


「俺があんなマスクつけて行ったら説教されるだろうが」


 未だに親は怖いらしい。小心者だ。

 俺が親父に呆れていると、インターホンの音が聞こえてきた。

 どうやら来たみたいだな。

 扉を開けるとやや緊張した面持ちの紫帆さんがいた。


「岩塚紫帆です。よろしくおねがいします!」

「誰に言ってんすか」


 勢いよく頭を下げてもらっているところ悪いが、今ここには俺一人しかいない。


「あ、あれ?」


 思っていたよりも緊張しているらしい。俺が言うまで気が付かなかったらしい。


「とりあえず上がってください」

「お邪魔します……」


 いつもよりも言葉数が少ない。やはり緊張しているのだろう。冗談の一つも出ないところを見るとあまり余裕はなさそうだ。

 リビングへ入ると、偉そうに腕を組んでふんぞり返っている親父がいた。


「あ、こんにちは」

「うむ」


 それに気づいた紫帆さんは挨拶をしてくれているが、親父はそっけなく返してくる。かなり愛想が悪い。


「どうせすぐボロ出るんだからそういうのやめたら?」


 健三の容赦のない一言に一瞬顔をゆがめるが、どうやら止める気はないらしい。

 そしてジロジロと人の彼女を観察してきやがる。見られている紫帆さんは居心地が悪そうだ。あとで殴っておこう。

 親父は一度頷くと、


「なるほど、君が二人目か」

「バッ!」

「二人目?」

「も、元カノの事でも言っているんじゃないかな?」


 そばにいた健三にまたもや一瞬で気絶させられた親父はそのままリビングの外へ引きづられていった。ボロを出すとかそういう問題ですらなかったな……。


「元カノ……」


 上手く誤魔化せたようだが、それとはまた別の問題が発生してしまった。元カノ発言を聞いてから紫帆さんが少しだけご機嫌斜めのご様子。


「どうしました?」

「元カノってどんな人だったの?」

「ええと……」


 いたことねぇから分かんねぇよ。俺の言い淀んでいる様子に別の意図を感じたのか不機嫌さはさらに拍車をかける。


「言いたくないんだ……」

「あ、いや、そうじゃなくてですね、えっと、後輩でした」

「どんな娘?」

「バイト先の後輩で、割とツッコミ気質な明るい娘ですかね」

「そう……」


 すまん、美緑。今だけ元カノ扱いさせてくれ!


「まあ別にいいけど。でも、」

「でも?」

「少しだけ嫉妬しちゃった」


 何この可愛い生き物。その顔を見せないように俺から顔を背けるが、一瞬だけ見えたそれは頬がパンパンに膨らんでいた。リスかよ。


「と、とりあえず行きましょう」

「あ、そうだよね、ごめんごめん」


 切り替えの早さは流石というか、先程までのやり取りがなかったかのように振る舞う。


「先、車行ってましょうか」

「うん」


 どうせ親父は例の姿だろ。

 俺が先行して進もうとすると、袖のあたりをそっとつままれる。


「どうしました?」

「手、つないでもいい……?」

「……」


 ……思ったよりも切り替えができていなかったみたいだ。さっきまでのを完全に引きづってる。


「……ダメ?」

「おっふ……」


 俺が黙っていると不安気な瞳で問いかけてきた。その破壊力は抜群であらがえるわけもなく、


「なんだったら肩車しちゃいますよ!」

「え?」


 照れ隠しでそう返すのが精いっぱいだった。


「え、ちょ、怖い怖い怖い!」


 俺が調子に乗って本当に肩車をしようとすると、割と本気で怖がり始めた。


「はは、大丈夫ですよ」

「ちょ、大丈夫じゃないって!」

「大丈夫大丈夫」


 小さい子をあやすような感覚で大丈夫と言い続ける俺。

 こうしている間にも、あちらの準備は終わってしまったらしい。


「兄ちゃん、こっちは準備できたよー、って……」


 親父を背中に乗せた健三がリビングをのぞき込んできて、目線は俺の肩の上に乗っている紫帆さんの方へ向いた。


「お取込み中失礼しました」

「別にお取り込んでないから!だから、そんなやべぇ性癖を見つけちゃったみたいな目で見ないで!」


 先輩が大慌てで否定をする。健三も意地の悪い奴だ、初対面の人間にそんな冗談をぶっこんで来るなんて。あれ?健三の俺を見る目がいつもと少し違うような……冗談、だよね?


「ていうか何そのマスク!?」


 紫帆さんはその視線以上に気になってしまったのかまだ話が一段落する前に次の話題に触れてしまう。

 しかし健三は無視をし、そのまま玄関の方へ向かっていった。


「あれ、私嫌われてる?」


 悲しそうな声が上から聞こえてくるが、位置の関係上顔が見えない。


「大丈夫ですよ。ああいう奴なんで」

「本当に?」

「本当本当」


 多分だけど。


「じゃあ、俺たちも行きましょう」

「あ、ちょっと急に動かないで」

「ぶーーーーーん」

「いやぁあああ!」


 そのままリビング出ようとしたら、真上から鈍い音が聞こえた。


「ブフッ」


 凡そ女の子から出たとは思えない声と共に聞こえてきて、見上げてみると、白目を向いて大変なことになっている先輩の顔が。


「ちょ、先輩?」


 そのまま人様には見せられないような面を晒したまま気を失ってしまった。

 これ、どうしよ。

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