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婆ちゃん家(母)その三

「あ、婆ちゃん」

「久しぶりだね、雄二」


 振り返ると、健三と共に腰のかなり曲がってしまった優しい笑みを浮かべた婆ちゃんがそこにいた。


「は、はじめまして八田美緑です」


 緊張しているのか、美緑はいつもよりもかなりどもっている。そいえば、バイト入りたての時もこんな感じだったかもしれない。もしかして初対面の相手がそもそも苦手なのか?こんななりでコミュ障なのだろうか。


「あら、可愛らしい娘ね~」


 その言い方だとまるで猫でも愛でているみたいだ。


「写真で見るよりずっとかわいいわ」

「え、雄二さん写真送ったんですか?」

「あ」

「勝手に?」

「えと」


 信じられないとばかりにこちらの事を見てくる。いや、それ健三がやったやつううう!!真犯人は自分は関係ないと明後日の方向を向いている。あいつあとでシばく。


「すみませんでした……」

「もう」

「めちゃくちゃ可愛いの送ったから!」

「なっ!……なら許します」


 こいつは可愛いと言われる耐性が結構ないらしい。言うとすぐに顔が赤くなる。


「でも、次からきちんと言ってくださいね!」

「わかったわかった」


 これで一件落着と思ったが、そうもいかないらしかった。


「え~雄二勝手に女の子の写真送ったの~」


 厭味ったらしく俺のことを煽ってくるのは一歳年下の従妹京子だった。こいつの相手なんかしないに限る。


「最低だ~」

「……」

「意気地なし~」

「……」

「甲斐性なし~」

「……」

「でべそ~」

「誰がでべそだあああ!!」

「え、そこ怒るんですか?」


 あまりの誹謗中傷に我慢できなくなった俺は京子へ襲い掛かる。


「ぎゃー!」

「待てコラ!」


 部屋中を走り回って逃げる京子を俺は必死で追いかける。


「テメェ、土に埋まって微生物に外側一ミリくらい食われて来い!」

「絶対嫌だ!食べられるならせめてワニとか大きい動物がいい!」

「テメェにそんな名誉の死があると思うなよ!」

「一体何の言い争いですか……」


 しばらくすると二人とも同じタイミングで飽きてしまった。元々なにで言い争いになったのかすら思い出せない。

 俺が京子を追い回している最中、どうやら美緑は婆ちゃんと話していたそうだ。この空間にいる唯一の常識人だ。変なのに絡まれなくてよかった。


 それから起きてきた親父に婆ちゃんが不審者だと思って電話を投げ飛ばしたりなどはあったが、大方挨拶は終わったとしていいだろう。親父はどうやら今日は泊まるつもりのようで、帰るなら明日迎えに来いとまで言われしまった。

 そして俺の意見は聞かずあのおっさんと一緒に酒盛りを始める始末。一応ここ、人の家なのだけどそれ分かってんだろうか。


「どうします?」

「どうしよ」


 美緑もこのままとはいかないので、俺が送っていくかここに泊まってもらうしかないわけだが、正直送ってくの面倒臭いな。往復四時間はかかるし。


「泊っていきなよ!」


 美緑をどうするのかを考えていると、京子がそんなことを言ってくる。


「つっても泊まる用意もないだろ」

「大丈夫大丈夫!ワタシの貸したげるから!」

「って言ってるけどどうする?」

「えっとじゃあお言葉に甘えてもいいですか?」


 こうして、その日は泊まっていったわけだが、夜は京子が女子会!とか言って連れて行ってしまったせいでほとんどしゃべっていない。まあ、

 年齢は一緒なわけだし、仲良くしたいのだろう。


 そして俺たちは俺たちで、高校生の健三ぬきでむさ苦しく男三人で酒を飲んでいたわけだが、伯父さんにこんなアドバイスをされてしまった。


「浮気だけはするなよ」


 その場の空気が一瞬で固まっだような気がした。


「は、はははそんなことするわけないじゃないか」

「そ、そうだぜ、なんたって俺の息子だからな!」

「はは!そうだよな!でもな、浮気をするとバレたときがホント怖いんだわ」


 どうやら実体験だったらしい。その話を俺は冷や汗をたらたらと垂らしながら聞いていた。


 そして翌日、いつの間にそんなに仲良くなったのか。京子は美緑に抱き着いて別れを惜しんでいる。昨日飲み過ぎたせいで今日も使い物にならない親父は例のごとくマスクをつけられ健三に背負われている。


「また話そうねえええ」

「もう、根性の別れじゃないんだから」


 呆れ気味ではあるが、そこには確かに友情のようなものが見える。あの京子と友達になって大丈夫か。悪影響がないか心配だ。


「じゃあ婆ちゃん、また来るから」

「気をつけて帰るんだよ」

「次は菓子折りでも持ってこい!」


 貴様にそんなもの持ってきてたまるか。


「次はどんな彼女を連れてきてくれるのかしら」

「伯母さん!?」


 その一言に場の空気は凍ってしまう。何より、俺の心臓はバックバックと鳴っていた。


「な、何言ってるんですか~、次もその次もずっとこいつですよ」

「あら、そうよね。またいらっしゃいね美緑ちゃん」

「ありがとうございます」


 美緑は若干頬を赤らめながら返事をする。

 さっきまでの空気を完全にぶち壊した俺かなりファインプレーだろ。健三は安心したように溜息を吐いた。


「よし、じゃあ帰るか」

「はい!お邪魔しましたー」

「またねー、婆ちゃん京子ちゃんも」


 最後に健三も挨拶をして俺たちは車へ乗り込んだ。

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