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婆ちゃん家(母)その二

 道中は、親父が眠ってくれているおかげで随分と平和的に進むことができた。健三もたまにバイト先のカフェには来るので二人は顔見知りではあるし、健三のコミュ力がそこそこ高いのもあって気まずくならずに済んだ。

 そして、とうとう婆ちゃんの家に着いた。二時間という長い距離にも拘らず一切目を覚まさなかった親父が少し心配であったが、健三が大丈夫というのだ、信じよう。

 インターホンを押すと、なにやら中で慌ただしく動いているのが聞こえてくる。……頼むから変なことだけはしないでほしい。

 勢いよく扉が開きそこに待ち構えていたのは我らが親戚伏見一家。


「「「ハッピーニューイヤー!」」」

「ようこそ!わが家へ!」


 そしてそれぞれの持っていたクラッカーを鳴らす。


「お、おい、これどうやって鳴らせばいいんだ」


 若干一名クラッカーの鳴らし方が分からないおじさんがいるが、それもこの伏見家の一員だ。このノリ最近どこかで見たぞ。


「「…………」」


 俺たちが反応に困っていると、はまっていないのが分かったのか、一度後ろへ下がりなにやら話し合いを始めた。


「おい、京子。どういうことだ。全く受けていなぞ」

「おかしいなぁ、雄二だったらこれくらいしたら喜ぶと思ったんだけど」

「確かに、雄二君ってこういうの好きそうだものね。昔っから子供っぽいところあるし」


 全部聞こえてんぞ、おい。

 急展開についていけていない美緑はしばらくフリーズしていたが、持ち直したのか気を遣って話しかける。


「あの、はじめまして八田美緑です」

「あら、はじめまして雄二君の伯母の伏見早苗です」

「伏見京子です!」

「伯父の伏見真一です」

「「「三人合わせて伏見一家です!」」」

「あ、はいよろしくお願いします」


 三人でポージングを決めたにも拘らずそこには触れず挨拶をされた三人はまた何やらコソコソと話し始める。

 美緑も美緑で俺の親戚ということもあり気を遣っているのだろうか、一切ツッコミはせず優しい笑顔で流し続ける。


「この娘おかしいのか?何も反応しないぞ」

「ほら、やっぱり雄二の彼女だからちょっと変なんだよ」

「またそういうこと言って、かわいらしくていい娘そうじゃない」


 本人に聞こえるところで全部言うなよ。流石に美緑も頬をヒクヒクさせてるぞ。相変わらず周りの見えていない家族だな。

 この人たちに任せていると一向に中へ入れそうもないので、俺が説明をする。


「この人たちが俺の親戚だ。見ての通り頭はおかしいが悪い人たちじゃないから許してやってくれ」

「は、はあ」

「悪い人たちじゃないって!」

「照れるなぁ……」

「雄二君もいい子に育ったわね」


 まずは頭おかしい認定されたことを気にした方がいいと思う。


「それより早く中に入ろうよ」


 健三はずっと親父を背負っていて重かったのだろう。少しだけ疲れた様子を見せる。


「って、何だそのマスク!」


 今気づいたのかよ。伯父さんは少し大袈裟に驚く。多分、中身が誰か分かってはいるのだろうけど。

 誰も相手をする気がないのか、伯父さんのリアクションは無視して中へと入っていく。


「いいんですか?」


 美緑だけが少し気にしているようだが、無視されたのも気にした様子はなくついてくる。


「いつものことだから大丈夫だ」

「そうなんですね……」


 少しだけ憐れんだ視線を送りつつもそれ以降は気にしないように努めている様子だった。


「えー、改めまして、伏見家の方々です」

「「「どうもー」」」

「ど、どうも」


 こいつらは芸能一家か何かだろうか。さっきも自己紹介していたが、あれじゃあ頭に入っていないだろう。改めて紹介しておこう。


「右から順に、伯父の伏見真一。この人は無視しといていいぞ。真ん中が俺の従妹にあたる伏見京子。こいつは一番頭がおかしい。関わらない方がいいぞ。左が伯母の伏見早苗。一番まともではあるが、ものすごく馬鹿だ。話しているとバカが移るからやめた方がいい」

「ものすごく辛辣じゃないですか!?……まあ、本人たちは満足そうにしていますけど」


 俺はかなり酷いことを言っていた気がするんだけど、当人たちはなぜか胸を張りドヤ顔をしている。

 親父はまだ起きておらず、健三が別室へ連れて行った。


「そいえば婆ちゃんは何処だよ。なんで三人だけなんだ?」


 俺が質問をした途端に三人の顔が曇る。もしかしてなんかあったのか?テンションはいつもよりも高く感じたけど、もしかしてそれを悟らせないように空元気を出していたのか?


「ああ、お母さんはな、昨日」

「……昨日?」


 この並々ならぬ雰囲気に美緑も心配そうにしている。


「元気にウナギを食べていたぞ!」

「んなこったろうと思ったよ!ふざけやがって!」

「ドッキリ大成功!」

「いぇーい!」


 おっさんは楽しそうに笑い、母娘は隣でハイタッチをしている。もしかしてここまで考えていたのか?アホなのか?

 既にこのノリにも少しだけ慣れてきたのか、美緑は呆れたような顔をしている。


「雄二さん、この人たちはいつもこんななんですか?」

「ああ、やかましいことこの上ない」

「でも、賑やかで楽しいです」


 呆れたように、でも本当に楽しそうに笑うもんだから俺もこいつらのことを少しは寛容な心で許せそうだ。


「おや、楽しそうだね」

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