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夏祭り その八

「京子ちゃん、こんなところにいた……って、あれ?」


 朱音は京子を発見すると、すぐさまその隣にいる俺の方へ目を向ける。


「雄二君?」

「よ、よう」


 今、俺と京子はかなり近い距離にいる。何だったら肩を組んでいて、普通の男女の距離感には見えない。朱音はそれを理解すると、途端に目を細めて、俺のことを睨んでくる。


「どうして二人が一緒にいるの?」

「実は俺たち従妹なんだ」

「え、そうなの?」


 俺が一言説明すると、細めていた眼を大きく見開き、その真偽を京子に尋ねた。


「そうですよ!実はワタシたち従妹なのですよ!」


 一切の動揺を見せずに、堂々と言い切った京子を見て納得したのか、先程ゆらゆらと浮遊してきた怒りは、なりを潜めた。


「そうなんだ!すごい偶然だね!」


 先程とは打って変わり、嬉しそうにぴょこぴょこと跳ねる朱音。可愛らしくて、つい惚けてしまった。しかし、それがよくなかった。



「随分とだらしない顔をしているのね、雄二」

「ちょっと人様には見せられないような顔でしたよ?」


 にこやかに話しかけてきた二人は、その表情とは裏腹に、俺に向ける視線は何処か冷たかった。


「あれ?」


 すると、朱音もその二人のことに気づいたのだろう。一度であったことがあるということに。そして、俺の方を向き、どういうことだとふくれっ面で視線を向けてくる。


「……ワタシ帰っていい?」

「絶対にダメだ」


 あまりの空気の悪さに、京子は帰ろうとするが、俺はそれを全力で止める。そもそもこんなにも空気が重い原因はというと、この京子にあるのだ。

 そもそもこいつが、きちんと俺と連絡を取り合っていれば、ここにいるはずもなかっただろう。そして、紫帆さんに問い詰められることも、朱音がここに来ることもなかったはずだ。絶対に逃がすまいと、その腕をぎゅっと握りしめる。


「……イタイ」

「我慢しろ」


 しかし、それはこの場において火に油を注ぐようなものだったらしい。

 三人は京子の腕を握りしめている俺の手を凝視し、懐疑的な目を向けてきた。


「さっきから思ってましたけど、なんだかやけに仲良くないですか?」

「うん、唯の従妹とは思えないくらい」

「そういえば、従妹って結婚出来るんだっけ……」


 その不穏な発言に俺と京子は千切れんばかりに首を振り、全力で否定を示す。


「こんな頭おかしい奴と怪しい関係になってたまるか!」

「そうだよ!雄二みたいなバカとなんてお断りだよ!」

「「ただのいとこだよ!」」


 目の前の三人は納得は示したものの、未だに不快そうに眉を顰めている。


「雄二はバカだけど良いところだってあるんだよ」


 紫帆さんがそう言うと、美緑もそれに頷きながら


「確かに、普段の奇行は目立ちがちですけど下手くそでもきちんと気の仕える人です」

「雄二君優しいもんね」


 何故か急に俺が褒められるという、謎の時間が始まった。背中がむずがゆくなるような、そんな感覚に襲われる。


「ワタシ帰っていい?」


 先程と同じ言葉を、先程とは違う居心地の悪さを感じながら口に出す京子。その顔は佐藤をはちみつで煮詰めたものを飲んだような、そんな顔になっていた。

 しかし、そんな時間が長く続くはずもなく、


「ところで、雄二君はどうして女の子とこんなところにいるのかな?」


 先程の空気で忘れていたが、これまでの経緯を一切知らない朱音からすると、俺は今複数の女子に囲まれているハーレム野郎に見えるだろう。彼女という立場からすると、到底許せないような、そんな状況である。

 しかし、咄嗟に言葉が思いつかない俺は、助けを求めて京子の方を向く。え、ワタシ?そんな言葉が飛び出してきそうな顔を見せつつも、先程の挽回をしようとしたのか、俺の代わりに説明役を買って出てくれた。


「ワタシが来た時には、雄二はそこの二人と一緒にいました」

「お前俺のフォローする気ねぇな!?」

「しまった、つい」

「お前役に立たねぇどころじゃねぇよ!」


 朱音の目はさらに鋭くなり、どういうことだと説明を求めてくる。


「はぁ」


 そのタイミングで、美緑が一つ溜息を吐いた。


「雄二さんはバイトのメンバーで一緒に祭りに来ていただけですよ。だから私も一緒にいたんです。そこのお姉さんは、サークルで屋台を出していたところに、偶然鉢合わせただけです」


 俺がテンパってどう説明すればいいか分からなくなっていたところを、美緑が完結に説明してくれた。前の時もそうだった。俺が困っているとき真っ先に助けてくれたのは美緑だった。俺は、助かったと安堵の息を漏らすと同時に、美緑に目でお礼を言っておく。

 美緑の説明のおかげもあって、朱音も納得してくれたようで、先程の攻め立てるような空気は霧散していた。


「もう、それならそうと言ってくれればいいのに」

「いやー、ははは、俺説明下手だからな」

「ホント雄二はバカだよね~」

「お前本当に殴られたいのか?」


 すぐに調子に乗り始めた京子のことを本気でどうしてくれようかと考えていると、なにやら三人がお互いを牽制し合うようにチラチラとお互いのことを見始めた。

 どうしたんだ?と聞ける雰囲気でもない。どうしよう……うん、こんな時はあれだな。


「俺、トイレ行ってくるわ」

「えぇ!?」


 急に焦りだした京子を置いて、俺は一人トイレへと向かった。

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